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大学在学中からJAXAの前身組織で
ジェットエンジンの基礎研究に参画
ジェットエンジンの燃焼器の基礎研究
「日本航空(JAL)に38年間在籍し、航空機整備現業、生産管理、品質保証、企画財務……と外から見えない航空会社の整備業務のほとんど経験してきました」
そう語るのは、航空学群の神戸清行教授。教員として桜美林大学に着任したのは、2016年のこと。当初は、ビジネスマネジメント学群のアビエーションマネジメント学類で指導にあたり、2020年の航空・マネジメント学群(現・航空学群)開設においても中心的な役割を担ってきた。
専門は、航空機整備の信頼性管理と品質保証。大学教員として学生の指導にあたるようになってからは、航空教育学会の立ち上げにも参画し、航空業界における人材教育の研究にも取り組んでいる。そんな神戸教授が航空業界で働くようになったのは、大学時代の研究がきっかけだった。
「大学時代は、理工学部機械工学科の研究室でジェットエンジンの研究に取り組んでいました。分野としては、燃焼工学の研究で、大学3年次から航空宇宙技術研究所(現JAXA/宇宙航空研究開発機構)に出入りして、タービンエンジンの燃焼器の基礎研究に携わっていました。さらに、最新のジェットエンジンを知るために、在学中にJALで約1か月間、就業体験をしたこともあります。今で言うところのインターンシップですね。それをきっかけに声をかけてもらい面接を受けて、JALに入社しました」

米ボーイング社でB777の開発に参画
「JAL入社後は、整備本部で一等航空整備士を取得し、40歳くらいまでジェットエンジンというカテゴリーで仕事をしてきました。途中、ボーイング社に2年間出向し、ボーイング777の開発プロジェクトに参画しました。現場では、新たな大型機が次々と登場し、航空業界が盛り上がっていた時代でしたね」
当時、JALはボーイング社が新規開発中のボーイング777機のローンチカスタマーの一員だった。これは、新型機製造の後ろ盾となる大型発注を行う顧客を指す。この時期、ボーイング社は、製造段階から各国の航空機部品メーカーや航空会社の意見を取り入れて開発を行っていた。そこで、神戸教授はJALの技術者の一員として開発に携わり、ジェットエンジンと機体のインターフェースの設計に参加。航空機に搭載する次世代の故障情報システムに対し、整備視点のアドバイスを行い、ユーザビリティ向上に貢献したという。
航空機エンジンの三大メーカーとは?
航空機のジェットエンジン製造は、「ビッグスリー」と呼ばれる米GE・エビエーション、米プラット・アンド・ホイットニー、英ロールス・ロイスの3社が主に担っている。日本国内でもIHI、三菱重工航空エンジン、川崎重工業などがジェットエンジン開発を行っている。
神戸教授がかつて米ボーイング社出向時に携わったのは、PW4000シリーズと呼ばれるエンジン。プラット・アンド・ホイットニー社が製造したもので、ボーイング747、767、777などに搭載されている。PW4000シリーズは、神戸教授が大学在学中にJALの整備工場で見たJT9Dシリーズの後継にあたる。
航空機整備や航空会社のオペレーションに関する業務を経験
JALグループ会社の再建も任される
アメリカから帰国後は、整備現場を離れ、新規グループ航空会社設立に参画し、その後、整備現業部門を支える整備管理の業務に従事。航空機整備の品質保証や企画財務業務などを経験した。さらに、整備専門会社(JAL整備部門)設立にかかわった。空港車輌整備や航空機整備器材の整備を行うグループ会社など2社の再建を社長として任されるという経験もしている。2016年にJALを退職し、第2の人生として、教員の道を選んだ。
「航空機整備から運航管理、グランドハンドリングまで、航空会社のオペレーションに関する業務を経験してきた教員は少ないと思います。この経験を活かして、現在は、航空力学から航空機やエンジンの仕組み、整備管理まで幅広い授業を担当しています。指導した学生たちが、自分が働いていた業界で活躍する姿を見るのはうれしいですね。実際、航空業界で、桜美林大学航空学群の知名度が上がってきているのを肌で感じます」

航空機の運航整備士や整備管理のエキスパートを育成する
教育プログラムの開発に取り組む
整備士もシミュレーターで教育する時代
教員になってからは、航空機の運航整備士や整備管理のエキスパートを育成する教育プログラムの開発にも力をいれている。2020年には、航空教育学会の立ち上げにも携わった。
航空業界の次世代を担う人材育成における課題は、進化を続ける機材に対応できる技術を養成すること。パイロットと同様、整備の仕事もIT化が加速しており、既存の教育プログラムをどのようにアップデートしていくべきかが問われている。
「私が航空機整備の現場にいた1980年代は、運航整備士は実機を使って育てるのが当たり前でした。しかし、現在は最新機材がどんどん導入され、実機で教育をしようにも追いつかない。そこで最近は、運航整備士もパイロットのようにシミュレーターを使って教育する時代になっています。桜美林大学にもエアバス社のA320という機材をモデルにしたA320APTという航空機のシミュレーションマシンがあります。現在は、これを航空機整備に活用するプログラム開発に取り組んでいます」

航空機整備のエキスパートを輩出したい
大型機の整備を担うための国家資格である「一等航空整備士」を取得するための勉強も今ではシミュレーターで行う時代である。そのため、航空機のシステム、オペレーション、運用を短時間で効率よく学べる教育プログラムの開発が求められる。実際、航空会社においても新しい機材の整備のトレーニングはシミュレーターを使って行われる。そのため大学教員も最新の整備現場を知り、知識をキャッチアップしていく必要があると神戸教授は考えている。
「航空会社に入社した整備士が目指すことになる一等航空整備士は、各空港の航空機1機ずつに出発の許可(耐空性を保証する)を与える重要な役割を担います。世界中の空港で働ける可能性があるやりがいのある職業です。現在、一等航空整備士が足りない状況です。
これは次世代の若者にとって大きなチャンスだと思っています。また、整備士の女性比率も増えています。業務企画職である整備管理業務も人材が足りません。各航空会社と連携しながら、カリキュラムをアップデートして、桜美林大学から航空機整備のエキスパートを輩出していきたいと考えています」
教員紹介
Profile

神戸 清行教授
Kiyoyuki Kanbe
1975年、早稲田大学理工学部入学。在学時に航空宇宙技術研究所でタービンエンジンの燃焼器の基礎研究を行う。1979年に早稲田大学理工学部機械工学科を卒業し、日本航空に入社。整備部門に配属され、一等航空整備士の資格を取得。その後、米ボーイング社に2年間出向し、「B777」開発プロジェクトに従事。帰国後は整備をはじめ企画財務、生産管理、技術管理、品質保証など航空会社の整備部門で幅広い業務を経験。2016年、日本航空を退社し、桜美林大学ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類の非常勤講師として着任。2019年、同学群教授。2020年4月より航空学群教授。2019年より日本航空技術協会航空機整備士・製造技術者養成連絡協議会委員。
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