口コミに 耳を澄まし、検証する SNS時代にリテラシーを/西山 守 准教授
航空業界で整備のプロフェッショナルとして長らく活躍してきた北田裕一教授が、航空学群の学群長に新たに就任。これまで培ってきた経験や信念、今後さらに魅力的な教育現場にするための展望を語りました(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。
先端技術の結集のような仕事を
ほぼ整備一筋の会社員時代
畑山:航空学群の学群長に新しく就任された北田先生に、これまでの歩みや今後について伺います。京都大学の学部、大学院のご出身ですね。工学系の分野にもともと興味があったのですか。
北田:理系で、子どもの頃からモノづくりや機械いじりが好きでした。「せっかくなら先端の分野に取り組みたい」と考えていました。私が選んだ研究は、デジタル通信の基礎技術。いかに効率よく、間違いのないデータを送れるかという技術です。携帯電話という概念がまだありませんでしたが、研究室の先生と「将来、自分の腕時計で話せる時代が来るだろうね」なんて話をしていました。
畑山:当時からそんな話をしていたとは! 大学院修了後は、就職されました。
北田:研究室には、非常に優秀で緻密な設計をする先輩方や留学生がいました。「これはかなわないな」と、研究職よりもっと広い視点で仕事をしたいと思い始めて。「航空機」という、先端技術の結集のような仕事をするのが面白そうだと、日本航空に入社を決めました。
畑山:最初の配属先は?
北田:電気系統や通信機器を整備する現場でした。
畑山:電子よりも、電気が主流だったのですか。
北田:まだアナログの世界でした。自分で配線を追いかけ、原因を探していく。今はソフトウェアですから変わりましたけれども、当時は自分でチェックしていき、「ここがおかしい」という部分を突き止め、改善していく。やりがいがありました。
畑山:整備の現場は、その頃と変わってきているのでしょうか。
北田:安全に対する意識は、当時も今も変わらないと思います。というのも、私が入社したのは1986年。日本航空で 123便の墜落事故があった翌年だったんです。
畑山:そうでしたか!
北田:心配もありましたが、「だからこそ、この仕事に取り組みたい」という気持ちがありました。会社員時代は基本的にずっと、整備一筋です。
畑山:整備のテクノロジーなどが大きく変わった時期は、いつだったのでしょう?
北田:やはり先述の事故後です。整備に対する考え方やプログラムが大きく変わったと思います。その後も整備のやり方は変わってきており、新しい技術を使った整備のやり方が出てきています。たとえばビッグデータを使った予測整備などがありますが、根本はあの時に大きく変わったと私は思っています。
「真実を見極める力」や
「自分で考えること」の大切さ
畑山:その後、組織の中で責任ある立場を担っていかれますね。
北田:そうですね。実は大学生の時に漠然と、「20代、30代、40代で何をしようか」と考えていました。20代の時には、自分の引き出しを増やす。30代では、人を動かせるための勉強をする。40代になったら、組織を動かせるような勉強をしたい。10年区切りで考えていました。40歳ぐらいになると管理職になりますが、大事なことは「人を育てること」だとつくづく思いました。マネジメントは、いかに後輩を育てるか。最初に管理職になった時、上司から初日に「君の仕事は自分の後任を探すことだ」と言われましたよ。
畑山:それはびっくりしますね。
北田:継続性を非常に重要視したということですね。人の育て方は変わってきていますが、厳しさとやさしさの両立、その人の力を信じることが肝心です。
畑山:整備本部長や関連の航空機整備会社の社長を歴任されたあと、桜美林大学に来られて、航空学群の学生たちには「真実を見極める力」や「自分で考えること」が大事だとおっしゃっていますね。
北田:今の時代はAI が普及し、知りたい情報がすぐにわかるようになりました。でも中にはフェイクもあって、真偽を自分で見極めないといけない。整備部門に長く携わってきましたが、原因を突き止めるのが簡単ではないケースもあります。故障を解析し、どこが原因かを突き止める。整備マニュアルに記載されている手順どおりにやったとしても、うまくいかないこともある。自ら悩みながら「解」を見つけていくことが大事で、それは訓練しておかないとできないと思うんです。よく上司から言われた言葉は、「思考を停止するな」。
