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国際的な学びの場を通じた成長機会を促す教育活動に尽力
国連公認の学生団体のコーディネーターに就任
「専門分野を最も一般的な概念で表すと『教育学』になりますが、特に注力しているのは、主体的に考え行動できるような学びの場を作ることです。特定のテーマや課題に固執するのではなく、各学生が自らの関心や探究心にもとづいて取り組みたいことを見出せるような環境を目指しています」
そう話すのは、グローバル・コミュニケーション学群の山崎慎一准教授だ。大学院在学中から大学の情報公開に関する研究に取り組み、「高校の進路指導担当教員が求める大学の情報公開と情報資源—大学の情報公開に対する意識調査の結果から」や「アメリカ高等教育における大学情報の提供負担の軽減とその質の向上に関する取組みの変化」などの論文を発表してきた。しかし、近年は「国際的な学びの場を通じて多面的な成長を促す教育活動」に関心を寄せているという。
そのきっかけの一つは、桜美林大学に研究員として在籍していた2011年頃から学生団体「ASPIRE(Action by Students to Promote Innovation and Reform through Education)」の活動にコーディネーターとして関わるようになったことだった。「ASPIRE」は「国連アカデミック・インパクト(United Nations Academic Impact)」の公認団体で、桜美林大学もその発足当初から世界的なネットワークに参加し、活動を続けている。同団体はグローバルシチズンシップを育むための活動を行っているが、最も大きな特徴はその活動を“学生自身が”作っているところにある。
「最初は学校側が学生たちにアクションを起こすよう働きかけていましたが、活動を続けるうちに学生自身が新しい課題を発見し、視野を広げ、自らの役割や可能性を再認識していきました。特定の課題を与えるのではなく、学生が自ら問題を発見して取り組むことによって、学びはより社会の現実に根差したものとなります。また、学生が国際的な対話や協働を通じて身につけるリーダーシップ、協働力、文化的感受性といった力は社会に還元されていきます。学生たちが成績や偏差値に関わらず、多面的に成長していく様子を目の当たりにし、従来の知識伝達型学習にはなかった新たな可能性を感じたのです」
“何でも話し合える”関係を築いた日韓の学生交流
2012年から「ASPIRE」として毎年行っている活動の一つが「Goodwill Session」と呼ばれる日韓交流事業だ。これは、韓国のASPIREとの共同企画で、日韓両国共通の諸課題に焦点を当てたセッションを重ねてきた。
2012年当時は竹島をめぐる主張の食い違いから、日韓関係が険悪だった時代。韓国への旅行はもちろん、領土について口にすることも憚られる空気の中、あえてデリケートな話題についても話し合いたいという声が学生たちから挙がったのだという。
「ASPIREの日韓交流事業が始まった当初、国レベルでは緊迫した空気がありましたが、回を重ねていくうちに日韓の学生たちの間には『なんでも話せる』関係性が築かれていきました。つい先日も、韓国のASPIREの学生とともに、韓国の港町・群山(グンサン)を訪問しました。そこはかつて日本軍によって占領された歴史がある地域で、占領の悲惨さを訴えるミュージアムを見学した際、展示物を見ながら学生同士でフラットに意見交換しているのが印象的でした」
ASPIREで活動した学生は就職活動にも強く、自身が希望する就職先から内定をもらえることが多いという。その理由について、山崎准教授はこのように分析する。
「ASPIREでは活動内容を決める段階から学生たちが主体となって取り組んでおり、授業のように単位としてカウントされないにもかかわらず、学生自身が身銭を切ってでも参加したいと思える活動になっています。そのため、いわゆる『ガクチカ(学生時代に力を入れて取り組んだこと)』として話せることがたくさんあるのではないかと想像しています。」
一方で、一般的な授業に、ASPIREのような学生の主体性を引き出す試みを導入するには、単位認定要件や費用の面で課題が残る。
「授業の場合はどうしても単位認定要件のための評価が必要となります。そのために学生に対して課題やワークを出すことになりますが、学生は『良い成績を取ること』にフォーカスしてしまいますし、“評価のための課題”には私自身もあまりおもしろみを感じません。従来の知識伝達型授業を変えるには、学業の評価が奨学金制度の条件に直結していることなど、実利と結びついている教育システムを見直す必要があると考えています」
