メインコンテンツ
スポーツ医学の視点から、アスリートの疲労骨折を予防する研究に取り組む。
骨・筋の研究を通じて陸上競技者のパフォーマンス向上を目指す
トップアスリートのパフォーマンス向上、高齢者の健康支援、怪我の治療・診断・予防など、スポーツ医学が立ち向かう課題は想像以上に幅広い。中でも健康福祉学群の藤田真平准教授は、スポーツ選手が高いパフォーマンスを発揮するための研究に情熱を注いでいる。陸上競技を中心に、医学的アプローチとパフォーマンス向上の両面から、アスリートの支援に取り組んでいるのだという。
「専門分野はスポーツ医学(運動器)で、骨・筋に関するスポーツパフォーマンスの向上および外傷障害の予防について研究しています。特にメインで取り組んでいるのは、大学時代から研究を続けている陸上競技に関する内容。同時に、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格も持っているので、大学ではトレーナーに関する授業も担当しています」
疲労骨折の見えない進行を「骨吸収マーカー」で可視化
藤田准教授の主な取り組みとして、疲労骨折に関する研究がある。骨折をした際に痛みを感じるのは周囲の筋肉や骨膜が損傷したからであり、骨自体には痛覚がない。そのため、本人も知らない間に疲労骨折の病状が進行。問題が深刻化するまで気がつかないといった状況がしばしば起こりうる。
そもそも、骨は新陳代謝を繰り返している。破骨細胞による「骨吸収」と骨芽細胞による「骨形成」がバランスよく行われることで、丈夫な骨を保つことができる。しかし、練習で走り続けているスポーツ選手は骨に微細な損傷が蓄積しており、それが修復されないことによって疲労骨折につながってしまう。こうした状況に危機感を覚えた藤田准教授は、特に疲労骨折が多いとされる女性長距離走者を対象に「骨吸収マーカー」を用いた研究に着手した。
「骨吸収マーカーとは、骨の新陳代謝における骨吸収の程度を反映する指標のことです。私の研究では、骨に含まれるコラーゲンの分解に伴って尿中に排出される『I型コラーゲン架橋 N-テロペプチド(尿中NTX)』を骨吸収マーカーとして活用しました。女性長距離走者を対象に複数回の測定を実施し、平均値と標準偏差を算出。これを疲労骨折のない通常値として分析に用いるとともに、実際に疲労骨折の診断が出された時にも測定を行いました」
疲労骨折と尿中NTXの関連を解き明かすことに成功
同じ対象者への測定を重ねることで平均値を算出したことには大きな価値があったと藤田准教授は振り返る。当然、能力の近いアスリートであっても尿中NTXの量は人によってばらつきがある。複数回の測定を通じ、それぞれの変動範囲内での増加と、イレギュラーな増加を見分けることにつながったという。度重なる実験の結果として見えてきたのは、疲労骨折と診断された際に尿中NTXの数値が高くなるという事実だった。
尿中NTXの全測定の平均値は40.5±9.5nmolBCE/mmolCREであり、閉経前一般成人女性の基準値内を示していた。しかし、疲労骨折を発症した6名の尿中NTXは、通常値(40.2±9.9nmolBCE/ mmolCRE)より疲労骨折時(64.1±16.1nmolBCE/ mmolCRE)が有意に高値を示したという。
「長距離走者は、日々の練習で常人離れした距離を走っています。にもかかわらず、尿中NTXの数値が極端に高くなったのは、疲労骨折と診断されたタイミングであることがわかりました。つまり、尿中NTXの変化が疲労骨折の発症を明確に捉えたということです」
アスリートの身体だけでなく、精神面も傷つけない検査を模索
この測定のメリットとして、“非侵襲的”であることが挙げられる。血液検査では人体に針を刺す必要があるが、尿中NTXは体内から自然に排出される尿を用いて測定することができる。ここにはもちろん、アスリートの大切な身体を傷つけないという配慮がある。また、採血時のわずかな傷であっても、その直後の競技タイムが振るわなければ検査の影響を疑ってしまう可能性もある。身体のみならず、デリケートなアスリートの心理に寄り添うことができるのは、トレーナーとしての経験を持つ藤田准教授の研究における強みになっている。
「疲労骨折は人間と競走馬くらいにしか発症しない症状だといわれています。自然界の動物たちは、身体が限界を迎える前に休息をとるからですね。しかし、アスリートたちは限界を超えて努力することを惜しみません。その結果、努力しすぎて疲労骨折になってしまうと、数ヶ月にわたって練習できなくなるリスクがあります。骨に負担がかかっている場合、それを軽減するためのもっとも有効な手段は練習をセーブすることです。しかし疲労骨折を恐れて、練習をセーブしすぎては競技力の向上は望めません。どこまで練習して、どこまでセーブするのか。疲労骨折が発症しないように練習をコントロールするため、アスリートたちに疲労骨折を予防するためのベストな選択肢を提示したいと考えています」
陸上競技者からトレーナーを経て研究者の道へ
怪我をきっかけに学生トレーナーとなることを決意
一般的に運動では不利だとされる早生まれだったにもかかわらず、小学校低学年の頃から足が速かったことでスポーツが好きになったという藤田准教授。新潟県のスキーが盛んな地域で育ち、小学校時代には地元のスキージャンプの大会では優勝したこともあった。しかし、道具代や練習のための費用、遠征費用など、スキーには膨大なお金が必要だと知り、比較的シンプルなスポーツである陸上競技を始めた。
