メインコンテンツ
電波望遠鏡のデータから明らかになった
「大質量星」の成り立ちに迫る新情報
太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星の形成過程に迫る
地球や惑星のルーツはどこにあるのか。星はどのように生まれ、どのように消滅していくのか──。人類の持つそうした根源的な問いに立ち向かうのが天文学者たちだ。そして、LA学群の自然領域で教壇に立つ宮脇亮介教授もまた、宇宙の深淵に魅せられた研究者のひとりである。
「私の研究対象は、大質量星(重い星)。太陽のおよそ8倍以上の質量を持つ恒星がそう呼ばれます。一方で、太陽や私たちが住む地球は、中小質量星という枠組み。その中小質量星はガスの塊である『分子雲コア』の中で、周囲のガスが円盤を通して中心星へと降り積もることで形成されることがわかっています。しかし大質量星においては、形成過程にまだ多くの謎が残っています。私はこれらの重い星の誕生過程を明らかにすることを目指して研究を続けています」
大質量星の最後は、超新星爆発を起こすことで知られている。それによってさまざまな元素を宇宙に供給し、周囲の環境や星形成にも大きな影響を及ぼす、とても重要な存在である。しかし、太陽のような中小質量星と比べるとその数は少なく、観測するには距離も遠いため、大質量星の誕生の様子はこれまでよくわかっていなかったのだという。
「例えば、同じ自動車工場で作っている軽自動車とトラックにしても、単に軽自動車の製造方法をスケールアップすればトラックが作れるとは限らない。材料や構造が微妙に変わってくるはずなんです。星形成という壮大なレベルの話でもそれは同じという仮定をしていて。いくつかの研究成果から、大質量星には独自の形成過程があると推察できるようになってきているんです」
観測データの分析によって、一歩解明に近づく
宮脇教授と林正彦氏(日本学術振興会ボン研究連絡センター、元国立天文台台長、国立天文台名誉教授)、長谷川哲夫氏(国立天文台名誉教授)からなる研究グループは、国立天文台 野辺山宇宙電波観測所が運用している野辺山45m電波望遠鏡と野辺山ミリ波干渉計を使い、銀河系内の大質量星形成領域「W49A」の分子雲衝突と大質量星形成の関係を研究してきた。その研究にかけた歳月は40年に及ぶ。
「野辺山ミリ波干渉計による2022年の観測結果からは、W49Aの中心部において分子雲同士の衝突によって太陽の約10,000倍の質量を持つ不安定なガス塊が多数形成された結果、たくさんの大質量星が一気に形成されていることがわかりました」
さらに、2011年にチリに建設されたアルマ望遠鏡が、この研究を大きく飛躍させるデータの採取に成功する。アルマ望遠鏡は人間の目には見えない電波を観測することができ、光を出さない極低温のガスや塵から発せられる電波を観測することで、ガスや塵の分布や動き・性質などを調べることができる電波望遠鏡だ。
「アルマ望遠鏡によってガス塊のひとつを詳細に観測したデータからは、重たく、暖かく、厚みのある円盤を通して重い星が周囲のガスをかき集めながら形成されていく様子が明らかになりました。大質量星の形成過程における周囲のガス分布が明らかになったのは初めてのことで、解明に一歩近づいたと言えます」
最先端技術を搭載した「アルマ望遠鏡」とは?
