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1989年から桜美林大学の英語教員を務める
名門プリンストン大学を卒業し日本へ
航空学群で英語科目群を担当するマターズドーフ・ピーター・ウェルド先生は、異色の経歴の持ち主だ。日本で教員として働きながら、長期休暇にはアジア諸国を旅するフォトグラファーとして活動してきた。日本の出版社から5冊のエッセイも出版している。そんなピーター先生は、どのようにして、桜美林大学の教員になったのだろうか。
出身は、アメリカ・オレゴン州のポートランド。自然豊かな美しい街だ。父親がドイツ出身だったことから、幼少期にはドイツに1年間、ロンドンに1年間ほど住んでいたこともあったという。家での日常会話は英語だったが、父と祖母がドイツ語で話す様子は幼少期の記憶に残っているという。
「高校卒業後、ニュージャージー州にあるプリンストン大学でドイツ語と言語学を専攻しました。この大学には、学生をアジア諸国に派遣するプログラムがありました。私は大学4年次の終わりにこのプログラムを知り応募しました。内容はほとんど英語教師の仕事で、中には日本のJAPAN TIMESへの派遣や国際NGOへの派遣もありました。私の応募は受託され、いざ派遣先を決める段階で、シンガポール、香港、武漢(中国)などが候補に上がりましたが、受け入れ先が決まらず、最終的に選んだのが東京の桜美林高等学校での教職でした。正直に言うと、日本に来るつもりはありませんでした」

フリーランスのフォトグラファーとしても活動
とはいえ、大学時代に多くのアジア系の友達がいたこともあり、アジア諸国には強い関心があった。そして、アジア諸国を旅するには、日本は絶好の拠点になるのは間違いなかった。そこから英語科の教員をしながら、フォトグラファーとしてアジア諸国を旅する生活が始まる。当時は、まだ1980年代。中国やチベット、インド、紛争前のアフガニスタンを訪れたこともあるという。
「1992年からフリーランスのフォトグラファーとして活動しています。アジアをはじめとする世界を旅しながら、写真を撮り、それにエッセイを載せて、日本の金星堂という出版社から本を5冊出版しました。1990年代当時、独立戦争直後のアフリカ・エリトリアを訪れ、戦争の残骸を写真に撮ってレポートしたこともあります。写真とエッセイを『朝日ウィークリー』などの英字新聞、『AERA』『アサヒグラフ』などの雑誌に掲載してもらっていた時代もありましたね」
2003年に出版した2冊目の著書『The World Ahead—Understanding the Challenges that Face Our Planet』(金星堂)では、かなりの手応えを得た。「戦争」、「飢餓」など章ごとにテーマを決め、自ら撮った写真とともに世界の時事問題、日本が直面している問題、そして、世界が直面している問題について語っている。

パイロットや航空管制官を目指す
学生に向けた英語指導を担当
英語の授業で世界の時事ニュースを取り扱う
本業の英語教員としては、桜美林高等学校で3年勤務した後、1989年の国際学部(当時)開設に合わせて、桜美林大学の教職に就いた。そこから約30年、現在は航空学群でパイロットや航空管制官を目指す学生に向けた英語の指導をしている。
「現在は、航空学群で『アビエーションイングリッシュ』『航空交通管制コミュニケーション』などを担当しています。それ以外にも英語の基礎科目を多数担当しています。私は同僚のケリー・マイケル准教授とは違い、航空業界の詳しい知識はありません。その分、世界の時事ネタなどを授業で取り扱うようにしています。最近であれば、イスラエルとヒズボラに紛争によって、ベイルート(レバノン)の空港がほとんど使えなくなっている。それでもミサイルが飛び交うなか、レバノンの航空会社は運航を続けています。恐怖を煽る意図はなく、現代の世界を正しく知るための情報を英語で伝えるようにしています。そうすることで、航空分野の専門家である英語教員といいバランスがとれるのではないかと思っています」
インタラクティブな英語の授業を展開
授業では、世界情勢や航空関連のニュース記事をPDF化して、Moodleと呼ばれるe-ラーニングシステムを使って共有し、学生たちと英語で議論する。「今の世界情勢において、航空会社が考慮すべきことは何でしょう?」。いい意見が出れば、それについてさらに議論を深めていく。インタラクティブに進めるのがピーター先生の授業スタイルだ。
14歳で始めたというカメラの腕前は、大学の広報として役立っている。アメリカ・アリゾナ州でフライト・オペレーションコースの学生たちが訓練を受けている様子を撮影した写真などは、大学のWebサイトや大学案内にも掲載されている。フォトグラファーとしてもまだまだ現役なのだ。
ミッションは世界に飛び出す
日本人学生を増やすこと
コンフォートゾーンを抜け出して、
本当の世界と出合ってほしい
今年(2024年)で61歳になるピーター先生の目標は、世界に飛び出す日本人学生を増やすことだ。発音や文法を気にしすぎるより、どんどん世界に出ていって、生きた英語を身に付けてほしいと考えている。
「日本では日常英会話の定番の挨拶として、『Nice to meet you』や『How are you?』といった表現を習います。でもネイティブからすると、とても堅苦しい表現で、そんなやりとりでは親しくなるのに時間がかかってしまいます。そのため、海外との接点が多い航空学群の学生たちには、フランクな会話表現も教えています。日本人はコンフォートゾーンを出る必要があります。ここを抜け出して、本当の世界と出合ってほしいと思います」
ピーター先生も旅を続けていく。今はチベットの山奥に行っても人々は、東京やニューヨークの人々と同じスマートフォンを持ち、テキストメッセージを送り合っている。それが悪いとは思っていない。それでも世界中が同じになっていくことにちょっとした悲しさを感じているという。「世界が同質化する前に、できるだけ多くのものを見て、できるだけ多くの写真を撮りたい」とピーター先生は最後に力強く語ってくれた。
教員紹介
Profile

マターズドーフ ピーター特任講師
Mattersdorff, Peter Weld
1963年、アメリカ・オレゴン州生まれ。1985年、プリンストン大学卒業。専攻はドイツ語、副専攻は言語学。1985年より桜美林高等学校の英語教員、1989年より桜美林大学国際学部(当時)の教職に就き、現在に至る。世界情勢や時事問題に関する5冊の本を執筆。世界各国を旅して撮影した写真にエッセイを添えて、英字新聞や雑誌に投稿していたフォトグラファーとしての顔も持つ。
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