「私の入った高校は陸上が強くて、リレーではインターハイに進むことができました。同時に、部活を通じてトレーナーの方と出会い、アスリートをサポートする職業があることを知りました。トレーナーの仕事に興味を持った私は順天堂大学に進学。実は入学するまで、陸上競技においてトップクラスの大学だということを知らなかったんです。私も陸上部に入りましたが、同級生に雑誌の表紙を飾るようなスター選手がいたりして(笑)。怪我をきっかけに自分の将来を見つめ直し、トレーナーとして陸上競技に関わりたいという思いを強くしました」
恩師との出会いから、スポーツ医学の研究にのめり込んだ
こうした背景から、藤田准教授は選手から学生トレーナーに転向。部活のチームドクターとして出会ったのが、恩師である櫻庭景植教授だった。櫻庭教授は、世界陸上やロンドンオリンピックの日本代表にスポーツドクターとして帯同した経験を持つ人物。当初はトレーナーになることを目指して櫻庭教授の研究室に所属した藤田准教授だったが、次第にスポーツ医学の研究者として選手をサポートすることに面白さを見出し始める。
「学生トレーナーを続けるなかで、経験や感覚だけでなく科学的な根拠に基づいた指導が必要だと感じるようになったんですよね。当初は短距離選手のランニングパフォーマンスに関する研究をしていましたが、博士課程に進むタイミングで研究内容を変更。櫻庭先生がメインで研究を行っていた疲労骨折に関する研究に取り組み始めました。私自身が教員となった現在、学生たちにも“なんとなく”ではなく、科学的に正しいとされる方法を学び、それをもとにアレンジすることの大切さを伝えています。同時に、興味を持ったことは何でも挑戦していいというスタンスで教えている。このマインドは、櫻庭先生から学んだ経験が大きいように感じています」
事前予測で疲労骨折や骨粗鬆症のない世の中をつくりたい
現在の関心は、トレーニングの「質」と「量」が骨に与える影響
陸上競技者からトレーナー、そしてスポーツ医学の研究者という変遷を遂げた藤田准教授。自身の研究と並行して大学ではトレーナーの授業を担当するとともに、2024年度からは桜美林大学駅伝部の部長として、箱根駅伝出場を目指した活動を行なっている。研究者としての知識が選手の健康管理に、選手としての知識が指導に活きるなど、それぞれの立場での経験が相乗効果をもたらしているのだという。こうした複合的な知見を発揮し、現在はトレーニングの「質」と「量」が骨に与える影響について研究を進めている。
「従来は長距離を走ることが疲労骨折の原因だとされてきました。しかし実際には、大会の直前に疲労骨折だと診断されるケースが少なくありません。そうしたデータから、単純に距離などの『量』だけが問題ではなく、走速度をはじめとする大会直前の追い込み、つまり『質』も重要なのではないかという仮説を立てました」
現場に貢献できる研究成果を出し、架け橋になることを目指す
これまでの研究の結果、長距離をゆっくり走るよりも、高速度で走る方が骨に負担をかける可能性があることが示唆されている。一方、普段あまり走っていない選手の場合は、走速度を速くしたトレーニングが骨に良い影響を与える可能性も提示されているという。実践的な研究の積み重ねによって、研究と現場の架け橋になることが藤田准教授の目標だ。
「スポーツが特殊であるのは、研究が現場の後を追うことが多いという点です。例えばある陸上競技者が世界記録を出したとして、その選手が新しいスポーツ医学の知識に基づいた練習を積んでいるケースは珍しいでしょう。優れた選手がどのような取り組みによって驚異的なタイムを実現しているのか、その特徴を研究することによって新しい知見を得るのが一般的なプロセスなんです。だからこそ、現場と研究の両面を注視し、アスリートが疲労骨折を発症しないで競技生活を続けられる未来を実現したいと考えています」
検査キットで尿から骨の健康状態を確認できる未来
疲労骨折の予防に関する研究が貢献できるのは、スポーツ分野に限った話ではない。多くの高齢者が発症する骨粗鬆症も疲労骨折と同様に病状の進行に気がつかず、予防することが難しい疾病として知られている。
「私の研究を発展させれば、例えば妊娠検査薬のように、尿から骨の健康状態をチェックできる検査キットが開発できるかもしれません。検査キットを用いて早期に骨粗鬆症のリスクを検知し、対策をすることができれば、高齢者のQOLを向上させることにもつながるでしょう。多くの人が必要とする検査キットを普及させれば、アスリートたちが気軽に骨の状態をそのキットでチェックし、疲労骨折を予防できる時代もくるはず。高齢者の健康とトップアスリートのパフォーマンス向上を実現するため、これからも研究を続けていきます」
教員紹介
Profile
藤田 真平准教授
Shinpei Fujita
1989年、新潟県生まれ。2011年に順天堂大学 スポーツ健康科学部 スポーツ科学科を卒業、2013年に順天堂大学大学院 スポーツ科学研究科 スポーツ医学 修士課程、2017年に順天堂大学大学院 医学研究科 スポーツ医学 博士課程を修了。2015年から東邦大学 看護学部 非常勤講師、2017年から順天堂大学 女性スポーツ研究センター 博士研究員を務める。2019年より桜美林大学 健康福祉学群に所属し、現職にいたる。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格を保有。
教員情報をみる<at>を@に置き換えてメールをお送りください。
