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日本航空の英語教官として23年間勤務
JALのパイロットだった義父の声かけで来日
ケリー マイケル准教授は、航空学群のフライト・オペレーション(パイロット養成)コース、航空管制コースで英語科目を担当している。出身はアメリカで、アメリカ人の父と日本人の母のもとに生まれた。幼少期から高校まで、カリフォルニア州、アラスカ州、ワシントン州で暮らしていたという。そして、ワシントン州の大学を卒業後、とあるきっかけで日本にやってくる。
「私の義父は日本航空(JAL)のパイロットでした。JALは1980年当時、1970年代に起きた連続事故(※)をきっかけに、ヒューマンファクター(人的要因)による事故から学ぶための訓練プログラム導入を進めていました。その頃、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、操縦室内で得られる利用可能なリソースを有効かつ効果的に活用しチームメンバーの業務遂行能力を向上させる、いわゆるCockpit Resource Managementを提唱しており、これを受けてユナイテッド航空がヒューマンファクターに関する先進的なプログラムを開発していました。義父はアメリカでそれを学び、JAL独自のプログラムを開発するプロジェクトに携わっていました。私はそのサポートスタッフとして声をかけられ、1984年に来日しました」
※1972年ニューデリー墜落事故、1972年モスクワ墜落事故、1977年クアラルンプール墜落事故を指す
日本で暮らし始めたケリー准教授が取り組んだのは、まさにCRMの導入支援。これは、パイロットが機内におけるヒューマンエラーを防ぐために用いるマネジメント手法で、CRMの翻訳やマニュアル化などに尽力した。結果的に2年におよぶ一大プロジェクトとなり、ケリー准教授はこの間、日本語を学ぶため、上智大学に通い、Bachelor of Arts in Englishの学位を取得する。そして、1987年に、JCAB(航空局)指定航空交通管制 地上教官の資格を取得し、JAL運航乗員訓練部 運航乗員地上教官として働き始めた。
アメリカの大学では英米文学を専攻
「アメリカの大学では、英語文化や英米文学を専攻していました。まさか航空会社で英語教官になるとは思ってもいませんでした。私はラッキーボーイでしたね」
大学時代は、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・スタインベック、ウィリアム・フォークナーなど、アメリカ文学を読みあさった。最も好きな作家は、ジョン・アーヴィング。『ガープの世界/The World According to Garp』『サイダーハウス・ルール/The Cider House Rules』など、映画化され、日本でも知られる作品も多い。ちなみに、ケリー准教授のイチオシは『オウエンのために祈りを/A Prayer for Owen Meany』。本人曰く、「信じられないほどの名作」だという。
ICAO安全管理システムのレギュレーション作成に参加
1987年にJALに入社したケリー准教授は、パイロットの自社養成コースで英語トレーニングを担当することになる。当時、アメリカ西海岸のナパ・バレーにあったパイロット訓練所で、年間70名から100名の日本人パイロットの指導にあたった。1993年には、航空機の操縦に関する知識を得るため、自らもFAA 自家用操縦士の資格を取得している。この当時の経験は、そのまま現在の航空学群での英語指導にも役立っているという。
2006年に、ICAO(国際民間航空機関)が安全管理システム(Safety Management System)の導入を国際標準化した際は、JCAB(航空局)、JAL、ANA(全日本空輸)、上智大学とタスクフォースをつくり、チーフメンバーとして、航空会社向けのレギュレーション(規則)作成にも参加した経験もある。JALでやりがいのあるミッションをこなす日々を送っていたケリー准教授だったが、2010年に予想もしない事態が起こる。JALの経営破綻である。
「本当に驚きました。私の人生はどうなるのか……。そんなときに見つけたのが、桜美林大学の英語教員の仕事でした。再び、私はラッキーボーイだと思いましたね(笑)」

