• 健康福祉学群

    福祉・心理領域実践心理学専攻

神庭 直子 准教授

Naoko Kamba

神庭直子先生がインタビューに応じている様子
  • ウェルビーイングとは何か?
  • 成人アトピー性皮膚炎が主観的な健康に与える影響を調査
  • お互い様の精神が健康の維持に寄与する
神庭直子先生がインタビューに応じている様子

ウェルビーイングとはどんな状態?

成人アトピー性皮膚炎が与える心理的な影響を調査

健康福祉学群の神庭直子准教授は、健康心理学を専門とし、心理学の知見を活かして健康の維持・増進、疾病の予防・治療、患者の心理的適応などを研究している。特に、周囲のサポート、ストレス、ウェルビーイング(Well-being)といったキーワードに焦点を当て、成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした研究を進めてきた。ウェルビーイングとは、単に病気がない状態を指すのではなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味し、主観的な幸福感や充実感をも含む概念である。

「この研究を始めたのは、私自身が幼少期からアトピー性皮膚炎に悩まされてきたことがきっかけでした。子どもの頃に症状が軽減する場合もありますが、思春期や青年期にかけて悪化するケースも少なくありません。私もその一例でした。アトピー性皮膚炎は、かゆみや皮膚の見た目の問題によってストレスや不安、抑うつを引き起こすことがあります。また、かゆみによる睡眠障害や人前に出ることへの抵抗感など、心理的負担が大きく、主観的な幸福感(≒ウェルビーイング)を低下させる要因となります。そこで、成人アトピー性皮膚炎患者のウェルビーイングを心理学的に分析し、より良い支援策を模索することが重要だと考えました」

成人アトピー性皮膚炎患者に対する適切なソーシャルサポートとは?

成人アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり、完治を目指すよりも、症状を良好な状態に保ったり、日々の生活のなかでうまく付き合ったりすることが求められる。そのため、日常生活における周囲からのサポートや、患者自身の疾患に対する考え方などが重要となる。

研究の初期段階では、ウェルビーイングに影響を与える要因として、ソーシャルサポートに着目し、その実態を調査した。まず、成人アトピー性皮膚炎患者約100名を対象に、「周囲から受けて嬉しかったサポート」「負担に感じたサポート」などの自由記述式のアンケートを実施し、患者が求めるソーシャルサポートの内容を分析した。その結果をもとに、新たな質問項目を作成し、200名以上の患者に対して再度調査を行った。

「調査の結果、同じサポートであっても、提供者や実施方法、タイミングによってポジティブにもネガティブにも受け取られることが明らかになりました。つまり、適切なサポートとは単なる行為の内容だけでなく、状況や関係性に左右されるということです。また、家族や友人からのサポートは情緒的な支援が有益とされる傾向が強い一方で、医師や看護師といった専門家からのサポートには、具体的な情報提供や問題解決に役立つ道具的支援が求められることがわかりました。患者はこれらのサポートを明確に区別して認識しており、適切なサポートの提供には、相手のニーズを理解することが重要であると考えられます」

成人アトピー性皮膚炎患者へのソーシャルサポートの重要性について語る神庭直子先生

成人アトピー性皮膚炎患者の主観的健康感に影響を及ぼす要因の分析

続いて、神庭准教授は、成人アトピー性皮膚炎患者の主観的健康感は、患者でない群と比べてどのような特徴があり、どのようなストレッサーが影響を及ぼしているのかを調査した。ストレッサーとは、ストレスの原因となる外部の刺激や要因を指し、物理的、化学的、生物的、心理的、社会的など多岐にわたる。

「この調査では、成人アトピー性皮膚炎患者は非患者群と比較して主観的健康感が有意に低いことが明らかとなりました。要因として、成人アトピー性皮膚炎に特有のストレッサーが関与している可能性が示唆されました。特に、かゆみの程度は、従来の研究で抑うつといったネガティブな指標との関連が示されていましたが、この研究では『意欲』といったポジティブな指標にも影響を及ぼしていることが確認されたのです」

「お互い様」の精神が
ウェルビーイング向上のカギ?

患者は成人アトピー性皮膚炎をどのように認知しているのか

神庭准教授は、ソーシャルサポートや主観的健康感に関する調査を行なった後、患者が成人アトピー性皮膚炎をどのように捉えているのかを明らかにする研究に取り組んだ。心理学の分野では、このような病気に対する考え方を「認知」と呼ぶ。この研究では、自由記述やインタビューから得られたデータをテキストマイニング手法で分析した。テキストマイニングとは、大量の文章データから有益な情報を抽出する手法のことである。さらに、抽出したデータをコレスポンデンス分析によって視覚化し、クラスターの特徴を分析することで、アトピー性皮膚炎に対する認知の構造を探索的に検討した。

