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新体操選手として「全中」「インターハイ」出場
3歳から大学卒業まで選手として新体操を続ける
「日本一になってオリンピックに出たい——。そう思って、幼少期から新体操を続けてきました」
そう語るのは、健康福祉学群の髙橋弥生助教だ。選手としては日本一という目標を達成できなかったものの、大学卒業後は新体操の指導者として活躍し、アジア選手権や全日本選手権で選手を優勝へと導くなど、輝かしい実績を持つ。現在は、桜美林大学に所属するとともに、日本体操協会のコーチ育成委員として、次世代コーチの指導にも力を入れている。
新体操の指導者として、またスポーツ科学の研究者として、新たな挑戦を続ける髙橋助教の足跡を振り返っていこう。
中学1年から高校3年まで
新体操北信越大会で個人総合優勝
新体操を始めたのは、幼少期に母のすすめで家の近所にあった新体操教室を訪れたことがきっかけだった。喘息気味だったこともあり、体力づくりを目的に通い始めた教室で、髙橋助教はそのポテンシャルを育んでいく。
3歳から小学校低学年までは東京都内の新体操教室に通い、その後新潟に活動の舞台を移し、ここから髙橋助教の才能が開花する。中学校1年で臨んだ新体操北信越大会で、いきなり個人総合優勝を果たし、全国中学校体育大会にも出場。その後も高校3年生まで北信越大会で個人総合優勝を続け、高校時代はインターハイ(全国高等学校総合体育大会)にも出場した。
「当時、新潟には強豪クラブがなかったのですが、記録や技術は過去のものになるけど、選手の心の中に残るものは一生残っていくことなど、人として大切にすべきことは全て新潟で教わりました。得意種目は、クラブとボール。選手として積み重ねた経験は、指導者になった今も活かされています」
大学で個人競技から団体競技に転向
新体操の個人競技で全国レベルの成績をおさめてきた髙橋助教だったが、高校卒業後に進学した日本女子体育大学で初めて壁にぶつかる。新体操部の指導者から「あなたは、個人選手として上を目指すよりは団体の方が合っているわ。団体をやってみたらどうかしら?」と告げられたのだ。
団体競技は、1チーム5人の選手が1つのフロアに立ち、息を合わせて演技を行う。団体選手に必要とされる技術や能力は、個人競技とはまったく異なるため、髙橋助教もはじめは戸惑った。それでも毎年団体選手として選ばれるなかで、次第にやりがいと責任感が芽生えていく。
「実は高校までは、団体競技を避けて通ってきたところがありました。大学に来るまでは、団体の楽しさを感じられるまで本気で取り組む機会がなかったので、やりがいを感じにくかったのです。しかし、大学時代の団体メンバーは、選手もコーチもみんなが本気で意見を伝え合い、みんなでチームを作り上げることにやりがいを感じられ、次第に団体競技が好きになっていきました。また、個人競技で感じた喜びよりも、団体競技で感じた喜びや達成感の方が何倍にも膨らみました。ミスなく演技をやり遂げられた瞬間には、自然に涙があふれました。私はここでチームスポーツの楽しさを知ることができました」
新体操競技とは?
