メインコンテンツ
デザインへの興味から日本画の世界へ
さまざまな表現を模索し続けた大学時代
日本画という伝統的な視覚芸術を現代的で時代性を意識して表現し教育しているのが、芸術文化学群の藤崎いづみ教授だ。武蔵野美術大学卒業後、東京藝術大学大学院の博士課程まで進み、日本画の表現技法を極めた。日本画材は「岩絵具(いわえのぐ)」という、天然絵具、新岩絵具など種類と色数が豊かで美しく、粒子の大きさで色の濃さが変化してその質感が魅力的であるらしい。そんな藤崎教授のヒストリーを追っていこう。
最初は、デザインに興味があって、美大に進学したという藤崎教授。また、小学生の頃から「絵の道に進みたい」という気持ちはあり、大学受験の時に美大のデザイン科でも広義に表現を学べる環境を調べ、武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科に進学した。
「美大は、単科大学が主流です。特に80年代は現在の桜美林大学芸術文化学群のような、総合大学で幅広く学べるような教育環境はあまりありませんでした。そこで、幅広くクリエイティブな表現が学べる学科を希望し、高校や美術予備校の先輩に進路相談し、武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科に進学しました。そもそも私は大学では何を表現していいのか、暗中模索し、さまざまな表現にチャレンジし続けていました」
「藤崎さんはアーティスト志向だから、その道に進んだ方がいい」
大学のカリキュラムには空間デザインやグラフィックデザイン、日本画や立体造形もあり、「今思えば、まるで本学群ビジュアル・アーツ専修のようだった」と語る藤崎教授。課題では暗中模索しつつ自由な表現作品を提出していた。すると同級生から「藤崎さんはアーティスト志向だから、その道に進んだ方がいい」とアドバイスされたという。これを基点にデザイン的な日本画の感性につながっていく。
さらに転機になったのは、学部3年次の終わりに東京藝術大学大学院の修了制作展を見に行ったこと。そこで刺激を受け、大学卒業後、東京藝術大学大学院への進学を決意した。
大学院で日本画の「岩絵具」の色彩に魅了される
「繧繝彩色」「宝相華文様」を模写する課題を学修
日本画と本格的に出合うのは、東京藝術大学の大学院一年の時。当時、宇治平等院鳳凰堂の本堂の壁⾯⽂様「繧繝彩⾊(うんげんさいしき)」「宝相華⽂様(ほうそうげもんよう)」の修復研究者の教員による⽇本画の授業があり、そこで伝統的な表現技法を知ることになる。これを模写する課題があり、藤崎教授は、⽇本画の奥深さに触れていく。
「『繧繝彩色・宝相華文様模写』の古典美術模写の課題により、日本画材の岩絵具の美しさに魅了されました。この課題は桜美林大学の私の日本画の授業でも取り入れており、私が大学院時代の授業資料を引き続き受け継いで学生指導しております。また、常に自然物をスケッチすることを意識し、上野東照宮の牡丹園や都内の植物園、熱帯植物園、伊豆大島椿公園や房総の雛罌粟畑などに行き、日々スケッチしました。また古典美術を学び、そこから独自の主題を追求するように指摘されたことが基点となり、今の制作表現につながっています」
その経験を重ねるうちに、藤崎教授の作品にとって、自然、特に「花」が重要なモチーフとして定着していった。
西洋と日本の美術を鑑賞し学修
大学院1年次だったこの時期、ヨーロッパを周遊し、有名美術館を巡る旅行をしたことも藤崎教授のキャリアに大きな影響を与えた。1回の旅行で、ギリシャ、イタリア、スイス、オーストリア、ドイツ、オランダ、ベルギー、フランス、スペイン、イギリスを巡り、古典宗教絵画からルネッサンス絵画、印象派、現代アートまで、美術の教科書に載っていた西洋美術を現場でリアルに再解釈することができたという。
この時期、日本国内の絵画にも触れた。東京藝術大学創立100周年記念展で東京藝術大学所蔵の美術作品を鑑賞する機会に恵まれた。
