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タイヤ交換からスタートし、
航空機整備に関するあらゆる業務を経験
単身アメリカに渡りFAA自家用操縦士のライセンスを取得
1981年に日本航空(JAL)に技術系総合職として入社し、2020年6月まで約40年間勤務した。入社後は整備士として、タイヤ交換からスタートし、約5年間現場を経験しながら、一等航空整備士の資格を取得。その後、整備本部で、主に整備計画を担当した。シンガポールに航空機整備を行う関連会社を立ち上げるプロジェクトに参画し、出向する形で1997年から約4年間シンガポールに勤務したこともある。そして、2000年以降は、整備部門のITシステムの導入や会社全体の安全監査などの業務に従事した。
航空学群の坂倉潤一教授は、これまでの経験を活かし、2020年9月に桜美林大学の教員となった。現在は、主に安全管理や航空機の整備管理に関する授業を担当している。
「航空業界に憧れたのは、小学校3〜4年生の頃です。北海道の親戚の家を訪れる際にボーイング727という飛行機に乗って、感動したのがきっかけです。現在、旅客機としての運航は終了した中型ジェット機ですが、初めて飛行機に乗った衝撃は忘れられません」

シンガポールの航空機整備会社の立ち上げ、駐在を経験
「JAL勤務時代に印象に残っているのは、1990年にシンガポールで設立された航空機整備の会社の立ち上げに携わったことです。これは、JAL、シンガポール航空やシンガポール政府の共同出資によって誕生したST Aerospace Services Pte.Ltdという会社で、1997年に駐在員として派遣された時は1000名ほどの社員を抱えていました」
設立当時、航空機の経年化に伴い整備作業量が増加したため、JALをはじめとする世界中の航空会社が機体整備の仕事を実施する場所を探していた。そこで、シンガポールに新たに航空機の整備を実施する会社を作り、JALも1991年から委託を開始した。当初は大型機2機が入る程度の格納庫だったが、今では大型機が同時に11機入るような格納庫を持ち世界中の航空会社の整備を実施する大きな会社に成長した。坂倉教授はここで航空機整備を安全かつ的確に実施するための技術、品質、生産に関わる「整備管理」の指導を主に担当した。海外での現場経験は、大学で航空ビジネスというグローバルな仕事の面白さを伝える際に大いに役立っているという。
航空会社における
「安全管理システム」とは?
安全に関わる航空法が出来た?
2005年から2006年にかけて日本の運輸事業では様々な重大事故・トラブルが発生し、運輸事業の安全に対する信頼が損なわれ、社会問題化した。これを受け2006年3月に航空法第103条が制定され、「絶えず輸送の安全性の向上に努めること」「安全管理規程を定めそれに従って安全を確保すること」、すなわち安全管理システムの導入が求められた。航空会社は安全管理システムの仕組みを作り、作った仕組みが法令や社内規定に適合していることや、適切に運営され有効に機能しているかを安全監査で確認している。
「安全は不断の努力によって保たれている。時代背景と共に進化させていかねばならない。これで安全と思った瞬間から安全は崩れ始める。いろいろな仕組みを作ってしっかり運用しても最終的には人の関与は避けられない。安全を自分の事と捉えることが大切」と坂倉教授は語る。
安全運航は様々な部門の「人」の連携が支えている
直接操縦するのはパイロットだ。でもその航空機を整備するのは整備士、客室の保安要員は客室乗務員、手荷物に危険物が入っていないか確認するのは旅客カウンターの仕事、預かった手荷物を揺れが起きても崩れないように搭載するのは貨物の仕事。いろいろな部門の人が関わって力を合わせて航空機の安全は保たれている。
「航空機は言わば、機械を載せた金属(炭素繊維)の塊です。これが安全に空を飛べるのは、それぞれの現場で航空機の運航に携わる人の力の結集であることを安全監査を通じて実感しました。誰か一人が間違えたり、大丈夫だろうと手を抜いた時に安全を脅かすリスクが発生します。どんなに安全な仕組みや技術を採り入れても、必ず人が関わる部分は残ります。最後は人の輪の力で安全運航が成り立っていると思っています。」

ICAOのSMS国際標準化
ICAO(国際民間航空機関)は、国際的な民間航空会社の安全かつ秩序ある発展を目的とした国連の専門機関のひとつ。ICAOは増え続ける運航便数に対して事故の発生率は横ばいになっており、このままであると事故の件数は増え続けると強い懸念を抱いていた。そこで加盟国に対して2009年1月までに安全管理システム(SMS:Safety Management System)を導入することを要求し、2006年2月にその要件を記載したSMM(Safety Management Mnual)を発行した。SMSは、、安全管理に対する方針・目標・体制・実施方法を提示し、目標達成のための管理計画を立案、実施のための管理手法などを明文化したものを指す。これによって、各航空会社の安全を維持向上させていく。
ただ、マニュアル通りに仕事をこなすのは最低限のことで、いくら安全に関わる仕組みを作ってもそれを実行するのは人間だ。もっと大切なのは組織として「安全文化」を醸成することだと坂倉教授は語る。ヒューマンエラーをゼロにすることは難しい。それだけに、事故や重大な不安全事象が起きる前の「ヒヤリハット(危険に至らなかった事象)」からも実直に学ぶ必要がある。きらびやかな世界と思われがちな航空業界だが、常に失敗から学びながら、人間として正しく生きるような意識を持つ人材を航空業界に送り込むことが自らのミッションだと坂倉教授は考えている。
IT化が加速する航空機整備の現場で
求められる資質とは?
ドローン検査技術などの導入が進む航空機整備の現場
航空機整備の現場におけるIT導入はますます進んでいくと坂倉教授は語る。例えば、一昔前は、格納庫で航空機の検査をする際は、高い足場を組んで作業をしており、整備士がケガをすることもあった。そこで最近では、ドローンを使った検査技術などが導入されている。大がかりな足場がなくても部品の亀裂や劣化などを高い精度でチェックできるドローン検査技術は、安全面・効率面ともに優れているという。
VRの技術を用いて、整備を疑似体験しながら覚えるようなトレーニングも開発されている。これからの整備士は、機械工学や電気電子工学の知識だけでなく、情報系の基礎知識も必須になるという。実際、最近の整備現場では、整備士が業務用のスマートフォンとタブレット端末を持って仕事をするのは自然な光景だ。タブレットには整備マニュアルがすべて入っており、当日の整備内容や必要な部品が表示される。
「もともと航空機は、ジャンボ機の時代から自動着陸できる装置が設置されていました。この様な先進の技術はさらに進化しており、近い未来には無人飛行機が乗客を運ぶような時代も訪れるでしょう。こうした自動化が加速する航空業界の未来における整備技術の進化や法整備についても引き続き注目しています」
教員紹介
Profile

坂倉 潤一教授
Junichi Sakakura
1956年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、日本航空に40年間在籍。整備本部で一等航空整備士資格を取得後、新機種導入、航空会社の立ち上げや海外の航空機整備会社の立ち上げに携わる。後に、その中の1社であるシンガポールのST Engineering Aerospaceに出向し、現地で世界各国のエアラインの整備作業、整備管理について指導。IT企画グループ長、安全推進本部安全監査部長、関連会社社長、JALエンジニアリング常勤監査役等を歴任。FAA自家用操縦士免許保有。2020年9月より現職。
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