「安全」で信頼をつくる
空の世界のプロフェッショナル

航空・マネジメント学群

神戸清行 教授


技術の粋を集めた航空機。神戸清行教授は、その製造の難しさと、運航に求められる高い基準に、長きにわたり向き合ってきました。近年、そんな神戸教授のもとから巣立った卒業生たちが、航空業界で存在感を放ち始めたといいます。背景にある、桜美林が重んじる教育について聞きました(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。

航空業界で注目される
桜美林の学生たち

畑山:日本航空に長年勤務した神戸先生は、整備部門のプロフェッショナルとして活躍されました。桜美林大学に来られて6年半になりますね。

神戸:着任当初は「ビジネスマネジメント学群」の「アビエーションマネジメント学類」で教えていました。 2020年からは、新たに誕生した「航空・マネジメント学群」へ。世界の空を担う、さまざまなスペシャリストを育成するプログラムを整えてきました。

畑山:ビジネスマネジメント学群のアビエーションマネジメント学類では現在、航空業界の幅広い仕事をめざす「エアライン・ビジネス」、キャビンアテンダントやグランドスタッフを目指す「エアライン・ホスピタリティ」の2コースがあります。そして、先生が所属する航空・マネジメント学群では、「フライト・オペレーション」「航空管制」「整備管理」「空港マネジメント」の4コースを設けているわけですね。新たな学群での手ごたえはいかがですか?

神戸:航空・マネジメント学群には、優秀な学生が集まってますし、多くのエアラインパイロットを輩出してきたフライト・オペレーションコースの学生だけでなく、航空・マネジメント学群開設時に新たに設置した他3コースの学生も、就職活動時に大手の航空会社から高い評価をいただくようになりました。我々の教育が、航空業界、そして社会的にも広く認知されてきたようです。古巣・日本航空の後輩に桜美林大の学生の評判について尋ねると、「桜美林の学生さんは人柄が良い」「将来、重要なポジションに就くであろう人材もいる」とのことです。また、採用担当者曰く「他大学の学生と違うところがある」ということでした。

畑山:それは、どういうところでしょうか。

神戸:まず、「実践的な英語を使える学生が多い」ということ。そしてもう一つ、これが最も大切なことですが、「安全に対する意識が身体に染みついている」という点です。だから安心感があると言われ、たいへん嬉しく思いました。私のゼミでは、エアバス社の「A320APT」という航空機のプロセジャートレーナーを使用して、「航空機の信頼性管理」に関する研究を行っています。「信頼性管理」は航空会社の業務の基本で、信頼のもとに安全を提供するというものです。

航空・マネジメント学群では、訓練や実技、講義を通じて、この意識を培います。どのコースのカリキュラムも航空法に基づいていますが、この法律の大前提は「安全」です。そうやって学生には自然と「信頼性管理」の考え方が身についていくのです。

通常、航空会社では入社後数年間かけて社員に安全教育を行いますが、航空・マネジメント学群では既にそれが実践されていると言えるでしょう。就職活動では学生一人ひとりのエントリーシートや面接時の応答に、その学びが的確に反映され、企業側から見ると、安心感につながるようです。

航空機の製造は
なぜ難しい?

畑山:それは頼もしい限りです。ところで神戸先生は、学生時代に機械工学を専攻されたそうですが、そこから日本航空に入社された経緯は。

神戸:大学の指導教授が熱力学の専門家で、私の先輩は航空宇宙技術研究所(NAL、現 JAXA航空技術部門)で、飛行実験機「飛鳥」に搭載されるジェットエンジンの燃焼器をつくるべく基礎研究をしていました。私はそこに預けられ、研究を手伝っていたのです。ちょうど国が、国産ジェットエンジンの開発に本腰を入れ始めた頃です。

そして日本航空にも先輩がおり、「最新のジェットエンジンについて勉強してきなさい」と言われ、同社のエンジン部門で働くことに。今でいう「インターンシップ」のようなものですね。そして卒業後、そのまま就職することになりました。

畑山:なるほど。太平洋戦争に敗れてから、日本の航空機製造は長らく停滞していたそうですね。

神戸:特にジェットエンジンにとって重要な、高温・高圧に耐え得る金属材料のノウハウが、米国からもらえなかったことが、要因としてあります。日本のジェットエンジンが米国で売れないように、米国がライセンスを供与しないのです。売れないエンジンなら、つくっても意味がないですからね。

畑山:「YS-11」は良かったのですか。第ニ次世界大戦後に初めて、日本が開発した旅客機ですよね。

神戸:「YS-11」は、日本の「型式証明※1」と「耐空証明※2」は持っていたのですが、米国の航空会社からの受注は、さまざまな理由から限定的でした。

※1「型式証明」:航空機の型式ごとに行われる、設計・製造が定められた安全基準に合格しているという証明。
※2「耐空証明」:航空機の強度・構造・性能が安全性、環境保全のための技術上の基準に適合するかを検査し、基準に適合していると認める証明。 自動車でいう「車検証」。