日本が主導する東アジア・北米・ヨーロッパ・チリの諸国が協力して進めている国際プロジェクトで建設された電波望遠鏡。チリ共和国北部、標高5000メートルのアタカマ砂漠に設置されている。アルマ望遠鏡は小さな望遠鏡を広い場所にたくさん並べ、それらを連動させて1つの巨大な望遠鏡として機能させる「干渉計」と呼ばれる仕組みを採用。視力12000に相当する高い分解能と従来の電波望遠鏡を100倍上回る高い感度を誇る。国立天文台の内部組織である「アルマプロジェクト」では、東アジア地区の研究者コミュニティによる観測研究を支援し、チリ現地での活動の調整や将来計画立案なども行っている。
目で見えるものの限界に気づき
さらなる観測装置を追い求めた
在外研究先のカリフォルニア大学バークレー校で受けた刺激
子どもの頃から宇宙への関心が強かった宮脇教授。小学1年生の時に買ってもらった宇宙に関する学習図鑑は、全部の内容を覚えるくらい読み込んで気づけばボロボロになっていた。
「いつの間にか望遠鏡も買っていろんな星を見ていたんですけど、そうするといつしか、“見えるもの”に飽きてしまうようになったんです。目で見えるものには限界があって、それだけでは宇宙の真理はわからない。そうした過程で、電波を用いて天体を観測する電波天文学の道に進むようになりました。観測装置から得られるデータを細かく分析して宇宙の謎をつまびらかにすることに魅力を感じたのです」
宮脇教授がちょうど大学院生だった頃に野辺山45m電波望遠鏡が建設され、それをきっかけに大質量星の星形成過程についての研究をスタート。大学院卒業後は、実務経験を活かし福岡教育大学教育学部で教員養成を行いながら、天文学者として年に数日は野辺山宇宙電波観測所に行って観測データを持ち帰り、地道に解析し、論文を書き進めていた。転機となったのは、35歳の頃にカリフォルニア大学バークレー校へ留学した経験。文部科学省から各国立大学に割り振られている在外研究員の枠に応募して通過し、10ヶ月間、最先端の研究に触れることになる。
「アルマ望遠鏡の開発や、ハットクリーク電波干渉系の建設・運営にも携わっていたジャック・ウェルチ教授がいる大学ということもあり、解析手法など多くのことを学ぶことができました。日本の天文学者はだいたい数千人くらいなんですけど、アメリカの場合は1大学に何十人も研究者がいて、名の知れた研究者がたくさんいた。その中で自分はどの位置にいるんだろうかと意識しながら刺激を受けて研究できた期間が、その後の自信にもつながりました」
日々学生と向き合いながら
最後の論文に向けて研究も続ける
リベラルアーツとして天文学を教える面白さ
現在はリベラルアーツ学群において、「天文学」や「自然探究(人は天を見上げて考える)」といった授業を通じて宇宙の成り立ちや宇宙における生命の可能性について教えている宮脇教授。
「専門課程ではなくリベラルアーツとして天文学を教えることができるのは、ある種幸せなことだなと思っています。価値観が多様化しているからこそ、各学生によって天文学が与える影響や感じ取り方もさまざま。その中でも興味を持ってもらえるように、宇宙や惑星に関する多様な引き出しから学生の皆さんに情報を提示して、ひとつでも多くの興味のある学びを持ち帰ってもらえるように授業を進めています。学んだことをそれぞれ自分なりに吸収するプロセスを見られるのが面白いですね」
同期の研究者はほとんどが定年によって研究の最前線からは退いていて、宮脇教授も「続けるにしてもあと数年かもしれない」と語る。研究の集大成としてどのような未来を見据えているのか、最後に教えてもらった。
「これまでの研究過程についてしっかりまとめようと思っているのですが、ひとつのことを解明するとあれもこれもとまた出てきて、結局あと3つくらいは論文を書かなければいけないなと思っています。それが楽しみにもなっていますね。具体的には、現在は星の成長過程をスナップショットで撮っているのですが、それをムービーにしてよりわかりやすく可視化し、その後の成長シナリオを精密に予想できるような資料を残したい。最近は冗談で、修論ならぬ『終論(最終の論文)』を完成させると周りの研究者に話していますが、悔いのないように仕上げられればいいなと思います」
教員紹介
Profile
宮脇 亮介教授
Ryosuke Miyawaki
1960年、東京都生まれ。1984年、東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻修士課程修了(教育学修士)。その後、4年間、高校教諭を務めたのち、1989年から福岡教育大学教育学部で教える。1996年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。2007年より現職。リベラルアーツ学群自然領域長。
教員情報をみる