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成田国際空港に技術職として入社
空港運営のエキスパートとして活躍
計画から維持管理まで空港運営業務に幅広く従事
「私は大学卒業後、新東京国際空港公団(現 成田国際空港株式会社)に技術職として入社し、30年以上にわたり、滑走路や駐機場、空港道路、空港鉄道などの計画、設計、維持管理に携わってきました」
そう語るのは、航空学群の義本正実特任教授。大学時代は土木工学を専攻し、就職後は空港に関するエキスパートとして活躍してきた。キャリアのなかで海外空港のコンサルティングに従事した経験もある。空港施設の建設においては、空港周辺の地域との連携も欠かせない。そのため、施設の計画・設計から運営まで、空港に関わる多くの業務を担っていた。
空港は、世界と日本あるいは国内各地域をつなぐ、人とモノの交流拠点だ。空港施設の建設や拡張と同時に、周辺の道路や鉄道も整備し空港アクセス機能を強化することが重要になる。場合によっては、地域住民に住環境の変化をお願いするケースもある。こうした場面で、地域住民への説明会などに技術者として出席し、施設計画の意義や具体的な建設内容について説明することもあったという。
空港施設の設置に伴う周辺インフラの整備事例として、芝山鉄道がある。この鉄道は、成田空港の建設によって影響を受けた地域住民や企業への補償として敷設された、延長わずか2.2kmの「日本一短い鉄道」だ。
「私は最終形の設計に携わりましたが、実際の敷設や開通にあたっても地域住民との対話を重ねることが重要でした。空港は騒音問題など地域への影響が避けられません。空港運営には地域社会との共生を図る姿勢が大切だと学生たちにも伝えています」

海外ライセンスの普及活動にも携わる
義本特任教授は、国際基準で働きたいという思いから、入社12年目に、マサチューセッツ工科大学のAirport Short Corseを修了し、その後、アメリカのオレゴン州でエンジニアの資格登録も行なっている。
「日本の技術者資格のほとんどは海外で通用しませんが、アメリカを中心とする英文表記のライセンスは国際的に認識されていることが多く、名刺代わりにもなります。そのため、日本の技術者も海外のライセンスを積極的に取得するべきだと考え、『日本PE・FE試験協議会』というNPO法人で約10年間、理事や会長を務め米国ライセンスの普及活動に携わっていました。また、2018年施行の『海外インフラ展開法』により、日本国内のインフラシステムを海外に積極展開する方針が掲げられ、海外との連携が今後さらに増加すると見込まれています。海外ライセンスの重要性はますます高まっていくでしょう」
海外の空港を見て感じた
「空港の民営化」の重要性
欧州より10年も遅れていた日本の空港
成田国際空港の社員は、海外の空港管理の潮流を学ぶため、定期的に海外の空港会社に派遣されている。義本特任教授も1990年代後半にヒースロー空港(ロンドン)やスキポール空港(アムステルダム)などに派遣され、現地の実務を目の当たりにした。
そこで感じたことは、空港分野において日本が10年も遅れている後進国であるという事実だった。例えば、スキポール空港では、1996年にはすでに空港内の制限区域に入る際のデジタル認証パスが導入されていたが、日本で同様のものが導入されたのは約10年後のことだった。また、「空港の民営化」という点でも欧州のほうがはるかに先んじていたと振り返る。欧州が1986年であるのに対し、日本では2004年の成田空港の民営化が初であった。
日本の「空港の民営化」はまだ始まったばかり
「空港の民営化は、経営の効率化やサービスの向上、地域を巻き込んだビジネスモデルの確立などにおいて重要な施策です。空港民営化の代表格であるヒースロー空港では、1980年代から免税店などを中心とするリテール事業のビジネスモデルが確立されていた一方、日本では空港で利益を上げる仕組みが十分に構築されてきませんでした。これは、『成田国際空港株式会社』になる前の『新東京国際空港公団』という名称からも見てとれるでしょう。国が資本を出資する『公団』は法律によって事業が規定されていて、収益よりも公共事業としての役割が優先されていたためです」
リテール事業で利益を上げれば、その分を着陸料の引き下げに充てることができる。着陸料とは、航空会社が空港に飛行機を着陸させた際に支払う料金のこと。この着陸料の値下げや免除をインセンティブにして、世界各国の航空会社に向けてマーケティングを行うことも可能になるのだ。こうした好循環を実現するためにも、成田空港は2004年に成田国際空港株式会社として民営化し、その後2016年に仙台空港が日本初の国管理空港として初めて民営化されたが、日本で空港の民営化が全国的に展開され始めたのはここ10年のこと。日本が空港の民営化を通じて、地域活性化や世界の空港に負けない競争力をどう高めるかが注目されている。

