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一人ひとりのストーリーこそが
人を育てていく

 
桜美林大学 学長

畑山浩昭

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桜美林大学で活躍する先生たちに、畑山浩昭学長が鋭く斬り込んでいくインタビュー連載「百家結集」。様々な分野のトップランナーたちが多種多彩な知を生かし、学生と向き合う姿をお届けしてきました。最終回となる今回は、畑山学長と木村恵子AERA編集統括・ブランドプロデューサーが、タイアップ連載の振り返りやメディアと大学との関わり方、次世代の学生たちについて語り合いました。

多彩な先生方の人生や想い
「人の話」は重宝する

木村:「百家結集」は畑山学長自らがインタビュアーとなって、桜美林大学の先生方の魅力を引き出してくださいました。2020年に始まった連載は今回で最終回となりますが、「学長自らがインタビューする」というのは、他にあまりなかったのでは。

畑山:そうかもしれませんね。学長に就任したのが2018年。すでにSNSが世界的に普及するなか連載を始めるにあたり、「学長の発信力が重要だ」と考えました。大学は、先生と学生のインタラクション(交流)がポイント。先生方と自分自身をプロモートし、学生・各先生・学長の「Win-Win-Win」の関係をつくろうと。「AERA」のブランド力をお借りし、外の世界にアクセスしていこうと考えたのです。
最初からすぐに大きな反響がありました。僕自身、勉強になりました。僕を含む大学教員は専門性を持ちつつ、他の領域の方々と深く話す機会が少ないのです。色々な先生方をお呼びし話を聞くと、気づくことが本当に多かった。自分の専門領域以外の分野をしっかり理解していくことは、学長としては大事。楽しみながら連載を続けてきました。

木村:それにしても、実に様々な先生方が登場しましたね。ご専門もそうですし、桜美林大学に来られる以前の職業経験も多彩です。

畑山:学生と話をしていて、よく聞くのは、「あの先生の授業のおかげで自分は変わった」という瞬間があるということです。「自分がこれまで考えもしなかったことを教えてくれた」「先生のひと言で変わった」。そんなことが学内では毎日起こっています。
先生方がなぜその道を進んできたのか。なぜ今、桜美林大学という教育現場にいるのか。それぞれ熱い想いを持っておられる。話を聞くとよくわかりました。そんな先生方のことをしっかり伝えることが使命です。先生方も僕に話をすることによって、自分自身がこの大学でどんな使命を持っているかを悟っていく。それもよかった。

木村:インタビューに答えていくことで、考えが整理され、言語化されていったのですね。

畑山:学群長は、また少し異なった様相を呈します。自分の研究や教育だけでなく、どうやって学群を動かしていくか、人をまとめていくか、学群の魅力をどう伝えるか。そういったことについて話が及ぶのです。

木村:連載の反響はどうでしたか?

畑山:「いつ呼んでくれるの?出たいんだけど」という先生方がたくさんいました(笑)。学生たちはSNSに様々なコメントを寄せてくれました。

木村:普段とは違う先生の素顔や、これまでの道のりを知ることができたのですね。ネットの話がありましたが、SNSが若い世代に不可欠なツールになった一方、自分の関心や気になるものだけがリコメンドされ、考えが偏狭になる弊害もあります。そんななか様々な人に出会い、多様な考え方に出合える大学は、これまで以上に大事な場所になっていると感じます。

畑山:自分がもし今、受験生だったら、すごく迷うと思います。ランキング、コメント、裏情報。どれを判断基準にすればいいのか。自分自身で理解し、判断し、行動に移していく。その力を養う教育は、初等教育から大学まで必要だと思います。さもないと迷ってしまう。毎日迷う人生は幸せになれませんよね。いつまでも確信が持てず、どんな判断をしても「それでよかったの?」と。

