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石塚 美枝 准教授

Mie Ishiduka

石塚美枝先生がインタビューに応じている様子
  • 国際学生向けの日本語教育プログラムを運営
  • 多角的な視点からの評価システムの構築に取り組む
  • 実践を通じて多文化共生社会に貢献する
石塚美枝先生がインタビューに応じている様子

記事公開日:2026年2月25日

「日本語ができる」とは何か。語学要件の先にある学びを見据えて

現代の日本では、多様なルーツや背景を持つ人々が共に暮らしている。外国から来た人々にとって、日本語を学ぶことは社会参加の第一歩だ。だがそもそも、「日本語ができる」とはどういうことなのだろうか。

文法や語彙の正確さ、あるいは「話す・聞く・読む・書く」といった技能の習得だけでは測れない、“言語を使って関わる力”があるのではないか。日本語を使う側と学ぶ側の双方の視点から、その意味を問い直しているのが、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群の石塚美枝准教授である。

教務主任として、教育プログラム全体の運営と評価を統括

石塚准教授は、大学の正規課程で日本語授業を担当する一方、留学生別科(日本言語文化学院)の教務主任として、教育プログラム全体の運営と評価を担っている。

留学生別科は、大学・大学院進学を目指す留学生のための日本語教育課程であり、学生募集からカリキュラム設計、講師の調整、教材選定、進学指導、教育効果の検証まで、プログラム全体のマネジメントを行う。現場で見える課題をもとに内容を改善し、教育の質を継続的に高めていく、この運営と評価の循環こそが、石塚准教授の中心的な実践である。

語学要件の現実と、教育理念とのあいだで

留学生別科の学生の多くは大学・大学院進学希望者であり、入試出願時には日本語能力試験などの公的な語学試験のスコアが求められる。つまり、教育現場では「関わる力」を育てたいと考えながらも、制度的には「スコアで測られる力」が進路を左右するという現実がある。「試験のために学ぶ日本語の力と、人と関わるために使う日本語の力。どちらかを否定するのではなく、その2つをどうつなげるかが別科の教育の大きなテーマです」と石塚准教授は語る。

「学生たちには、語学要件さえ満たせばいいのではなく、それが日本語力のごく一部にすぎないことを理解してほしいと思います。日本語をどう使って学び、社会と関わり、自分の生き方を形にしていくかを考えることが、より重要なのだと気づいてほしいのです」

こうした考えのもと、別科では「学期ごとの学習評価」と「教育プログラム全体の成果検証」をどのように結びつけていくかを課題として取り組んでいる。授業の中の観察や学生の自己評価など、日々の学習記録を教育改善に生かす仕組みづくりを進めており、個々の学びの蓄積がプログラム全体の質向上につながるよう試行を重ねている。

学群での授業にも通じる「自己実現としての日本語力」

グローバル・コミュニケーション学群では、正規課程で学ぶ国際学生や交換留学生など、異なる背景を持つ学生を対象に授業を担当している。ここでは、学生が単に正確に話す力を身につけるのではなく、日本語を通して自分の考えを表現し、他者と関わる力を育てることを重視している。

「学生が自分の言葉で考え、発言し、他者と関わる力を伸ばすこと。そのプロセスを支えるのが教員の役割だと考えています」と石塚准教授は語る。

授業では、学生が自発的に日本語で話すような“仕掛け”を多く取り入れている。例えば、社会的なテーマを設定し、それについて学生同士で話し合う活動を通じて、互いに意見を交換しながら日本語力を高めていく。このような取り組みは、社会的な課題や身近な地域の問題といった「内容(Content)」を通して言語を学ぶ「CLIL(内容言語統合型学習)」の実践でもある。

「授業中には学生同士でアンケートやインタビューを実施したり、話し合いをしたり、互いに日本語力を深める時間も多く取っています。もちろん、わからない単語があれば友だちに聞いてもいいし、同じ母語の学生がいれば母語で話し合ってから日本語でアウトプットしてもいい。教科書を使って文法や単語を丁寧に学ぶことも大事ですが、間違っていてもいいからとにかく自分で考え、日本語でアウトプットしてもらうことを意識しています」

