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銀河中心付近の構造を解明「いて座A* 周辺のSiOメーザ星の運動に見られる核星円盤の性質」

2025/05/30(金)

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坪井昌人(明星大学教授,JAXA名誉教授),堤貴弘(米国国立電波天文台研究員),宮脇亮介(桜美林大学教授),三好真(国立天文台助教)の研究チームは,南米チリの高地にある世界最大級の電波望遠鏡群「ALMA(アルマ)」を使って,2017年と2021年に銀河中心を観測して,銀河中心付近の構造を解明しました。

この研究では,私たちの銀河の中心に存在する「いて座A*(エースター)」と呼ばれる超巨大ブラックホールの周囲を回る「SiOメーザ星」という特別な星の運動を詳しく観測・解析しました。銀河中心には,いくつかの異なる種類の星の集団があり,若い星が多い「中心核星団(NSC)」や,比較的年老いた星が集まっている「中心核星円盤(NSD)」といった構造があります。本研究の目的は,これらのSiOメーザ星がどちらの集団に属しているのか,またそれが銀河の進化にどう関わっているのかを明らかにすることでした。

観測では,星から放出される「SiOメーザ」と呼ばれる特殊な電波(マイクロ波)を利用しています。この電波は,赤色巨星のような星の外層から発せられるもので,星の位置や動きを非常に高い精度で測定できる特徴があります。今回の観測では,2つの異なる年のデータを比較することで,37個の星の位置と速度を導き出し,そのうち35個については「固有運動」と呼ばれる天球上の移動を算出しました。

星々の動きには明確な方向性があり,銀河の円盤と同じ方向(銀河面)に沿って移動している傾向が見られました。もしこれらの星がNSCの一部であれば,重力の影響によりランダムな方向に運動しているはずですが,実際の観測ではそうではありませんでした。さらに,星の動きの速さは,ブラックホールの重力だけでは説明できないほど速いものもあり,NSCの特徴とは一致しないことが分かりました。

これらのことから,観測されたSiOメーザ星は,若い星が中心の「中心核星団」ではなく,古い星が集まる「中心核星円盤」に属している可能性が高いと考えられます。中心核星円盤は,銀河の中心から外に向かって広がる円盤状の構造で,長い時間をかけて形成されてきたと考えられています。この発見は,私たちの銀河がどのように成長してきたのか,そして星々がどのように分布しているのかを理解するための重要な手がかりとなります。

この研究は,最新の観測技術を活用して,銀河中心の構造と歴史を探るものであり,今後の天文学的な研究にも大きな影響を与えると期待されています。

本研究成果は、2025年5月28日に日本天文学会 欧文研究報告(PASJ)でオンライン公開されました。

この図は,いて座A*(Sgr A*)の周囲にあるSiOメーザ星の運動を表しています。

  • 背景(白黒画像)は,105 GHzにおける連続波(連続放射)の強度マップ(Tsuboi et al. 2016による)。
  • 等高線は,CS J=2−1分子線の積分強度(Tsuboi et al. 2018による)。
  • 矢印(ベクトル)は,各星の固有運動(Proper Motion)を示しています。
    → 矢印の長さは,星の移動の速さ(速度の大きさ)を意味します。
矢印の横に書かれている数字は,それぞれの星のLSR速度(視線方向の速度,単位:km/s)を示しています。 カラースケールはLSR速度の大きさや方向を表し,天球上の運動との組み合わせにより,各星の三次元的な運動を把握することができます。

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