木村:情報の渦のなかで何を選び、どこに確信を持って、どこに幸せを見つけて生きていくか。その礎を大学で培っていくのはとても大事ですね。

畑山:僕自身、文学をかじっているだけでしたが、学長就任後はマーケティング、ストラテジー(戦略)、マネジメント、法律など全てを自分で勉強する必要が生じました。そんななか最も参考になると気づいたのは、実は「ひとりの人間の物語」だったんです。「ある企業を立ち上げ、色々な目にあったけれど、こう対処し、こう成し遂げた」というような。学生も一緒だと思います。先輩の話などが最も参考にしやすい。自分と似た境遇の人の話が一番よい気がするんです。さらに「百家結集」のような人の話は、もっと重宝する。

木村:深く共感します。というのも「AERA」も人にフォーカスを当てている媒体だからです。理論の伝授よりも、ひとりの人がどうしたか。それが自分にそのまま当てはまるわけでなくても、様々な人の向き合い方や想いのケースを読み、それを参考に「この部分を取り入れてみよう」と。「百家結集」でこれだけ多彩な先生方の人生や想いが書かれていることは、学生たちにとって本当に大きな人生の参考になり得ますね。
畑山:愛着が湧きますよね。距離が縮まるんです。

木村:一般論で「こうしたほうがよい」ということよりも、物語に入り込めますよね。そういう意味で、宝物が詰まった連載です。

畑山:学長は責任を取る立場ですから、ノウハウの話よりも、むしろマインドセット(物事のとらえ方)、メンタル、そして覚悟が必要になってきます。先生方の話を聞くと、どの段階でどう責任を感じ、どう向き合ってきたのかがよくわかって面白かった。企業で役員まで務めた方が実務家教員として桜美林大学に移ってくると、もう「教育一本」なんですよ。これからの学生たちのために、何とか自分の知見を全力で教えたい。その心意気が伝わってくる先生方ばかりです。

木村:たしかに「若い世代につないでいきたい」という皆さんの想いが強く伝わってきます。職場では今、短期的に結果を出し、成績・数字を上げることを求められがちです。時間をかけて若い世代を育て、つなげていくことにパワーを注ぐことがなかなかできない。一方で教育現場は、自分の学んできたことを引き継げる現場になり得るのですね。どの先生方もそこに「やりがい」を感じておられる。長い歴史のなかで培われてきた、それこそが価値なのですね。

畑山:先生方も若い世代もお互いの価値観を大事にし、交流していく。相互理解が理想の関係ですね。

妥協せず、寛容でフレキシブル
未来へと末永くつなげていく

木村:この連載はAERA DIGITALとのタイアップ企画でしたが、大学とメディアの関係について、どんな想いを抱いていますか。

畑山:どの立場で、誰に伝える媒体か。メディアは学生や教職員、経営陣が社会に対し何を伝えたいと思っているか、どうやってそれを伝えれば喜んでもらえるかを想像してほしいと思います。色々なタイプのメディアがありますが、そこには使命感を持っていただければとの思いがあります。実は大学も同じです。財務省が少子化を背景に、2040年までに現在の私立大学の約4割を削減すべきとする案を公表しました。すると大学は、どんどん学生募集のマーケティングのほうだけに偏ってしまう。カリキュラムの話よりもどう続けていくかという話ばかりになってしまう。そんなふうにメディアも大学も「売れてナンボ」の世界に入ってしまうと、今度は何を売っているかわからなくなってしまいます。

木村:デジタル化が進み、数字ばかりに目がいきがちですが、学生や先生が本当に発信したいこと、知りたいことを伝えていく、そうした本質を忘れずにいないといけませんね。

畑山:学生が大学で貴重な期間を過ごすなか、「この大学に合う人、合わない人」っているはずだと思うんです。それをマッチングさせる手伝いをするメディアがあればと思います。「アート系に行きたい」「僕は社会科学系」「私はエンジニア系に」という想いが叶い、かつ経済的状況をクリアし、「雰囲気が合う」「就職実績が自分の夢と合致する」など、様々な要素が一致したうえで過ごすほうが、幸せになる確率が高いと思うんです。そんな導きはメディアでしかできません。学生が4年間でどんなストーリーを構築できるかが見えるような情報を、学生や保護者に伝えるメディアがあってほしい。

木村:「一人ひとりのストーリー」は大きなヒントになりますね。高校生が進路を考える時、偏差値などが選択基準になってしまいがちですが、そうではなく、どの大学に行けば自分の人生が豊かになるかが見えてくるとよい、ということですね。