畑山:「思考停止になるな」ということですね。
北田:ずっと考え続けろ、と言われました。たしかに考え続けていると、ふっと答えが見つかる時があるので、そうした訓練をやっておかないといけない。AIのような技術は、よいツールなので使うべきだと思いますが、「ちゃんと使えるか」が大事。様々な情報の中で「これが正しい」と思う力を身につけることが重要で、それは大学教育でしかできないという気がします。
今は技術が進み、飛行機自体の故障診断も相当進んでいますが、それでもうまくいかない時、どう見つけるかを身につけないと。キーワードは「本当か?」と思うこと。人は、うまくいった時にはあまり振り返りませんが、「本当にこれでよかったのかな」「たまたまだったのでは?」と疑ってみる。そこをやらないといけないと思います。
人の命を預かる仕事だからこそ
専門以外の分野を学んでいく
畑山:北田先生は日本航空から桜美林大学に来られて、実はまだ1年経っていないんですよね。いきなり学群長の重責をお願いしていますが、教育現場についてどのような印象を持っていますか。
北田:まだ航空学群の学生としか会っていませんが、とても素直な学生が多い。将来の夢についてある程度決めて入学してくる学生が多いですから、意欲が高く、ほぼ全員、4年で卒業していきます。教育する側からすると、とてもよい環境だと思います。
航空学群では学外での実習や、実務経験のある外部講師に来ていただくことを積極的に実施しています。それはとても有効で、今後も続けていきたいと思います。海外研修がしっかりあるので、グローバルな経験は積めますが、専門性の高い授業が多い一方、4年間の中で航空「以外」のことをどうやって学んでもらうか、そういうきっかけも与えていこうと思います。
畑山:大切な課題だと思います。昔は専門教育と一般教育が分かれていて、一般教育の授業でいわゆる教養を身につけていました。航空学群のような専門の学びが多いところで、いかに教養を手厚くするか。
北田:そうですね。航空業界は人の命を預かる仕事が基本ですので、倫理教育や歴史、伝統、文学などの分野を学んでいく機会も必要だと思います。
畑山:学生たちは航空業界で働くことについて、どんなイメージを抱いているのでしょうか。
北田:今はみな、情報を持っているので現実とのギャップはあまりないかもしれませんが、華やかで楽しい仕事でありつつ、地道な努力が必要です。とくに航空機の運航の現場では、定時に飛んで当たり前で、ほめられることは少ない。そういう仕事で、どうやりがいを感じていけるか。大変だけれども、「お客様のために役に立った」という瞬間を感じられる職種だから、それを信じて淡々と頑張ってほしいと伝えています。
畑山:航空学群は独自のプログラムを持っていますが、特色や強みをどうアピールしていきたいですか?
北田:4年間、単なる知識の習得だけではなく、航空の世界で生きていくために必要な資質、人間性、品格を身につける。そこは桜美林大学でしかできない、ということをアピールしていきたいです。技術教育だけじゃなく、実務経験のある先生方がたくさんおられるので、先生方の経験に触れて、どういう姿勢で仕事をしていったらよいのか考えてほしいですね。技術が発達し、省力化が図られていますが、最後の判断は人間がやらなければなりません。「愚直であれ、正直であれ、誠実であれ」と言いますが、そうした根本的なところをしっかり学んでほしいし、それができる大学だと私は思っています。
畑山:最後に、学生にメッセージを。
北田:航空業界は浮き沈みがありますが、まだまだ成長できる業界だと思います。自分の可能性を信じ、決して諦めず、希望を持って夢の実現のためにひたすら努力してほしい。航空学群で学んだ知識や考え方は、あらゆる仕事に活きるはずです。今後もっと素晴らしい学群にするため、私も努力していきたいと思います。
※この取材は2026年5月に行われたものです。
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