また、先生から勧められた画家の個展は必ず足を運び、重要文化財や古美術、狩野派や琳派そして近代、現代の日本美術は出来る限り見尽くし、同時に西洋絵画も鑑賞するため日本の各地の美術館巡りをした。印象的だったのは和歌山県にある『串本応挙芦雪館』。円山応挙と長沢芦雪の作品を観て、その技法を細かく学んでいった。
ほかにも与謝蕪村、菱田春草、川合玉堂、伊藤若冲、竹内栖鳳、加山又造、⼩野⽵喬、堅山南風といった日本画家の作風も自分なりに解釈し、吸収していった。また、女流画家の上村松園、片岡球子、小倉遊亀の作品からも大きな影響を受けたという。そして博士課程在籍中に初個展を開催した。その後、様々な画商や企業のご縁に恵まれ個展、収蔵作品などのお仕事に携わっていく。
日本画のモチーフは「花」から「地球」「宇宙」へ
「宇宙の美」を表現するには
「岩絵具の粒子」で「宇宙の粒子」の美を
藤崎教授が、日本画を描く際に特に重視しているのは「たらし込み」や「にじみ」と呼ばれる技法だ。琳派(りんぱ)の技法の「たらし込み」は、絵の具や墨が乾く前に別の色を加え、自然な陰影や立体感を生み出すもの。この技法を自分なりにアレンジし、独自の表現を追究しているという。
「桜は私がずっと描き続けている主題です。この作品は、宇宙観に、桜を咲かせて華やいだ空間を仕立てました。これからも桜美林大学の『さくら』の意を大切に、ずっと『桜』は追求していきたいです。そして、この作品は国立新美術館で開催している『雪舟国際美術協会展』で、2016年に特選を受賞しました。毎年この協会展には大学生特別出展・桜美林大学学生コーナーとして、ゼミ学生の日本画作品も同じ会場に出展させて頂いています」
作品テーマも、「花」から「宇宙」へと広がっている。これは、桜美林大学とJAXA宇宙科学研究所が共同で行った「宇宙フェスタさがみはら 2016」での教育研究と表現がきっかけだった。相模原市立博物館で行われたイベントで、宇宙をテーマにした音楽と映像を融合させる企画である。アクティブラーニングの試みとして学生作品と藤崎教授の日本画作品を合わせメディアアート化した。そして音楽専修教員作曲楽曲の生演奏に合わせ、博物館プラネタリウムに投影した。これを起点に宇宙の広がりや神秘の表現に強く惹かれるようになったという。
「近年、宇宙や地球をテーマにした作品を制作しています。最も巨大な自然物『宇宙』に包まれた『地球の自然』『日本の自然』を、日本画の岩絵具の『にじみ』の技法表現にこだわり制作しています」
日本の美意識について
「日本の美意識は非常に繊細で、自然との調和を大切にしています。思うに日本の自然を脈々と伝えた視覚芸術は日本画で、それは日本画の岩絵具での筆使いが自然を描くのに適し、つまり自然は岩絵具を溶くように、滲むように変化し美しいと考察します。江戸時代に本草図説という、博物画の和綴本が刊行されました。これは『本草学』といって自然科学の分野研究のための原色百科事典です。すべて手描きで、動物から植物まで、江戸の絵師が自然に敬意を払って丁寧に写生しました。日本古来の自然への想いは、歴史や時を越え、今も受け継がれています。
そして、2025年8月に伝統的な日本画をメディアアート表現、デジタルテクノロジーと日本の美意識を融合し、私の作品を展開した素晴らしいご縁がありました。『EXPO2025』大阪・関西万博イタリア館の劇場でのオペラアリア・ナイトコンサートプログラムのデザインに採用、ステージのバックスクリーンに作品が投影されたのです」
教員紹介
Profile
藤崎 いづみ教授
Izumi Fujisaki
1962年、東京都生まれ。1986年武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。1989年 東京藝術大学大学院 美術研究科 デザイン専攻 修士課程修了(芸術学修士)、1994年 同専攻博士後期課程単位取得満期退学。2000年より桜美林大学文学部総合文化学科講師。同総合文化学群教授を経て、芸術文化学群教授。専門は、日本画、ミクストメディア。
教員情報をみる<at>を@に置き換えてメールをお送りください。