新体操は13m四方のフロアマットで行われる競技で、個人種目と団体種目がある。個人は「ロープ、フープ、ボール、クラブ、リボン」の5種目で演技を競う。シニア競技ではロープ以外の4種目を1人の選手が演技する。団体は1チーム5人の選手によって2種目が行われ、単一の手具、またはクラブ&フープなど2種類の手具を組み合わせて演技する。演技時間は、個人競技は各種目1分15秒〜1分30秒、団体競技は各種目2分15秒〜2分30秒と決められている。
指導者としてアジア選手権、全日本選手権を制覇
団体コーチとしての初舞台が、
「第10回アジアシニア新体操選手権大会」
大学卒業後、故郷・新潟県の新体操クラブの指導者を経て、2012年に日本女子体育大学新体操部のコーチに就任。当初は主に個人競技の指導をしていたが、2018年から団体競技のコーチを任されることになる。そして、いきなりやってきたのが4月の「第10回アジアシニア新体操選手権大会」という大舞台。髙橋助教はここで、日本代表シニア団体競技監督として、日本女子体育大学のメンバーで構成された日本代表チームを団体総合優勝に導く。さらに、同年8月に開催された「第70回全日本学生新体操選手権大会」では、日本女子体育大学の団体チーム監督として、団体総合優勝を達成。ついに指導者として、念願だった「日本一」を実現することになる。
「アジア選手権優勝という大きな成果を得られた反面、当時の私は指導者として試行錯誤の真っ最中でもありました。団体競技について学生より経験と知識が乏しいのに、ただ練習をがむしゃらに課し、自分の考えを押し付けるような指導をしていました。その結果、部を辞めたいという選手も現れました。苦悩の中で、部内の先生に相談したり、講習会に参加したりすることで、良いコーチングとは何かを学び、そして新体操を指導する目的を考えました。その結果、次第に学生たちの声を柔軟に取り入れられるようになり、選手が求めていて、かつ選手に必要な指導が何かを常に考えるようになりました」
指導者として悩み、新たなスポーツ指導法を確立していく
この時期、髙橋助教は、日本スポーツ協会(JSPO)公認の新体操指導者資格(コーチ4)を取得するために講習会に参加し、「指示、提案、質問、委譲」というスポーツ指導の新たな鉄則を知る。かつては、監督やコーチが一方的に「指示」を繰り返し、選手たちを先回りして管理していくことで、選手は強くなるものだと勘違いをしていたそうだ。しかし、大学生という年齢や日本一を目指すレベルの選手には、良質な「質問」や「提案」をして、課題解決や目標達成に向けて多くの部分を「委譲」するほうが何より効果的だと気づいたという。
「新体操はあらかじめプログラムを組み立てて試合に臨む事前完成型の競技なので、それまではミスをしない完璧を目指した練習に注力していました。しかし、指導法を見直してからは、完璧を目指すのではなく、ミスをしたとしてもそれをミスに見せないフォローの練習に力を入れるようになりました。すると、それまで緊張した状態で練習していた学生たちが、まるでゲームをクリアするようにどんどん積極的に挑戦するようになったのです。その結果、学生たちの表情も明るくなり、結果的に2019年、2020年に全日本新体操選手権大会で団体総合優勝を達成することができました。こうした指導者としての経験を積み重ねるなかで、今度は研究者として、新体操という競技が抱える課題を解決する取り組みをしたいと考えるようになりました」
研究者として新体操競技の課題に挑む
新体操の採点規則は4年に1度改定される
研究者としてのキャリアをスタートしたのは、2015年から指導者をしながら通った日本女子体育大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程の頃。髙橋助教は当時、研究室の指導教員の提案を受け、1967年から2017年までの新体操競技の採点規則をまとめ、その歴史的変遷を調べていた。
新体操の採点規則は、オリンピックサイクルとともに4年に1度改定される。選手として、指導者として、新体操競技に関わるなかで、髙橋助教もこの規則改定にずっと翻弄されてきた。ルールが変われば、当然ながら戦術も変わる。しかし、高得点に繋がる新体操の演技で完成を目指すには、一定の時間がかかるものである。そこで、髙橋助教は、採点規則の歴史的変遷のなかで、変わらない本質にあたるものを探った。
「1967年と1976年の世界選手権で使用された採点基準と1982年から2017年の各オリンピック大会で使用された採点規則を対象に、膨大な時間をかけて調べました。目的は新体操個人競技に欠かせない手具操作において、時代を超えて求められていることを明らかにすること。その結果、手具操作にはいつの時代も①手具は制止させない、②手具操作は多様性に富む、③各手具の特性を生かす、④左右の手をバランスよく使用するという4点が一貫して求められることが分かりました。まだまだ抽象度は高いですが、指導者にとって大きな指針となる結果が得られました」