畑山:日本ではその後、本田技研工業が開発した小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」や、三菱航空機が開発に取り組みながらも、中止されてしまった「Mitsubishi SpaceJet」がありますよね。

神戸:「ホンダジェット」が三菱航空機と違うところは、米国で設計されたことです。本拠地も米国にあって、米国の「型式証明」を先に取得しました。日本の「型式証明」を取ってから米国の「型式証明」を取るには制限されるけれども、米国で取った「型式証明」はワールドワイドで認められる。そこで売れる・売れないに差が出るのです。

畑山:すると「ホンダジェット」を日本で飛ばすとなると、輸入する格好になるのですか。

神戸:そうです、輸入です。「型式証明」「耐空証明」の話をしましたが、生産するにあたっても、またいくつもの認定やライセンスがあります。これもなかなか米国、欧州の航空当局は認めてくれません。何万点とある飛行機の装備品や部品一つひとつにも、認定やライセンスがあるんです。

航空会社に欠かせないエアラインエンジニアを目指し
大いなる成長を

畑山:日本航空に勤務されていた頃に、米国・ボーイング社に出向されたそうですね。そこではジェットエンジンの開発を?

神戸:いえいえ、ボーイング社の航空機に搭載されるジェットエンジンは、主に3社(プラット・アンド・ホイットニー、GE、ロールス・ロイス)で開発、製造が行われています。少々、込み入った話になりますが、当時、日本航空は、ボーイング社が新規開発中の「ボーイング777」のローンチカスタマーの一員でした。ローンチカスタマーというのは、ボーイング社に対し、製造開発を踏み切らせるだけの充分な規模の発注を行い、その新型機製造計画を立ち上げる後ろ盾となる顧客、という位置づけです。

ボーイング社も一社だけでは航空機をつくれなくなり、製造段階から各国の航空機部品製造メーカーや、航空会社の意見を採り入れるようになりました。私は、航空機に搭載するジェットエンジンと機体のインターフェースに関わる設計に参加しました。当時は、数々の新技術が機体やジェットエンジンに採用され、故障情報システムなどの、航空機の信頼性を上げる新しいテクノロジーが次々と入ってきた頃でした。

畑山:飛行機の歴史を考えると、政治が絡んだり、経済が絡んだり、技術革新が絡んだり、じつに面白いですね。ずっと先生のお話をうかがっていたい(笑)。学生さんが羨ましいな。それから、航空・マネジメント学群の立ち上げにあたり、私は神戸先生のご専門である「整備」という仕事の奥深さを知りました。

神戸:航空全般について定める法律「航空法」に、航空運送事業にかかわる二つの重要な規程があります。一つは「運航規程」。この規程で現場に関わるのは、パイロットと客室乗務員です。もう一つは「整備規程」。飛行機という商売道具を、製造当初の性能や品質を維持していく、つまり信頼性の管理のために、航空会社として航空機を整備する方式を規定する規程です。この「整備規程」で現場に関わるのが整備士です。航空法に規定されたライセンス「一等航空整備士」をはじめ、社内資格を含め必要とされる資格がたくさんあり、整備士一人ひとりは技量をずっと維持しなければいけません。その「運航規程」と「整備規程」を揃えたうえで初めて事業の認可がおり、航空会社が成り立ちます。整備はとても大切な根幹なのです。

琵琶湖で開催される「鳥人間コンテスト」への出場を目指すサークル「Ciel」
エアバス社の機体「A320」の訓練装置(APT)を使用し、その構造や安全運航を学ぶサークル「Simfinity」両サークルの顧問も務める

畑山:先生が伝え続けておられる、航空機の「信頼性の管理」につながる話ですね。

神戸:学生たちは、授業や訓練や海外研修を通じて高度な専門性を培っていくうちに、皆、別人のように成長し、身体も精神も一回り大きくなります。身体が大きくなるのは、海外でお肉をたくさん食べてくるからでしょうけど(笑)、「ひと」としての在り方が一回り成長するんです。「信頼性の管理」が、いかに大切であるか身に染みて分かるのでしょう。

2023年には、多摩アカデミーヒルズをリニューアルして、教育拠点もさらに充実しました。日本で唯一の、航空学を専門に学ぶ学群で、航空界のスペシャリストを目指し、切磋琢磨してほしいと思います。

文:加賀直樹 写真:今村拓馬

※この取材は2023年6月に行われたものです。

関連記事

ページの先頭へ