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高等教育機関の実情を把握するため
多角的にデータを収集・分析する
アンケート調査を通じて
短期大学の独自性を分析
日本には、国公立大学や私立大学、短期大学、専門学校など、さまざまな高等教育機関が設けられている。そうした高等教育機関を取り扱う研究分野が「高等教育論」だ。高等教育学では、各教育機関の特色や相違点を明らかにした上で、教育制度や学生の学び、卒業後の進路などについて多角的に分析を行なっていく。中でも、教育探究科学群の宮里翔大助教は、「短期大学」に関心を持って研究を続けている。
「高等教育論は、教育学の中でも教育社会学との関連が深い領域でもあります。これらはいずれも、社会的な事象から大局的に世の中を分析しようという取り組みが中心の学問であり、高等教育論も例外ではありません。ただ、私自身は短期大学に通う学生一人ひとりに調査を実施し、進学の動機や学習の動向を分析することに重点を置いています。個人の心理に着目するという点では心理学とも結びついた領域だと考えています」
短期大学は研究が進められていない領域
短期大学の特徴として、4年制の大学と比較するとクラス制で授業が行われることが多く、少人数の教育に特化している点が挙げられる。また、入学当初から就職を見据えた教育が提供されるため、キャリア支援の面においても学生と教職員の距離が近くなる傾向にあるという。くわえて、その位置付けの特殊性から見ても、大学と切り分けて研究する意義を感じていると宮里助教は話す。
「日本の法律上、短期大学は大学の1つの種類であるとされています。4年制の大学とひと括りで考えられているため、短期大学のみに特化した政策が敷かれることはないんです。また、職業教育に重点を置く研究においては、専門学校が調査の対象になることが多い。高等教育機関として存在しているものの、調査や分析が進められていない領域が短期大学であり、その特殊性が研究対象としての面白さにつながっていると感じています」
学生一人ひとりの意見を汲み取り
短期大学のあり方を見つめ直す
学生の成長実感が
重要な指標に
宮里助教は現在、「一般財団法人短期大学基準協会」が組織した短期大学調査チームの一員として、同じく教育探究科学群に所属する堺完助教などと共同で研究に取り組んでいる。具体的な調査の手法としては、短期大学に通う学生や卒業生にを対象にアンケートやインタビューを実施し、統計的なデータを作成するというものだ。集めたデータは、分野別・規模別・地域別にどのような傾向の違いがあるかなどを分析し、短期大学で学ぶことの意義を紐解いていく。アンケートの項目は、在学時の学びの評価や卒業後の経験など多岐にわたる。こうした共同研究において、宮里助教は学生の立場から短期大学の在り方を見つめることに注力している。
「高等教育機関における教育成果の指標として、知識・技能の修得や卒業後の進路はわかりやすいものだと思います。しかし、それがすべてではありません。何より大切なのは、学びの主体である学生自身の成長実感です。短期大学での学びが、どのように学生の成長に寄与し、学生自身がそれを実感できているのか。それが私の興味の中心であり、研究の独自性にもなっています」
「教えること」の面白さを知り
理系から教育学部へ進学
高校時代は理系で学んでいた宮里助教。しかし、周囲の友人に対して勉強を教えることに楽しさを見出し、進路選択のタイミングで教育学部を目指すことに決めた。
「物理に苦労するクラスメイトが多い中、私はけっこう得意だったんです。それで勉強方法を教えているうちに、直感的に自分は教育の道に進むべきだと感じました。教育学部について調べている中で特に面白そうだと感じたのが、生涯学習の分野です。進路を変えたきっかけは“教えること”の面白さでしたが、教育そのものというよりも、その周囲を取り巻く教育制度や環境について深く知りたいと思いました」
もともとは理系を志していたこともあり、教育学部に進んで以降も“研究”に対する興味は尽きなかった。興味に導かれて高等教育学に携わるようになったが、データを活用するという点において自身との親和性があったのではないかと当時を振り返る。
「理系を目指していた時から大学院への進学を見据えていたので、教育学部に進んだ後も自然な流れで研究者の道に進むことを決めました。コンピュータを扱うことも好きだったので、いわゆる“教育者”の道ではなく、分析や研究に携わる仕事に強く惹かれました。中でも高等教育学を選んだのは、自分が今いる”大学”という場所について知りたいという思いがあったからでした」
