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日本航空でボーイング747、777に
乗務したパイロット時代
軽自動車からダンプカーに乗り換えるような経験
パイロットに憧れたのは、周りの少年たちと同様、大空を舞う飛行機にロマンを感じたからだった。それでも「決してマニアではなかったですね」と伏見准教授は笑う。1989年に日本航空に入社し、パイロットとして機長や専任乗員教官を務めた。その経験を活かして、所属する航空学群では現在、「空中航法Ⅲ」、「ジェット機の基礎」、「FMC操作演習」などの授業を担当している。
「文系の大学を卒業後、日本航空の自社養成コースでパイロットになりました。当時は、桜美林大学航空学群のような私学のパイロット養成コースはなかったので、航空会社の自社養成か航空大学校に通うしか選択肢はありませんでした」

日本航空入社後、約1年間の地上研修や座学講習を経て、アメリカ・カリフォルニア州のナパ・バレーにある自社養成パイロット訓練所で基礎課程を修了し、ライセンスを取得した。そして帰国後、副操縦士として乗務するために訓練を行ったのがボーイング747-400というジャンボジェット機。小型機でライセンスを取得した後、いきなりボーイング747の訓練に入るのは、例えるなら「軽自動車からダンプカーに乗り換えたようだった」と伏見准教授は振り返る。
「ボーイング747に3年間乗務した後、1997年にボーイング777に機種移行し、2003年に機長昇格しました。大型機のライセンスは航空機の機種ごとに発給されるものなので、ボーイング777の機長はずっと同じ機種に搭乗することになります」
教官としてパイロットの訓練も担当
2010年の日本航空経営破綻を経て、2011年にスカイマークに転職した伏見准教授は、クルー管理部に配属となり、運航ごとの乗務員の配置や機長になるための訓練などを担当。そして、2016年に現場を離れ、現在は桜美林大学の教員として、次世代のパイロット養成に取り組んでいる。

パイロット時代は、ボーイング747、777といった大型旅客機に搭乗し、主に国際線の乗務を担当した。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、パリ、ロンドン、ローマ……。1か月約100時間、年間1000時間を上限として、まさに世界を飛び回った。長距離路線では、片道の乗務を終えると体調管理のために現地で2泊してから、復路便に乗務することが一般的である。そのため余裕があるときは、現地での空き時間に観光を楽しんだこともあったという。
「専任乗員教官として、パイロット訓練生の訓練を担当していたこともあります。私が教官をしていた2000年代は、まだまだ実機での訓練がメインでした。宮古島近くの下地島で行った訓練では、ボーイング777を使ってタッチアンドゴーを何回も実施したり、45度に傾斜して旋回するスティープターン訓練なども行っていました。通常の乗務では、30度以上の傾斜は許されません。そのときに感じた遠心力は忘れられませんね(笑)。そんな時代も過ぎ、現在は多くの訓練がフライトシミュレーターを使って行われています」
フライト・オペレーション(パイロット養成)コースで
飛行訓練装置を使った教育手法の開発
学生がひとり1台フライトシミュレーターを使える時代へ
現在は、航空学群フライト・オペレーション(パイロット養成)コースで、主に「航空機操縦オペレーション」の指導を担当する伏見准教授。FTD(Flight Training Device)と呼ばれる飛行訓練装置を使った効率的な教育手法の研究にも力を注いでいる。