さらに、授業の中では、学生一人ひとりが自分の成長を実感できるよう、自己評価の機会も設けている。

「自分ではうまくできたと思っていても、振り返ってみると意外とそうでもなかったり、逆に自信が持てないまま力を発揮できていなかったり……。そこで自分を客観視するために、日々の授業におけるパフォーマンスを自ら評価してもらうことにしています。今日はどれくらいできたのか、もしくはできなかったのか。こうして自分の日本語を客観的に見ることを積み重ね、なりたい自分との距離を意識し、自律的な学習につながっていきます」

こうした主体的な学びと自己評価を重ねる授業は、学生が自分の日本語力を自覚的に育て、日本語を使って自己実現していく力を養うことを目指している。

学群と別科では対象も教育目的も異なるが、共通しているのは、日本語を通して学生の自己実現を支える教育である。そのために石塚准教授は、授業・評価・プログラム運営という異なる教育の場を行き来しながら、日本語教育の新しい可能性を探り続けている。

大学にある“実物”の教育リソースを活かした教育プログラム

桜美林大学では、学内に蓄積された“実物”の教育リソースを活かした地域連携活動も行われている。それが「桜美林草の根国際理解教育支援プロジェクト」だ。石塚准教授は恩師である故・上山民栄本学名誉教授(初代代表)のもと、1997年の立ち上げ期から関わり、現在は代表としてその理念を引き継いでいる。

「このプロジェクトでは、桜美林大学に蓄積された様々な国や地域の民族衣装や楽器、世界のおもちゃや生活道具などの“実物資料”を地域の学校や市民団体に貸し出し、異文化理解のワークショップを行っています。実際に手に取り、五感で感じながら学ぶことで、教科書だけでは得られない気づきが生まれるんです。また、ワークショップのスタッフとして国際学生が参加することもあり、地域の子どもたちや市民との交流を通して、互いに学び合う場にもなっています」

この取り組みの根底には「人と人が個として向き合い、交流することから学びが生まれる」という考え方がある。石塚准教授が日々の授業で重視している「関わる力」や「自己実現としての日本語力」とも通じる理念であり、大学教育の枠を越えた形で地域社会に開かれた学びを支えている。

大学にある実物の教育リソースを活かした教育プログラムについて語る石塚美枝先生

日本企業での経験とアメリカでの経験が現在の取り組みのベースに

英語から日本語へと関心が移った大学時代

日本語教育の範疇を飛び出し、学生や社会の将来を見据えた支援に取り組む石塚准教授。現在は「教育者」というよりも、未来に向けて種を蒔く仕事をしているという感覚が強いのだと語る。幼少期から読書が好きで言語に関心を持っていた彼女は、英語を使った仕事がしたいと大学では英文科に進学。しかし英語を学ぶうちに、自分の母語である日本語へと興味が移った。

「英語の授業を受けていたときに、ふと考えたんです。英語のネイティブだからといって、必ずしも英語を上手に教えられるわけではありませんよね。それと同じように、日本語がとても上手な外国の方がいますが、その人たちはどうやって日本語を学んだのだろう、と。
そう考えるうちに、自然と“日本語を教えること”への関心が芽生えていきました。それで外国の方に日本語を教える『日本語教師』という仕事があることを知り、日本語教師養成講座に参加したことが現在に通じるきっかけになりました。英語を使って仕事をする以上にさまざまな国の人々と交流できそうなところが魅力的に映ったんです」

一般企業で日本語教育のプログラムや教材を検討する業務を担当

日本語教師になるという目標に向けてさまざまな経験を積みたいと、大学卒業後に就職したのは企業向けの語学研修を企画・販売する会社だった。石塚准教授は、外資系企業のニーズやスケジュールに応じ、受講者に合った教材や日本語学習のコースデザインを考える業務を担当することに。外資系企業は日本企業と比べてコストパフォーマンスへの意識がはるかに高く、プログラムの効果をデータで伝える仕事に楽しさと難しさを感じたという。

「特に外資系企業の場合は、決められた期間の中で、どれだけ成果があったかという点に非常にこだわります。そして、効果がないと判断されればすぐに解約されてしまう。そうした中で、企業や学習者のニーズに合ったカリキュラムを設計し、その成果をどのように可視化するかを常に考えていました。ここで得た教育プログラム全体を見渡す視点は、現在の仕事のベースになっていると感じています」

