言葉の壁を越えて。「書く力」がひらいた、心理職への道
大学院 心理学実践研究学位プログラム 臨床心理分野 修士課程1年生/※2026年 桜美林大学リベラルアーツ学群 卒業
賈 裕彬さん(ガ ユビンさん/韓国・チェジュ島出身)
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「学群制」に惹かれて、桜美林大学へ
日本には「公認心理師」という国家資格があり、保健医療・福祉・教育・司法・産業など幅広い分野で心理支援を行うことができる。この事実を知った賈 裕彬さんは、日本独自の「心と身体のつながり」を重視する視点や、集団内の関係性から個人を捉える心理支援の考え方に強く惹かれ、日本留学を決意した。
桜美林大学を選んだ理由は、心理学だけでなくコミュニケーション学や多文化共生など、さまざまな分野を横断して学べる「学群制」にあった。「留学生である自分だからこそ持てる視点を生かし、多様な背景を持つ人々に寄り添える心理師になりたい」という思いが、進学の決め手となった。
「伝えたいことが伝わらない」——第二言語でレポートを書く苦悩
大学1年時、留学生向けの日本語授業で毎回レポート課題があった。しかし、そのたびに「何を伝えたいのかが分かりにくい」と度々指導を受ける。当時は膨大な時間をかけながら翻訳機を使わなければ自分の考えを日本語にまとめることができず、ほんの少しのニュアンスの違いで伝わる意味が大きく変わってしまうことにもストレスを感じ、「課題を終わらせることばかり考えていた」と、当時を振り返る。
WSCでのマンツーマン指導が変えた「書く力」と「学ぶ姿勢」
そんな日々のなか転機となったのは、大学1年時に必修であった日本語授業で紹介された、桜美林大学内の外国語のライティング(文章作成等)サポートを行う『ライティング・サポートセンター(以下、WSC)』だった。「ちょっとした課題でも見てもらえるのだろうか」という不安を抱えながらも、思い切って利用を始めた。
WSCでは、賈 裕彬さんの希望で、チューターの谷川順子さんと毎週1回のセッションを重ねることになった。授業のリアクションペーパーを声に出して読み、その場で自ら添削を試みる——賈 裕彬さんは日々チューターの谷川順子さんとともに練習を繰り返した。
また、チューター/谷川さんに勧められた小説も積極的に読んだ。最初は「書く練習なのに、なぜ本を勧めてくださるのだろう」と不思議に思ったそうだが、「うまく書けるようになることは、まず文章を読むことからだ」という谷川さんの言葉が、今でも心に残っているという。
———「自分で読んでどう思いましたか?」———
セッションの中で最も印象に残っているのは、谷川さんがいつも「自分で読んでどう思いましたか?」と問いかけてくれたこと。答えをすぐに教えるのではなく、まず自分で考えることの大切さを、丁寧に教えてもらった経験が、今の賈 裕彬さんの貴重な財産になっている。
「書く力」が変えた“学ぶ姿勢”と、 優秀論文という結実
WSCでのトレーニングを重ねるうちに、自分の文章の改善点を自分で見つけられるようになった。以前は「うまく書けるだろうか」という不安から課題を終わらせることばかり考えていたが、日本語で自分の考えを表現する自信が持てるようになってからは、「私は授業で何を学び、何を感じたのか」と自分を振り返りながら学べるようになった。授業への心理的ハードルは下がり、以前より学習に取り組む姿勢が積極的になったという。
そして大学4年時、賈 裕彬さんの卒業論文は2026年度の優秀論文に選ばれた。「まさか自分がそこまで成長できるとは思っていませんでした。WSCで積み重ねてきた努力が実を結んだ結果だと実感しています」と、当時の喜びを語ってくれた。
大学院での今、そしてアカデミック・ライティングの力
現在、賈 裕彬さんは桜美林大学大学院 心理学実践研究学位プログラム 臨床心理分野に在籍し、公認心理師・臨床心理士になるために、より専門的知識と実践的なスキルを学んでいる。大学院では心理検査の所見やレポートを書く機会が多く、毎週多くの論文や専門書を読むが、「WSCで文章を書く力と読む力を身につけたおかげで、長い日本語の論文を自分の言葉で要約できるようになりました」と語る。大学院入試の研究計画書作成においても、学士課程で学んだ論理的な文章構成力が役立ったという。
多様性の中で見つけた自分
桜美林大学には、国際部やWSC、留学生向け日本語授業など、留学生を支える体制が充実しており、日韓交流会や外国人新入生歓迎会、BBQパーティーなど、留学生と日本人学生が交流できる機会も多く、賈 裕彬さん自身も日韓交流会を主催した経験を持つ。「留学当初は日本人の輪になじめるか不安でしたが、多くの学生が私の文化や背景に興味を持って関わってくれました。桜美林大学の国籍を超えて一人の人としてつながる経験を通して、多様性が尊重される社会を実際に体感することができました」と話す。
後輩へ、そして世界中の未来の桜美林生へ
「日本語の悩みは一人で抱え込まず、大学にあるサポートを積極的に活用し、それを自分の成長につなげてほしいです」——これが賈 裕彬さんから後輩留学生への一番のメッセージだ。
また、桜美林大学のモットー「学而事人」について、賈 裕彬さんはこう語る。「最初から誰かのために特別なことをするという意味ではなく、まずは自分自身が学ぶことを楽しみ、挑み、自分にできることを一つずつ増やしていくこと。そして、それを周りと共有し一緒に楽しむこと自体が、その意味なのだと今は思っています。失敗を恐れず、自分の可能性を信じてさまざまなことに挑戦してください」。
取材日:
※この取材は2026年7月に行われたものです。