多摩アカデミーヒルズには、ボーイング737-800のFTDがある。これは、実機と同じ操作パネルを使っているだけでなく、ビジュアルの変化なども実機さながらに体感できる本格的なデバイスだ。実際に航空会社がパイロットの自社養成にも使用している。しかし、一度に訓練できるのは2名までで、多くの学生がいつでも自由に使えるわけではない。そこで伏見准教授は、X-Plane(エックスプレーン)と呼ばれるパソコンで操作できるフライトシミュレーターを使った訓練効率を上げるための手法の確立に挑んでいる。
X-Planeは、WindowsやmacOSなど市販のパソコンで操作できるため、学生がひとり1台、シミュレーターを持つことも可能だ。その操作性は、パイロット経験者の伏見准教授から見ても実際とほぼ変わらないレベルまで来ているという。
現代の旅客機は自動操縦による飛行がメインとなりますが、「MCP(モードコントロールパネル)とCDU(フライトに必要なデータを入力するキーボード)と呼ばれるコックピットを模した付属機器を使えば、パソコンでも操縦室とほぼ同じ環境でオートフライトを学べる時代が到来しています。そこで私は、運航時のさまざまなシチュエーションにおける機器類の操作方法やその際の実機の反応を、限られたツールを組み合わせることでよりリアルに体感することにより、とても効率よく学習できるような環境づくりの方法を研究しております。
桜美林大学にもFTDがあるボーイング737型機は現在も現役で活躍しているが、基本設計は50年以上前のもの。そのため、最新のボーイング787型機などと比較すると異なる機能もある。とはいえ、機種ごとにFTDを揃えると莫大なコストがかかるため、それはかなわない。その点、X-Planeのような簡易版のフライトシミュレーターを使えば、ボーイング787やエアバス380などの最新機種の操縦もバーチャル体験できるようになるという。伏見准教授は、自らがイメージするパイロット訓練の未来形を桜美林大学で実現しようとしている。
フライトシミュレーター「X-Plane」とは?
X-Plane(エックス・プレーン)は、市販のパソコンで動作するフライトシミュレーション・ソフトウェア。アメリカのLaminar Research社によって開発された。非常にリアルな飛行体験を提供することを目的としており、航空業界や飛行訓練機関でも使用されている。実際の飛行機の飛行特性や挙動をシミュレートするために、X-Planeは「ブレード・エレメント理論」という物理シミュレーションモデルを使用して、翼やエンジン、プロペラなどの細かい動作を計算している。
X-PlaneはWindowsやMacだけでなく、モバイルデバイスでも利用可能で、商用から個人まで幅広く利用されている。また、MCP(モードコントロールパネル)と呼ばれる実際のコックピットを模した付属機器なども充実している。カスタムシナリオや新しい機種の追加が可能で、さまざまな環境でのフライトシミュレーションを楽しむことができる。
新たな時代のニーズに合った
パイロットを養成する

パイロットには語学力を含む
幅広い教養が求められる
大学教員という新たなフィールドで、伏見准教授が目指すのは、新たな時代のニーズに合うパイロットを養成すること。安全・安心を守るための基礎的な操縦技術を修得することは大前提となる。しかし、オートパイロット機能が進化した今、これからのパイロットに求められるのは、1便1便のフライトに携わるメンバーをまとめるプロジェクトリーダーとしての資質だという。
「今後のパイロットには、技術者としての資質より、マネジメントの能力が求められます。つまり、コミュニケーション力がより重視される時代になっています。イレギュラーの事態にも落ち着いて対応し、乗務員や整備士にも信頼される人間性やリーダーシップを備えたパイロットを育てたいですね」
現在は、航空機操縦オペレーション関連の授業を担当することが多い伏見准教授だが、パイロットには幅広い教養が求められると力説する。もちろん、そこには英語力も含まれる。その点で日本とアメリカでパイロット養成の訓練を受ける桜美林大学の学生には、大きなアドバンテージがあるという。
「国際線に乗務する場合、空港の管制官とのやりとりは英語になります。エアラインによっては一緒に飛ぶ機長や副操縦士が外国人というケースもあるでしょう。そんな環境で、機内で何か起こった際に、英語で状況を説明できるだけの英語力があると信頼を得ることができます。桜美林大学のフライト・オペレーションコースで学んだ学生は、アメリカ研修にあたりTOEIC650点および、ICAO航空英語能力試験レベル4(英検準1級〜1級の難易度)以上の英語力が求められます。また、米国での飛行訓練はすべて外国人教官が指導しています。そのため、卒業生が就職先の航空会社でコミュニケーション力を高く評価されているという話も聞きます。これは教員としてもうれしいですね」
学生の人間性も鍛えながら、操縦スキル養成にもますます力を入れていく。キーワードはFTDとX-Planeの融合。さらに、ゲーム機を起源とするX-PlaneとVR(Virtual Reality)デバイスを融合した訓練システムにも期待しているという。実機で大空を駆け巡ったパイロット経験をフル活用した伏見准教授の挑戦は続く。
教員紹介
Profile

伏見 雅治准教授
Masaharu Fushimi
早稲田大学商学部卒業後、1989年に日本航空株式会社へ自社養成訓練生として入社。アメリカ・ナパ訓練所で基礎課程を修了後、B747-400副操縦士へ昇格。B777へ移行し、2003年に機長昇格。専任乗員教官および訓練企画室調査役として運航乗務員の指導にあたる。2011年にスカイマーク株式会社に転職し、乗員課長、訓練課長等を経験。2016年から桜美林大学の教員として着任。
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