アメリカで身につけたのは、判断を保留し考える姿勢

石塚准教授は仕事を続けながらも、日本語教育に関する勉強会や研究会に参加していた。そこで痛感したのは、大学を出てすぐに企業で働き始めた自らの力不足だった。これから日本語教師として活動するためには、海外で人を教えた経験が求められるはず。そこで仕事をやめて大学院に進学することを決意し、入学後はアメリカ・オハイオ州Oberlin College(オベリン・カレッジ)で日本語講師をするチャンスを掴んだ。アメリカでは、日本語科の先生方と共に日本語教育に携わる中で、日本語を母語とする教師として、生の日本語を伝える役割を担っていた。現地の学生ができるだけ自然な日本語に触れられるよう、授業以外の場でも積極的に日本語で話しかけ、日常のやり取りそのものを学びの場にしていたという。

「学生たちは、授業時間以外でも私を見つけると日本語で話しかけてくれました。
私自身も“生きた日本語”を伝えるために、できるだけ日本語で会話するようにしていました。」

アメリカでの生活は、石塚准教授の価値観を一変させるものだった。

「私が日本語講師をしていたオベリン・カレッジは非常にリベラルな考え方が根付いており、当時から人種やジェンダー、性的マイノリティなどへの理解が深い環境でした。さまざまな背景や価値観をもつ人たちと出会い、自分がこれまでどんな前提で物事を見ていたのかを改めて意識するようになりました。それまで無自覚だった価値観に気づき、考え方を深く見直す大きなきっかけになったと思います。一方で、日本についてほとんど知らない人もいて、海外における自国の位置付けも実感しました。こうした経験を通じて、物事を先入観で決めつけず、判断を保留して考える姿勢が身についたのは大きかったと思います」

キャンパス内で佇む石塚美枝先生

制度改革が進む今、日本語教育の専門性をどう生かすか

近年、日本語教育を取り巻く環境は大きく変化している。「日本語教育機関認定制度」や「登録日本語教員制度(新たな国家水準の教員資格)」の導入をはじめ、教育機関の質の確保や教員の専門性がこれまで以上に重視されるようになった。石塚准教授は、こうした制度改革を単なる制度対応としてではなく、教育の質を高める機会ととらえている。

「教育の現場で求められているのは、単に授業を行うことではなく、教育プログラム全体を見渡し、評価の結果を改善に結びつけていく視点です。教師の専門性が社会的にも認知されることが、日本語教育全体の質向上につながると感じています」

教育と評価を往還させる取り組みを通じて、現場の声を制度や仕組みに反映させていくこと——。それこそが、石塚准教授が描くこれからの日本語教育の姿である。

“同化”ではなく、“ともに生きる”ための日本語教育を目指して

少子高齢化にともなう労働力不足や在留外国人の増加など、社会の多様化が進む中で、日本語教育の役割はますます重要になっている。石塚准教授は、これからの日本語教育を「同化」ではなく「共に生きる」ための学びとして捉えている。

「日本語教育は、海外から来た人々を日本人に“同化”させるためのものではなく、互いに理解し合いながら社会の一員として共に生きていくためのものだと思います。そのために、教育プログラムの運営と評価の仕組みを通して、これからも現場から貢献していきたいと考えています」

※記事本文に記載の職位などは、取材当時の情報です。

教員紹介

Profile

キャンパス内で腰掛ける石塚美枝先生

石塚 美枝准教授

Mie Ishiduka

新潟県新潟市出身。
桜美林大学 文学部 英語英米文学科を卒業後、日本語教師養成講座を修了し、日本語教育に携わり始める。語学研修を企画・運営する企業に勤務した後、桜美林大学大学院 国際学研究科 環太平洋地域文化専攻 修士課程に進学。在学中に米国オハイオ州オベリン・カレッジで日本語講師を務める。帰国後、桜美林大学 国際教育センター科目の非常勤講師を経て、桜美林大学日本言語文化学院(留学生別科)に着任。現在は、グローバル・コミュニケーション学群と日本言語文化学院(留学生別科)を兼務し、日本語教育および教育プログラムの運営に携わっている。
また、桜美林草の根国際理解教育支援プロジェクト代表として、地域社会に開かれた教育活動にも取り組んでいる。

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