畑山:そうですね。点数の高みを目指すこと自体は、頑張った証しでもあるので否定しませんが、パーソナルストーリーが大事です。パーソナルストーリーといえば、よく「個人の見解で組織とは関係ございません」という但し書きがあるじゃないですか。あれはナンセンスだと思っているんです。
僕は学長という肩書でSNSで呟いていますが、結構なリスクですよ。でも「学長がこう言ったから、こうなります」ではなく、「学長はこう考えているけど、それってどうなの?」と。学内の皆で考え、最終的に「組織としてはこう決定しました」となるのが理想です。
だから学長はアグレッシブにバンバン言えばいい。これだけSNSが発達し、皆がメディアになって発信できる時代だから、「どんな人であるか」「どういう想いを持っているか」が最大の価値になっていると思うんです。
木村:リスク管理に縛られると顔が見えなくなり、公式見解しか言えなくなってしまいますが、そうではなく、個人としての想いを前面に出して、ぶつかっても、組織で話し合えばよい、と。

畑山:そちらのほうが健全ですよね。どんどんそうなったほうがいいと思います。

木村:ところで今、「若者に覇気がない」とも言われます。そんななか、桜美林大学で学ぶ学生たちの可能性をどう評価していますか。

畑山:彼らのほうがむしろ、社会の価値を考えていると肌で感じています。デジタルネイティブで、我々が理解できない分野で相当なアドバンテージを持っている。我々の世代が取り組んできたことには、もう価値を置いていない。自分たちが生きていく環境がこれからどうなるか、ということにとても敏感です。お金の価値観も、高いものがよいわけではなく、自分たちが幸せだと感じられるものに重きを置いていて、プラグマティック(現実的)。そんな学生たちがこれから社会をどう築いていくのか、ポテンシャルはかなり高いと見ています。

木村:最後に、2027年春で任期を終えられますが、桜美林大学の未来にどんなことを期待しますか。

畑山:組織も物語ですから、紆余曲折や浮き沈みがあります。次の体制には課題が何かを認識し、ミッションを自分たちで定め、未来の桜美林大学を築いてほしい。組織が次の段階に行くための階段を一歩一歩上がるため、次の学長たちがこれまでの物語をどう見て、ミッションを決めていくか、楽しみです。

木村:引き継ぐというよりも、次に何が生まれてくるかを見ていかれるのですね。

畑山:もちろん建学の精神は継承しつつ、やるべき具体的な仕事として、どこにフォーカスを置いていくのか楽しみです。桜美林大学は今、勢いが出てきているときです。これからさらに、桜美林大学ならではの価値を感じる学生や教職員が増えてくれれば。桜美林大学を薦める人がもっと増えるのが理想で、それを実現させるには、確固たる根拠が必要です。
桜美林大学は「共生」の感覚を昔から持ってきました。妥協しない一方で、寛容でフレキシブル。僕自身が学生として学んでいた当時から脈々と受け継がれています。広くて深く、強くて明るい。そんな美点を「百家結集」では伝え続けてきました。これを未来へと末永くつなげていけたらと思っています。

桜美林大学 学長

畑山浩昭

1985年、桜美林大学文学部卒業。鹿児島県公立高校教諭を経て、1994年、ノースカロライナ大学シャーロット校大学院修士課程修了、修士(M.A.:文学)。2001年、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校大学院博士課程修了、博士(Ph.D.:文学)。2010年、マサチューセッツ工科大学経営大学院修士課程修了、修士(MBA:経営学)。2018年、桜美林大学学長に就任。文部科学省大学設置・学校法人審議会(大学設置分科会)委員、公益財団法人大学基準協会理事、公益財団法人日本高等教育評価機構評議員、一般財団法人神奈川県私立学校教育振興会評議員、日本私立大学協会国際交流委員等を務める。モンゴル国よりナイラムダル(友好)勲章を受章。専門はレトリック、批評理論。主な著書に『自己表現の技法』(分担執筆、実教出版)など。

文:加賀直樹 写真:今村拓馬 衣装協力(木村):ESTNATION