授業履修者発の提案が形になった「Mask Project」
一般的な授業はどうしても従来の知識伝達型を踏襲しがちだが、山崎准教授は過去に担当した授業の中で、学生発の取り組みである「Mask Project」を採り入れた経験がある。これはアメリカでボランティアを行う「海外サービスラーニング(アメリカ社会活動)」の授業履修者の一人が、コロナ禍の影響で現地でのボランティアができなくなったことを受け、日本にいながらにしてできる支援・交流として提案したもの。「子ども用」のマスクがないアメリカの子どもたちに向けて布マスクを製作した。支援の輪は授業履修者の外にも広がり、30名以上の学生によって作られた187枚のマスクは、アメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコにある学童「Boys & Girls Clubs of San Francisco - Tenderloin Clubhouse」の子どもたちに贈られた。
「大学の情報公開」から「学生主体の教育」へ
大学在学中に抱いた「大学教育」への問題意識
現在は教育学の専門家として活躍している山崎准教授だが、高校卒業後の進学先は桜美林大学の経営政策学部だった。
高校3年次には受験科目の中で唯一苦手意識を抱いていた英語の試験対策に毎日13時間以上を費やすなどの猛勉強を重ね、晴れて合格を果たした山崎准教授。TOEIC®600点以上相当の英語力を携えて入学し、英語の授業では最もハイレベルなクラスに割り当てられたが、当時の授業の質に、疑問を覚える点が多々あったという。
「大学の授業への期待値が高かったこともあり、当時の英語の授業の質やレベルの低さに落胆しました。また、専門科目の授業も受け身で退屈だと感じるものが多く、自分で調べたほうが早いと考えて、授業を抜け出してパソコンルームで自学していました。加えて、私の世代は就職氷河期の第二期にあたり、懸命に就職活動をしていた同期もなかなか働き口が見つからなかったことから、大学の存在意義について疑問を抱き始めました。同時に、そこには改善の余地が大きく残されているのではないかとも考え、大学教育そのものに関心を抱くようになったのです」
研究者としての礎を築いた「大学の情報公開」の研究
大学教育に関心があれば、教育学を研究できる大学院に進学するのが一般的かもしれない。しかし、山崎准教授は、当時この分野に関する著名な研究者が揃う桜美林大学大学院 国際学研究科 大学アドミニストレーションの修士課程へと歩みを進めることとなった。その後の指導教員である舘昭教授から、「日本国内だけでなく、大学教育分野の中で最も先進的な国の一つであるアメリカに焦点を当てるべき」とアドバイスを受けたことが、研究者として「大学の情報公開」というテーマに出会うきっかけとなったのだ。
「私が大学院に進学した2005年当時は、大学の人気ランキングが影響力を持っていて、大学側は数多くの入学者を獲得するために上位にランクインできるような情報を公開する傾向がありました。そのことに問題意識を抱いてリサーチを重ねていたとき、アメリカのArthur J. Rothkopf(アーサー・J・ロスコフ)教授の論文にたどり着きました。そこで、『大学の情報公開に関する研究をしたいのですが、どうしたら良いでしょうか』と直接メールでご連絡したのです」
日本の若き研究者から熱意ある相談を受けたロスコフ教授は、研究への協力を快諾。研究報告はもちろん、同氏が学長を務めていたLafayette College(ラファイエット大学)の図書館に電話やFAXのやりとりといった一次情報を収蔵し、それらのコピーと合わせて船便で送ってくれるなど、手厚く支援してくれたという。
また、ロスコフ教授はアメリカの教育政策を作る最も大きな「Commission on the Future of Higher Education (大学教育の将来に関する連邦教育長官諮問委員会)」のメンバーとして名を連ねるなど、アメリカ国内においても権威と実績を持つ人物だった。そうしたアメリカの教育領域における重要なキーマンから一次情報を共有してもらえたこと、それ以前は研究的な価値がないとされてきたものに研究的価値を持たせたことなどが高く評価され、山崎准教授は研究者として礎を築いていった。
「修士・博士課程を通じて取り組んでいた『大学の情報公開』に関する研究は高く評価していただきましたが、私自身の実力というよりも、たまたまロスコフ教授と出会えた運の良さによるところが大きいと考えています。アメリカ国内でも非常に権威のある方であるにもかかわらず、大学院に進学したばかりで英語力も拙かった当時の私に対しても、フランクにメールを返してくださいました。そのことがとてもうれしかったですし、現在の私の学生との関係の築き方や『学生主体の教育』というテーマにもつながっている気がします」