航空業界の安全管理に用いられるCRMとは?
CRM(Crew Resource Management)は、主に航空業界で活用されるチームの効率的な管理方法のひとつ。目的は、「ヒューマンエラー」を最小限に抑え、チーム全体の安全性や効率を向上させること。1980年代の導入当初は、パイロットに向けた機内のマネジメント手法として、Cockpit Resource Managementと呼ばれていた。
CRMが導入された理由には、1970年代に航空業界で頻発した事故の多くが「技術的な問題」ではなく、「ヒューマンエラー」に起因していたことが挙げられる。そのため、CRMは技術的なトレーニングではなく、人間の心理的要素や行動特性を考慮した総合的な教育プログラムと位置づけられている。現在は、航空整備士、客室乗務員、医療従事者など、幅広い分野で応用されている。
JALでの経験を活かして、
パイロットのための英語教育を担当
ICAO航空英語能力試験教本を執筆
2010年6月のJAL経営破綻後、8月から早くも桜美林大学で働き始めた。その頃はまだ航空学群はなく、ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類(当時)での教員生活スタートとなった。そして、着任後、ビジネスマネジメント学群で現在も指導にあたるクックソン サイモン教授と一緒に取り組んだのが、『パイロットのためのICAO航空英語能力試験教本』の執筆だった。
「現在は主にフライト・オペレーションコースで、英語による授業を担当しています。同コースの学生は、2年次の秋からアメリカ・アリゾナ州でのフライト訓練に参加します。ここに至るまでの3セメスター(1年半)で、最低でもTOEIC650とICAO航空英語能力試験レベル4(英検準1級〜1級の難易度)にあたる英語力をすべての参加学生に身につけさせるのが私のミッションになります」
現在は、フライト・オペレーションコースだけでなく、航空管制コースの授業も担当している。英語で行う「航空交通管制コミュニケーション」の授業においてもJALで教官を務め、ICAOの安全管理システム導入時のレギュレーション作成に携わった経験は大いに活かされている。
「ATC(Air Traffic Control/航空交通管理)コミュニケーションにおける英語は絶対に間違えてはいけません。間違えれば、そのまま事故につながります。ATCコミュニケーションの英語は非常にシンプルです。そのためSpeak up(スピークアップ/はっきり意見を言う)することが何より重要と学生に伝えています。わからなければ、クリアになるまで質問をする。大きな声ではっきりと伝える。これがATCコミュニケーションの基本です」

英語教育を通して、航空業界に貢献したい
航空整備士や空港職員向けの
英語教育にも携わりたい
JALで23年間、英語教官を務め、桜美林大学の教員としても2024年で15年目を迎える。フライト・オペレーションコース、航空管制コースでの英語指導に慣れてきた今、教員として新たな挑戦も視野に入れている。
「航空学群には、航空機管理コース、空港管理コースがあります。彼らが将来仕事でかかわる航空機整備マニュアルや空港マニュアルは、専門的な英語が多く、ここに特化した授業も必要になるでしょう。これまでの経験を活かして、学生への英語指導を通して、航空業界に貢献していきたいですね」
JALのパイロットだった義父をきっかけに来日し、多くのパイロットの卵を指導するという予想もしない人生を歩んできた。桜美林大学航空学群で指導にあたる元パイロット教員の中にもケリー准教授の教え子は多いという。航空業界を舞台にしたケリー准教授の旅はまだまだ続く。
教員紹介
Profile

ケリー マイケル准教授
Kelly, Michael
ケリー マイケル准教授
1960年、アメリカ生まれ。アメリカの大学を卒業後、1984年に来日。1986年、上智大学 College of Comparative CulturesでBachelor of Arts in Englishを取得。1987年、日本航空に入社し、23年間在籍。運航乗員訓練部にて主席英語教官(ICAO試験面接官/審査官、JCAB試験面接官/審査官)を勤める。FAA自家用操縦士免許保有。ICAOレベル6保有。MIC航空無線認定教官。JCAB自家用操縦士免許保有。
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