新体操団体競技の演技構成を可視化する
この研究を経て、髙橋助教が現在取り組んでいるテーマが、「新体操団体競技の演技構成に関する研究」だ。新体操の採点は、「難度」「芸術」「実施」の3つの基準によって行われる。「難度」は加点方式で上限がなく、一方「芸術」と「実施」は減点方式となる。例えば、音楽と身体の動きが合っていない場合や、手具を落下させた場合に減点される。
指導者にとって、いかに減点を抑えつつ高得点を狙える演技を構成できるかが大きな課題となる。しかし実際の大会では、「難度」「芸術」「実施」という大枠の得点しか掲示されず、演技構成に盛り込まれた30個以上の技のどれが加点され、どれが減点対象となったのかを把握することができないという。
「新体操と同じ採点競技のフィギュアスケートは、ジャンプ、スピン、ステップの各要素の成否と得点が観客にもわかるようにライブで表示されます。例えば、ジャンプの回転が回転不足であることや、出来栄えがプラスなのかマイナスなのかなどが採点結果から分かります。しかし、新体操では競技中はもちろん、大会終了後も技や要素の成否や採点の詳細な内訳が公開されません。これでは、演技構成を改善する際に、どこを直すべきか正しく把握することができません。そこで私は、演技構成を分析する方法を構築し、これを用いて演技構成を可視化し、演技構成の課題を見つける研究を進めています」
この研究の実証実験では、髙橋助教自身を含む3名の新体操競技国際審判員が、2022年にブルガリアで行われた「39th FIG Rhythmic Gymnastics World Championships」の団体種目別決勝で「難度」と「芸術」の得点1位を獲得したイタリアチームのHoop5(5人でフープを操る団体競技)の動画を見て、演技構成を記録した。そこで記録内容の96.8%が一致するという結果を得ることができ、演技構成を可視化する方法の妥当性が国際審判員によって認められたと結論づけることができた。
「記録用紙や分析方法にはまだまだ改善の余地がありますが、これによって、他のチームがどのような演技構成で試合に臨み、どのような結果を得ているのかを把握することができるようになります。今後これをシステム化することで演技構成の分析は迅速に行えるようになり、その成果は多くのチームにとって有益な情報になると考えています。これは、どのレベルのチームにおいてもその大会で競り勝つために必要な戦略を知る手がかりになると考えています」
自分の使命は「アスリートたちの笑顔をつくること」
髙橋助教は現在、桜美林大学で教員として勤務しながら、鹿児島県の鹿屋体育大学大学院体育学研究科体育学専攻の博士後期課程に通い、博士論文の作成を進めている。新体操の演技構成や採点基準の課題に挑む独自性の高い研究は、関係者の注目を集めることになるだろう。世界トップチームの演技構成の可視化や、日本チームの演技構成の課題を明らかにできれば、新体操日本代表チームの演技構成への提言も可能になるかもしれない。
研究者としても新たな挑戦を続ける髙橋助教が、今後ますます力を入れていきたいと考えているのが、スポーツ指導者の育成だ。現在は日本スポーツ協会のコーチデベロッパーとして、新体操に限らず、幅広い競技で公認スポーツ指導者を目指す人々をサポートしている。
「私が選手時代に掲げた『日本一になりたい』という思いは目標にすぎず、スポーツの最終的な目的にしてはならないと私は考えます。私自身、これまでの競技人生を振り返ったとき、『アスリートはみんなそれぞれの幸せのためにスポーツをしているのではないだろうか』と思うようになりました。特にコーチングの目的は、幸せを感じること、人間力を高めること、目に見えない無形の力を養うこと。その目的を達成する過程にあるのが大会で優勝することや、目標とするタイムや得点を獲得することだと考えます。それを踏まえた上で、私はスポーツにかかわるすべての人に笑顔になってもらいたい。たくさんのアスリートたちの笑顔を生み出すことが、スポーツ指導者、研究者としての自分の使命だと思っています」
教員紹介
Profile
髙橋 弥生助教
Yayoi Takahashi
1986年、新潟県生まれ。2009年 日本女子体育大学運動科学部スポーツ科学専攻卒業。2017年 日本女子体育大学大学院スポーツ科学研究科スポーツ科学専攻修士課程修了。2022年より鹿屋体育大学大学院体育学研究科体育学専攻博士後期課程在学中。3歳より新体操を始め、全国中学校体育大会、インターハイに出場。日本女子体育大学でも新体操団体競技を続け、卒業後、指導者の道へ。同大学の新体操団体チームの監督として、全日本選手権優勝など数々の戦績を残す。2018年にはアジア選手権大会日本代表シニア団体競技監督として、総合優勝も果たした。日本スポーツ協会(JSPO)公認新体操指導者資格(コーチ4)取得。
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