高校生向けのキャリア支援プロジェクトを通じて
30~40人もの学生が入学
2010年9月に桜美林大学高等教育研究所の研究員に着任した山崎准教授。その後、先に述べた学生団体「ASPIRE」にコーディネーターとして携わりつつ、同大学のグローバル・コミュニケーション学群の助教・准教授、リベラルアーツ学群 助教・准教授などを経て、教育探究科学群の立ち上げにも尽力し、2023年4月からは同学群の准教授も務めた。
また、2023年からは桜美林大学全体の新たな取り組みとして高校生を対象としたキャリア支援プロジェクトである「ディスカバ!」がスタートし、山崎准教授がコーディネーターを務める「ASPIRE」も同プロジェクトの中の一プログラムの運営に携わった。同プログラムへの参加を機に、山崎准教授が在籍していた教育探究科学群に入学した学生は30~40人にも上るという。
当時実施したプログラムについて、山崎准教授はこのように振り返る。
「ASPIREの学生とともに携わった『ディスカバ!』のプログラムは、ASPIREが大切にしてきた価値観にもとづき、高校生の意見を否定せずに、彼らがやりたいことを実現できるようにサポートするものでした。プログラムに参加していた高校生と運営側である私たちの双方が楽しい時間を過ごせましたし、その結果として参加者の中から30~40人もの学生が入学してきてくれたことに驚きました。学生主体のプログラムは、学生の成長機会を促すだけでなく、大学広報の観点においても可能性を感じました」
「ディスカバ!」とは?
「ディスカバ!」とは高校生を対象とした桜美林大学のキャリア支援プログラムのこと。大学側が提供する所定のプログラムを体験し、その成果が認められると、認定証や修了証が発行される。これらの証書は、総合型選抜や学校推薦型選抜の出願時に活動実績として提出でき、一般的な高校ではできない学びや成長機会につながっている。
これまでの実践を一般的なモデルとして構築したい
桜美林大学に在籍して以降、国際的な学びの“現場”に関わり、主体性をはじめとした多くの学生の多面的な成長を目の当たりにしてきた。しかし、学生の主体性を伸ばすだけでは不十分だと山崎准教授は語る。
「学生がやりたいことと社会的意義のある活動を両立させたいと考えています。『好きなこと』や『やりたいこと』ばかりがもてはやされる環境では、どうしても倫理的な部分が欠けてしまいますし、社会的な意義がない活動は結果的に長く続けていくことも難しい。一方で、『社会的な意義があることをしましょう』と大々的に伝えるのは不自然ですし、学生の主体性を損ねてしまいます。2つを自然に両立させる方法を模索しているところです」
また、これまでの実践を、誰もが適用できる汎用性の高いモデルとして構築することも目標の一つだが、教育系の研究において実践をモデル化するのは難しい側面もある。
「インタビューやアンケートを行って、文字通り“目に見える”成果を出せたとしても、恣意的に感じられるなど、自分の実感からは離れてしまいます。同時に、客観的に示せる情報以外の成果や変化を反映できないのも悩みどころです。これは多くの教育系の研究者が抱えがちなジレンマですが、まずは実践のモデル化に向けた糸口を探っていきたいと考えています」
大学在学中に自身の問題意識のもとに、大学教育に関する研究・実践に携わってきた山崎准教授。長きにわたって研究に熱心に取り組めるモチベーションについて、このように語った。
「自分のために努力しようと思うとモチベーションが湧きにくいのですが、自分のサポートによって周囲の人がうまくいくことにやりがいを感じます。たとえば、ASPIREをはじめとした学生メインの活動では、学生に一定の責任がかかるため、楽しいだけではないこともあります。そんなときに彼らの傍らにいて常に見守り、求められればサポートする。現在携わっている活動はまさに、私自身のモチベーションにもつながっています」
教員紹介
Profile
山崎 慎一准教授
Shinichi Yamazaki
桜美林大学経営政策学部在学中に大学教育に関心を持ち、2005年4月に桜美林大学大学院 国際学研究科 大学アドミニストレーション 修士課程に進み、2007年3月に同課程を修了した。2010年9月に桜美林大学大学院 国際学研究科 国際関係 博士課程を修了すると同時に、桜美林大学 高等教育研究所 研究員に着任。以降、桜美林大学 グローバル・コミュニケーション学群 助教・准教授、同学リベラルアーツ学群の助教・准教授のほか、教育探究科学群の立ち上げにも尽力した。2024年4月から現職。
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