メインコンテンツ
記事公開日:2025年7月30日
自身のバンドのアートワーク制作をきっかけに、美術の道へ
県内のバンドコンテストでグランプリを受賞
「グラフィックデザイン」というと雑誌など紙メディアのデザインを思い浮かべる人が多いだろう。正確には、色やかたち、文字などを組み合わせて情報を視覚的に表現したものを指す。こうした情報表現を対象として、いかにして人の視覚を正しくコントロールするかというグラフィックデザインの効果について研究しているのが、芸術文化学群の小西俊也助教だ。
中学生の頃に出会った美術教諭の影響で美術が好きになり、自身も美術教諭になるべく教育大の受験を視野に入れ、木炭デッサンの練習に励んでいた時期もあったという。しかし、のちに美術により特化した美術大学に進路を変更。そのきっかけは、自身のバンド活動にあった。
小西助教がギター・ボーカルを始めたのは中学生の頃。1980年代終盤から1990年代前半にかけてZIGGYやLUNA SEA、Mr.Childrenなどが名を馳せた第2次バンドブームの最中、特にTHE BLUE HEARTSに憧れていたという。
高校時代にはクラスメイトとバンドを結成。当初はコピーバンドとして始動したが、のちにオリジナル曲を作り始めるなど活動は本格化し、美術が好きだった小西助教はデモテープのジャケットデザインやプロモーションビデオなどのアートワーク制作を率先して担当した。これがものづくりの楽しさを知った原体験になったという。
その後、高校3年生のときに出場した岡山県内のバンドコンテストではグランプリを受賞。地元のラジオ番組に出演し、大手音楽事務所の若手発掘部門にも目をかけられるなど世の中の注目を集める中で「上京したい」という気持ちが日増しに強まっていった。
「当初は地元の国立大学の教育学部を受験する予定でしたが、上京したいという気持ちが強くなり、東京の大学を探し始めたときに美術大学の存在を知りました。もともとバンドのアートワークを制作する中でものづくりの楽しさを実感していたので、『東京でバンド活動をしながらものづくりについても学べる』という点に魅力を感じ、高校3年生の夏に進路を急遽変更したのです」
「デザイン」を広く捉えてから、
制作の楽しさに気づいた
今でこそデザインの専門家として教鞭を取る小西助教だが、バンドのアートワークの中でも特にプロモーションビデオの制作に楽しさを見出していたこともあり、当初は武蔵野美術大学の映像学科を志望していた。
高校在学中の入学は叶わなかったものの、上京してバンド活動を続けながら美術予備校で試験対策に励み、合格を目指す日々。通っていた予備校では美術大学の学業やアーティスト活動の傍ら、副業として予備校で働く人をはじめとした多様なバックグラウンドを持った講師陣との刺激的な出会いに恵まれた。生き方や働き方の選択肢が広がるとともに、アートの世界への憧れをさらに深めた。
しかし、2度目の受験でも映像科への合格は叶わず、併願していたデザイン情報学科に入学。アート志向が強い予備校の影響を大いに受けていた当時の小西助教にとっては、商業や工業などの実用的なデザインを学ぶことに強い抵抗があり、1~2年次はほとんど学校に行かず、バンド活動に明け暮れたという。
転機が訪れたのは、大学3年次に今泉 洋教授のゼミに入ったことだった。
「私が入ったゼミでは『デザイン』を『情報を整理する表現』と広く捉えており、アートとデザインの垣根がほとんどないことに気づきました。それ以降はかねてより関心があった映像を使った作品表現やインスタレーション作品の制作発表に取り組み始め、大学生活が一気に楽しくなっていきました」
デザインを軸にしたアート制作に魅せられた小西助教は、大学卒業後に美術予備校の講師として1年働くも、再び武蔵野美術大学の造形研究科デザイン専攻デザイン情報学コース修士課程に入学。講義の教育補助業務を行うTA(Teaching Assistant)のアルバイトをしながら、大学1~2年次に触れきれなかった制作の楽しさを享受し、学びを深めていった。
その後、同校の研究室で助手を務めたのちに、出身学科の非常勤講師に着任。デザイン初学者向けの講義「デザインリテラシー」を担当することになり、同じ講義を担当する講師陣とともに『かたち・色・レイアウト 手で学ぶデザインリテラシー』を執筆・刊行した。同講義は武蔵野美術大学のデザイン情報学科の新入生が受講する“名物授業”となり、これを機にグラフィックデザインの基礎研究が小西助教のキャリアの中核になっていった。
グラフィックデザインは
「視覚情報のスタイリング」に留まらない
グラフィックデザインの「意味」を見出す
デザインリテラシー
グラフィックデザインは色やかたち、文字などの視覚的要素を組み合わせて情報を伝えるもので、プロのデザイナーが作る各デザインの要素や構成には必然性がある。こうしたデザインが持つ「意味」を読むためには、デザインに対する読み書き能力"デザインリテラシー"が必要になる。
学問としてのグラフィックデザインはまさに、グラフィックデザインを研究対象として「それを構成する要素が何なのか」「なぜそうした構成になっているのか」などと、そのデザインが作られた背景を“考察”し、デザインリテラシーを養うものだ。小西助教はこれを“作り手の視点”と呼び、その重要性について以下のように語る。