日本国内における「空港の民営化」の現在
「空港の民営化」とは、民活空港運営法に基づき、民間企業のノウハウを最大限に活用し、滑走路などの航空系事業とターミナルビルなどの非航空系事業における一体経営を実現させることである。着陸料などの柔軟な設定を通じて航空ネットワークの充実、空港を取り巻く交流人口拡大などによる地域活性化を図ることが目的だ。空港の民営化においては、国に所有権を帰属させたまま運営権を民間に売却する「コンセッション方式」が主流である。日本では、2013年に「民活空港運営法」が閣議決定されたことを受けて本格的にスタートし、仙台空港、関西国際空港、神戸空港、高松空港、福岡空港、静岡空港、熊本空港、北海道内7空港、広島空港などで取り組みが進められている。
空港はドラマが生まれる場所
人々の幸福に寄与する空港のあり方を模索したい
標識の認知メカニズムの研究に取り組む
義本特任教授は現在、30年以上にわたる成田空港での経験を活かし、『人々が安全で快適に空港を利用するには、空港はどのようなサービスを行うべきか』をテーマに研究を進めている。具体的には、滑走路や誘導路での走行安全、駐機場の使いやすさ、空港までのアクセスの快適さなどがある。近年取り組んでいるものとして、滑走路での高速走行時の安全に向けた、標識の認知メカニズムの研究がある。
この研究のきっかけには、着陸した航空機が滑走路から離脱する際に使用する「高速離脱誘導路」を建設していた際の経験があったと義本特任教授は語る。
「滑走路から斜めに延びた建設中の高速離脱誘導路が完成間近になると、着陸するパイロットの視界に入るようになりますが、未完成のため進入してはいけない状況。しかし、誤進入されてしまったことがありました。怪我人などが発生しなかったことが不幸中の幸いでしたが、どうして間違えてしまうのだろうという疑問を長年抱えていたのです。施設や標識の認知にはパイロット個人の解釈が関わり、新たに建設している時のルールや対策も国ごとに異なるため結論を出すのは難しいですが、今後も多様な研究領域から、よりよい空港のあり方を模索していきたいと考えています」
空港が「安全」以上の価値提供を行なっていくために
空港は、人々が出会い、さまざまなドラマが生まれる場所。人々の感動を演出することが空港の重要な役割ではないかと義本特任教授は語る。
「安心・安全な空港運営を徹底することはプロフェッショナルとしての責務ですが、その先にどのような価値を提供できるのかを探求することも大切です。空港の民営化により、日本全国で多様な施策が実現されると期待しています。また、地域に根ざした日本らしい空港運営が進むことを願っています。その一端を桜美林大学の卒業生が担っていけるようになるとうれしいですね」
教員紹介
Profile

義本 正実特任教授
Masami Yoshimoto
早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、新東京国際空港公団(現 成田国際空港株式会社)入社。37年間にわたり、滑走路、駐機場、空港道路、空港鉄道、貨物施設等の計画、設計、建設、保全、改良などの空港運営、海外空港のコンサルティングに従事する。1996年、スキポール空港(アムステルダム)、ヒースロー空港(ロンドン)にて空港管理研修。1999年、マサチューセッツ工科大学(MIT)Airport Short Course 修了。2003年、Professional Engineer/P.E.(米国オレゴン州登録)。2023年、放送大学大学院文化科学研究科・情報学プログラム修了 。2024年より現職に至る。
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