分析結果を可視化し
フィードバックする
先述した通り、多くのデータを取り扱うという点において、高等教育学では統計の知識も大きく役立てられる。宮里助教自身も、データの分析結果をモデリングし、学生の成長実感を可視化する取り組みを行なっている。
「例えば、アンケートに基づいて短期大学での学習成果や教育満足度に関連する要素を抽出し、さらにそれぞれの要素がどのようなアウトプットをもたらすのかについてをモデルで示しています」
「学習満足度」などの要素は、個人の感覚次第だと思われている部分も多い。しかし、統計的な側面から分析すれば、一定の傾向を見出すことができる。明確なエビデンスが重視される研究の世界において、モデルを用いて可視化することには大きな意味があるのだという。また、こうした指標から短期大学や関連組織にフィードバックを提供し、短期大学独自の魅力を再発見してもらうことに貢献したいと考えている。
「4年制大学への進学率上昇や少子化など、短期大学を取り巻く環境は厳しくなっているのが現実です。しかし数値を見れば、短期大学で成長できたと感じている学生が多数いることもまた事実。実際、研究を通じて学生の約7割が肯定的な評価を与えていることがわかりました。こうした学生の実感を具体的な情報として伝えることが私の役割であり、それを入試広報やカリキュラムに反映していただければと思っています」
自由記述欄の内容が
重要なポイント
集約された膨大なデータは、時に個々の意見や考えを埋もれさせてしまうこともある。だからこそ、学生の視点を重視している宮里先生は、一人ひとりのアンケート内容を拾い上げることにも重要性を感じている。そこに研究のやりがいを見出すこともあるのだという。
「自分自身が大学での教育に携わっているということもあり、アンケートの内容は興味深くチェックしています。卒業生を対象としたアンケートについては、あえて自由記述欄を大きく載せています。すると、数値的に記載する欄では『満足している』という評価を与えているにも関わらず、自由記述欄では辛辣な意見を述べていることもある。傾向としては、『○○について現場で役立つ知識を知りたかった』など、卒業後の進路先での状況を踏まえたものが多いですね。回答者である学生や卒業生が、短期大学でどんな経験をしたのか。アンケートを通じて背景を想像するのが非常に面白いんです」
包括的なデータの中にある
個人の声を見逃さない
教育評価の手法を学べば
大学生活にも活かすことができる
集団を対象とした調査であっても、そこに個々の意見が存在していることを忘れない。それが、宮里助教が研究においてもっとも大切にしている考えだという。同時に、大学教員として学生に教える際にも、研究を通じて得た知見を活用している。
「授業では、主に教育学の基礎や教育学で用いる評価の手法について教えています。評価者の視点を明かすような授業なので、効果的なレポートの書き方や受講態度を学ぶことのできる内容にもなっていると思います。個人的には、学生一人ひとりと向き合うことを大切に、積極的にコミュニケーションをとるように心がけています」
今後は積極的に
“生の声”を集めたい
宮里助教の当面の目標は、短期大学を対象とした調査に継続的に取り組むこと。アンケート回収の難しい卒業生についてもアプローチを続け、分析の精度を高めていきたいと考えている。また、今後はアンケートだけでなくインタビュー調査の数も増やし、話し方や表情を含めた“生の声”を収集することも見据えている。最後に、大学で高等教育学を学ぶ魅力を改めて尋ねた。
「桜美林大学に通っている学生であっても、大学がどのような場所で、どのような目的で設置されているのかを知らない人が多いように感じています。自分が所属している身近な居場所について、多角的な視点から深く考察することができる。それが、この領域を大学で研究する面白さではないかと思います」
教員紹介
Profile
宮里 翔大助教
Shota Miyazato
1992年、沖縄県生まれ。桜美林大学大学院国際学研究科修了、博士(学術)。帝京大学教育学部助手(心理学実験担当)を経て、2024年より現職。近年の研究テーマとして、短期大学教育に関する研究全般およびレジリエンス(逆境から立ち直る力)研究など。
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