「この研究を踏まえてアトピー性皮膚炎認知尺度の作成を行い、ウェルビーイングとの関連を検討したところ、非常に興味深い知見が得られました。『嫌』『面倒』『苦痛』といったネガティブな認知がQOLや自己肯定感を低下させるという関連が見られた一方で、『人への感謝』『自己成長』『健康への感謝』といったポジティブな認知は自己肯定感とプラスの関連があることも確認されました。もちろん、個人のウェルビーイングに影響する要因は様々にあり一概には言えませんが、患者自身の認知のあり方によって、病気とうまく付き合いながらウェルビーイングを向上させられる可能性があることが示唆されたのです」

サポートにおいては期待感を持てることが重要になる

ソーシャルサポートでは、実際に手助けを受けることが重要であると同時に、「いざというときに助けてもらえる」という期待感を持てることも大切である。心理学では、このようなサポートの認識を「知覚されたサポート」と呼ぶ。

「自分が困ったとき、周囲の誰かが助けてくれるはずだと思えることが重要です。実際にサポートを受ける機会がなくても、その期待感がストレスの軽減につながることは十分にあります。また、サポートは一方通行ではなく、自分も誰かを支えられるという意識を持つことで、より良い人間関係を築くことができます。こうした相互の支え合いを意識し、環境を整えることが大切です。そのために、日頃から自分の周りにサポートしてくれる人がいることを認識しておくことが知覚されたサポートの向上につながります」

しかし、人は危機的な状況に追い詰められると、誰に助けを求めればよいのかわからなくなったり、支えてくれる人がいないのではないかと悲観的になったりすることがある。だからこそ、冷静なタイミングで自分の周囲のサポート環境を振り返ることが大切である。神庭准教授は、授業のなかでそのようなワークを取り入れることもあるという。

「『自分の周りにどのようなサポートがあるか』を振り返るワークを実施すると、学生たちは日常的に友人や家族から受けている支えに気づき感謝の気持ちを持ったり、自分も誰かをサポートしてお互いに支え合う関係性を築いていくことの大切さに気づいたりします。こういったワークはストレスマネジメントにも取り入れられていますが、例えば子どもたちに対して『ストレスとは何か?』というシンプルな問いから考え始め、対処法やソーシャルサポートについて学ぶことで、小さな頃からサポートを受けやすい環境をつくる習慣が身につくかもしれません」

手すりに寄りかかり笑顔を見せる神庭直子先生

サポートを受けるのも大切なスキル
助けを求めるのは弱いことではない

援助やサポートを適切に活用するチカラ「受援力」

神庭准教授が近年注目している概念に「受援力」がある。これは、困ったときに適切に助けを求め、支援を受け入れる能力を指す。もともとは災害や福祉の分野で用いられ、被災地における外部支援の受け入れ体制の構築などに関わる概念であったが、近年では日常生活や個人の対人関係にも応用されるようになってきている。

「この言葉は、何気なく見ていた子育て番組をきっかけに知りました。子育てでは家庭内で問題を抱え込んでしまいやすく、外部に助けを求めづらい状況が生じがちです。そこで『受援力』がキーワードとして取り上げられていたのですが、重要なのは助けを求めることに対してネガティブな印象を持たないこと。『助けを求める=弱さの表れ』と捉えられることもありますが、受援力の視点では、むしろ『適切に支援を求められること』は一つのスキルであり、ポジティブな力として捉えられます。これは、先に述べた認知の話とも関連しており、考え方を転換することで、支援を受けることの価値を前向きに捉えられるようになるのです」

すべての人が健康に過ごすために

神庭准教授の研究は、臨床カウンセリングのように直接個人に働きかけるものではないが、データを積み重ね、指標を示すことで、社会に示唆を与えられる点に研究の面白さを感じているという。健康の定義は様々にあるが、健康を人が持っている能力や可能性を十分に発揮できる状態にあることと捉えると、病気や障害の有無に関わらず、すべての人に関わるテーマであるといえる。

「健康は、心と身体が相互に関係し合うものです。さらに、人間関係などの社会的要因も重要な役割を果たします。健康心理学は、病気や心の不調を抱える人だけでなく、現在健康な人にも役立つ学問です。誰もがより元気に、いきいきと生きるための知識を提供することができます。私も桜美林大学で、これから社会に出る学生たちにこの学びを還元し、健康に関する新たな視点を持ってもらえたらと思っています」

教員紹介

Profile

キャンパス内で腰掛ける神庭直子先生

神庭 直子准教授

Naoko Kamba

京都府出身。桜美林大学大学院 博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。桜美林大学 非常勤講師、國學院大學 非常勤講師、大妻女子大学 助手、京都光華女子大学および同大学院講師などを経て、2019年4月より桜美林大学 健康福祉学群 助教。2024年4月より同 准教授。周囲の人からのサポート、ストレス、ウェルビーイングなどをキーワードに、心理学の知見を活かして健康の維持・増進について研究する健康心理学を専門としている。

教員情報をみる