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同意とは何か〜インティマシー・ディレクターと考える特別講座〜

2025/11/27(木)

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日本初の公認インティマシー・ディレクターとして活動する伊藤樹里さん

10月9日(木)10日(金)、日本初の公認インティマシー・ディレクターとして活動する伊藤樹里さんによる「同意がひらく新しい創作のかたち」特別講座が行われました。
「インティマシ—・ディレクター」とは、身体的に親密、感情的にセンシティブな表現を安全かつ創造的に演出をし、ヌード、キス、疑似性行為、暴力、トラウマ性のある表現やシーンを扱う際に、安全かつ創造的に演出する専門職です。俳優の“同意”を尊重しながら、監督・演出家やスタッフと連携し、表現と質とチームの信頼性を高める仕事です。今回は、“同意”というテーマについて一緒に考えながら、インティマシー・ディレクターという役割が日本でどのように定義されるかについてもお話しいただきました。
伊藤さんは、アメリカ・カリフォルニア大学 サンディエゴ校にて演劇と出会い、帰国後、NPOにて演出家として活動されています。演出に携わられた作品のキスシーンで、役者にどう指示を出すべきかを悩んでいた際に、アメリカで「インティマシー・コーディネーター/ディレクター」という存在が話題になりました。“第三者の大切さ”に気づき、コロナ禍に勉強をされ、2023 年ニューヨークにてIntimacy Directors and Coordinators(IDC)の資格を取得されました。

この役割が注目されるようになった転機は、2017年にハリウッド映画のプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏による長年の性暴力とセクシャルハラスメントの疑惑が報道され、女優を含む多くの人が「#MeToo」とSNS に投稿し始め、映画業界でトラブルがあったことが可視化されたことです。さらに、アメリカのHBOというチャンネルは、センシティブなシーンが多く、専門家を入れる方針を発表したことで話題がさらに大きくなりました。

本講座では、伊藤さんが実際の現場で経験したことをもとに、演劇・映像・ダンスの異なるシナリオを用いたグループワークが行われました。参加者は関わる人の立場を想像しながら意見を出し合い、身体的・感情的な“同意”について考え、学びを深める形で進められました。具体的な問いやシナリオは、授業の中で体験しながら理解できる内容となっています。

「ダンス」グループでは、ダンサー同士で「どこまでが嫌か」という感覚を話し合い、演出家とも共有することの大切さが意見として挙がりました。長年クラシックバレエを続けてきた参加者からは、「グループで話す中で、“ここにも同意が必要なんだ”という新しい気づきがあった」との声もありました。「演劇」グループでは、「身体的接触の種類によっては“同意”が必要ないのではないか」という意見や、「演出家と俳優の年齢差から生まれる価値観の違いがあるからこそ、対話が必要だ」といった意見が出されました。「映像」グループでは、出演者やスタッフだけでなく、一般の人々を撮影する場合にも“同意”が欠かせないという意見が挙がり、現場での配慮の重要性が共有されました。それぞれのグループが自分たちのシナリオに登場する立場を想像しながら議論を重ねる中で、伊藤さんが実際の現場で行ってきた対処法も紹介され、参加者はより具体的に“同意”のあり方を理解することができていました。

最後に、伊藤さんの「インティマシ—・ディレクター」に対する想いをお伺いしました。 取材を通して見えてきたのは、日本の現場に根付く「空気を読み、輪を大切にする」文化です。相手の反応や気持ちに敏感に寄り添う姿勢がある一方で、本音を言いづらく、自己主張が弱くなる場面も多いといいます。日常の中でも、はっきりと「NO」と言うより、「いいよ」「大丈夫」といった曖昧な表現で断るケースが多く、言葉の裏にあるニュアンスを汲み取る力が求められているそうです。特に文化が多様な制作現場では、「YES」と「NO」の受け取り方の違いを理解し、言語面をサポートできるネイティブスタッフの存在が重要になると指摘されました。 また、日本の学校教育では、性教育や同意教育など、身体的・感情的な安全を学ぶ機会がまだ十分に整っていない現状もあるといいます。そのため、学生やタレント、演技経験の有無に関わらず、誰もが安全に表現できる環境づくりや学びの場を広げていきたいと語られました。さらに、インティマシーは、現在メディアや現場で「ハラスメント防止」の文脈で語られることが多いものの、本来はそれ以上の意味を持つ概念です。講座では、「インティマシー・ディレクターだけでなく、制作に関わるすべての人が“同意”という意識を共有することが必要」との声も聞かれました。安心して創作に向き合える現場をつくるために、同意や配慮のあり方を見つめ直すことが求められています。 伊藤さんは、インティマシー・ディレクターの存在を、表現活動に関わるすべての人に知ってほしいと語りました。インティマシーは単にハラスメントを防ぐための仕組みではなく、出演者やスタッフが安心して創作に向き合える環境を整えるための考え方です。その根底にあるのは、「“同意”の重要性を一人ひとりが理解し、尊重し合うこと」。こうした意識が広がることで、より豊かで誠実な作品づくりに繋がっていくのではないでしょうか。

記事:芸術文化学群3年 下島 藍奈

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