「グラフィックデザインの構造を理論的に学ぶことで“作り手の視点”を獲得し、背景にある『意味』を見出せるようになるかどうかが、初学者とプロを分かつ最初の分岐点です。これにより良し悪しを語ることや自分でデザインを展開することはもちろん、複数案から最良のデザインを選んだり、改善点を見出したりすることも可能です」
作品の背景を読み解く批評眼を養うことは、デザインに限らず、プロとして技術を向上させるためには欠かせない重要なプロセスだ。しかし、受け手にわかりやすく伝えるべきテーマがあらかじめ設定されているグラフィックデザインにおいては、こうした“作り手の視点”を養い、物事の本質を捉えることが他ジャンル以上に求められる。
グラフィックデザイン制作において、物事の本質を捉える重要性について、小西助教は次のように語る。
「たとえば、『リンゴの本質』について考える場合、まずは『赤い』といったリンゴの特徴を挙げます。そのうえで『なぜ赤いのか』を突き詰めて考えていくと『リンゴとは実で、子孫を残すために種子ごと鳥に食べてもらわなければいけないから緑の中でより目立つための色として赤くなっているのだ』『それはエロティシズムだ』といった結論にまで掘り下げることができます。グラフィックデザインではメッセージを端的に表現する必要があるため、伝えるべきテーマを掘り下げて考える訓練も大切です」
グラフィックデザイン領域において
「コミュニケーション」が重要な理由
小西助教が受け持つ講義や専攻演習では、個人制作であってもグループディスカッションを行うなど、受講生同士の意見交換を行う場が随所に設けられている。これには他人の思考に触れる機会を持つことにより、アイデアの引き出しを増やす目的があるのだという。
また、コミュニケーションの機会を持つこと自体も、グラフィックデザイン制作のスキルを上げるうえで重要だと小西助教は話す。
「グラフィックデザインは、消費者と視覚情報を通じてコミュニケーションをとることから『ビジュアルコミュニケーションデザイン』と呼ばれることもあります。グラフィックデザインでは伝えるべきテーマの取捨選択が重要になりますが、これも広くはコミュニケーションの一環です。そのため、私自身も学生をはじめとした身の回りの人とのコミュニケーションを大切にしています」
クリエイティブな思考を誰もが手にし、
豊かに生きる社会を目指して
小西助教はロゴマークやポスターなどの演習課題を通してグラフィックデザインの基礎から実践までを学ぶ「グラフィックデザイン」や、デザインの仕事でよく使用されるAdobeの「Photoshop」と「Illustrator」「InDesign」の使い方を教える「デジタル基礎編集」など、主にグラフィックデザイン初学者向けの講義を担当している。入学当初の学生の中には、高校時代に美術予備校に通った経験がないなどの理由から、自分の技術に自信がないと話す人も少なくない。そこで自身が担当する初学者向けの講義では、グラフィックデザインへのハードルを下げることを意識しているという。
「学生の中には『グラフィックデザインの“センス”がない』と話す人がいますが、さまざまな要素を配置すること自体は赤ちゃんでも動物でもできます。ただし、美しいグラフィックデザインを作るためには知識や練習が必要です。私は“センス”を“知識”や“経験値”として捉えているので、知識を身に付けて練習を重ねれば誰でも上達できるのだと学生たちに伝えています」
このようにデザインの技術を特権化せずに多くの人に開いていこうとする姿勢は「誰もがクリエイティブな思考を持てる世の中になってほしい」と願う小西助教の思想にも通底している。
「デザインとはそもそも受け手に喜んでもらうための“贈り物”で、そのゴールに向かって最適な段取りを計画するのがデザインのプロセスです。これはお店のロゴや看板、ポスターといった商業的なビジュアルに限らず、プレゼンテーションの資料作りからパソコンのデスクトップ上のフォルダ分けなどの物事や情報の整理・設計に至るまで、日常のありとあらゆる場面で活用できます。こうしたクリエイティブな思考を持ち、自分の身の周りを心地良い環境に思いやりを持ってクリエイトしていく人が増えることで、世の中が豊かになることを願っています」
※記事本文に記載の職位などは、取材当時の情報です。
教員紹介
Profile
小西 俊也准教授
Shunya Konishi
1980年、岡山県生まれ。高校在学中から自身のバンドのアートワークを手がけたことがきっかけで、美術大学への進学を志す。2004年3月に武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科を卒業。2007年に同大学の造形研究科デザイン専攻デザイン情報学コース修士課程を修了し、2012年から同大学造形学部の非常勤講師として勤務。その後も大妻女子大学や桜美林大学、駿河台大学にて非常勤講師を務め、2022年より現職。
教員情報をみる<at>を@に置き換えてメールをお送りください。
