観光立国と
超高齢社会へ向けた
交通システムを展望

航空・マネジメント学群

戸崎 肇 教授


コロナ禍で逆風が吹く、交通・観光業界。日本航空での勤務経験もある戸崎肇教授は、「いまこそ観光立国への整備を進める好機」と言います。超高齢社会における交通システムの在り方とともに、これからの展望を聞きました(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。

「世界を跨ぐ仕事」目指し
墜落事故の翌年に日本航空へ

畑山:戸崎先生が交通分野に関心を持つようになったのは、いつ頃ですか。

戸崎:京都大学経済学部3年生の時、各国から集まった若者が帆船で世界を回る「オペレーション・ローリー」という企画に参加したんです。その時、世界を跨いだ仕事に就きたいと思い、「航空会社なら」と考えたのがきっかけです。そこで日本航空を受験したところ、最終面接を受けた1週間後、御巣鷹山で「日航機墜落事故」が起きました(1985年8月12日、羽田発伊丹行き日航機が群馬県の山中に墜落。乗客乗員524人のうち520人死亡、生存者4人)。内定を辞退されるのではと焦った会社から、何度も電話がかかってきたことを覚えています。翌年4月に入社式を迎え、配属されたのは羽田空港。社内訓練を担当してもらった先輩社員は、お父様を墜落事故で亡くされた方でした。今思うと、様々な人間模様がありましたね。

畑山:その時期に入社されるとは、運命みたいなものですね。

戸崎:あの時は厳しかったですね。ジャンボ機を飛ばしても、お客さんが2、3人しかいないということもありました。日本航空には8年9カ月、在籍しました。羽田の次は福岡に転勤し、営業に従事。航空券を旅行会社に売り、ツアーを組んでもらうんです。仕事は楽しかったですが、銀行員になった同窓生と比べれば、取り扱う額はたいしたものではありません。当時はバブル絶頂期でもあり、「本当にこれで良いのかな」と自問するようになり、母校の恩師に相談に行きました。京大に新設された社会人大学院に進むことになったのは、それがきっかけです。

コロナ以降の航空業界
観光需要増へ向けた整備を

畑山:以降は学究の道に進まれます。航空業界のビジネスモデル、観光経済の成り立つ政策論などに焦点をあてておられますが、コロナ以降の航空業界は、どう変わっていくのでしょうか。

戸崎:かなり再編が進んでいくでしょう。LCC(格安航空会社)はビジネスモデル自体が根本的に問われます。大手航空会社も、コロナ対策前提の運航に変えざるを得ない。乗客の詰め込みは不可能で、いわゆる日本的ホスピタリティの特徴である、間合いの近い機内サービスも難しくなる。航空会社の倒産が増えたり、「いったん国有化を」との流れも起こったりするでしょう。その後、新たなる民間企業としてどう再生できるか——。航空業界はこれから4、5年、厳しい勝負に臨むことになると思います。

一方で、「旅に出掛けられない」ストレスは今後、一気に発散されるでしょう。その時、爆発的な観光需要が新たに発生すると確信します。観光立国への道を駆けあがるために、コロナ対策だけでなく、航空保安といったインフラ面をどう整備していくか。いまこそしっかり見つめ直す好機です。

テクノロジーで支える未来には
想像力が不可欠

畑山:先生は航空業界のみならず、交通政策全般について研究されていますね。いま、自動車の自動運転など、交通手段の技術的進歩が起きています。少子高齢化の進むなか、IoT(モノのインターネット)によって、AIが老いゆく我々を助けようとしてくれそうです。先生はどんなご見解をお持ちですか。

戸崎:少し前の話題といえば「高齢者の運転事故」。社会問題化し、運転免許証の自主返納が相次ぎました。それでも、やはり地方在住の場合は車がなければ大変です。家に閉じこもらずに、できるだけ外出してもらうとなると、キーポイントは「自動運転」。テクノロジーで支えつつ、安全に運転してもらうことが重要になります。

もう一つは、畑山学長のおっしゃる通り「IoT」です。交通の世界では「MaaS(マース)」——"Mobility as a Service"(サービスとしての移動)が進んでいます。バス、電車、タクシー、ライドシェア、シェアサイクルなど、あらゆる交通機関をITで結びつけ、効率よく便利に使えるシステムのことですが、その担い手である運転者が不足している。電子商取引と同様で、システムが発達しても、動かす人がいなければ意味がないのです。これをどう解決するかが私の大きな研究テーマです。

畑山:桜美林大学では、客室乗務員を目指す学生向けの教育(ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類)と、航空管制や整備管理、空港マネジメントに関する教育、パイロットを目指す学生向けの教育(航空・マネジメント学群)が行われています。学生たちに向けて「これはちゃんとやっておくべし!」ということはありますか。

戸崎:航空・マネジメント学群では、管制や整備、あるいは空港というものを隣接して学べます。こういう学校は他にはないんですね。専門的に各コースが設定され、しかも彼らが同じ学びの場を共有し、総合的に航空専門職の在り方を考えていく。スペシャリティを持ちながら、その垣根を越えお互いを刺激し合えることは、美点だと思います。一方で、教養教育は非常に重要だと考えます。特にテクノロジーを扱う人には歴史や文化を学んでほしい。そうした素養なしに、技術だけで物事を考えてはまずい。いま、世の中が欠いている「想像力」を磨いていってほしいと思います。

文:加賀直樹 写真:今村拓馬

※この取材は2020年7月に行われたものです。

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