12月2日から14日まで新国立劇場(東京都渋谷区)で開催される演劇『スリー・キングダムス』(英国のサイモン・スティーヴンス氏の作品)をめぐる、演出家の上村聡史氏と、舞台の一つエストニア研究を専門とする本学リベラルアーツ学群の大中真教授の対談が同劇場のウェブサイトに公開されました。
物語の舞台は英国のロンドン、ドイツのハンブルク、エストニアのタリンと展開します。演劇のなかで描かれるエストニアおよび首都タリンの様子や歴史、国民性などについて、出演者を対象とする特別講義の依頼が初夏にあり、大中教授が中秋に新国立劇場に招聘されました。
『スリー・キングダムス』は、イギリス人刑事が同僚と一緒に猟奇殺人を調べ、国際的犯罪組織を追う中で、最後にタリンに辿り着くという内容です。現代社会の闇を抉る「戦慄のサスペンス」劇で、「グローバリズムと資本主義がもたらす影、善と悪の曖昧さ」を問いかける作品です(公開チラシより)。新国立劇場のスタッフからあらかじめ要望されたことは、日本でも広く知られているとはいえないエストニアという国について、国の成り立ち、社会的状況、文化、国民性、警察など行政について、直接話をして欲しいということでした。
劇場内では、最初に演出家の上村氏と大中教授が2時間ほど対談を行い、上村氏からは台本に関係するエストニアの現状について、多くの質問が出されました。これに対して大中教授からは、エストニアが長年苦難の歴史を歩んできたこと、帝政ロシア、ナチス・ドイツ、ソ連邦など周辺の大国による厳しい占領支配の連続だったという歴史的背景を強調しました。その結果、現在でも国の人口の3割ほどが占領時代にソ連から移住してきたロシア系住民であり、『スリー・キングダムス』で描かれた脚本内容に影響を与えているのではないか、と指摘しました。同時に、今のエストニアは世界随一のIT立国として繁栄していること、電子IDカードによって様々な手続きを一枚で済ませることが可能となっていること、実は日本のマイナンバーカードのモデルはエストニアのIDカードであること、などを説明しました。和やかな雰囲気の中、実り多い対談となりました。
対談の内容は、以下のアドレスで公開されています。
続いて対談後に、劇場内の広い舞台稽古場に文字通り舞台を移し、主役の刑事役を演じる伊礼彼方さん、相棒刑事役の浅野雅博さん、ほかに伊達暁さん、音月桂さん、夏子さんなど総計12名のキャストの方々、演出家の上村聡史さんをはじめとするスタッフの皆さん総勢の前で、エストニアについての特別講義を大中教授が行いました。講義は、大中教授が執筆したエストニア関連の論文やエッセイを事前にキャストやスタッフの方々に読んでいただき、討論や質疑応答にほとんどの時間を割く、という方式で実施しました。
俳優であるキャストの皆さんからは、実際の役作りに関連する具体的な質問が多く寄せられ、それに応えて大中教授からは、過去に何度かエストニアを訪問した経験から、現地の文化や社会に関する説明がなされました。質疑応答は途切れることなく2時間にわたり、充実したものとなりました。『スリー・キングダムス』は今回が日本初演だそうですが、劇の成功を祈りますという言葉で締め括られました。
なお、公演プログラムの中にも、大中教授による「エストニアとはどのような国か─国の成り立ちから現在のIT立国になるまで」と題する一文が掲載される予定です。
討論の最後では、桜美林大学出身の卒業生が新国立劇場で活動していることもスタッフから知らされました。
(写真はいずれも新国立劇場提供)
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