• リベラルアーツ学群

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江藤 佑 特任講師

Yu Eto

江藤佑先生がインタビューに応じている様子
  • 座学とボランティアを統合した教育プログラムを構築
  • 貧困や農業、災害支援など多様なテーマを設定
  • 支援を通じて自らも幸福になる社会の形を提案
江藤佑先生がインタビューに応じている様子

大学での学びと社会支援活動を循環させる「サービスラーニング」の確立を目指して

「相互性」が育む新しいボランティアの形

「学而事人(学びて人に仕える)」——建学の精神を体現する教育手法として、桜美林大学ではかねてから「サービスラーニング」に力を入れて取り組んできた。サービスラーニングとは、大学での授業と、ボランティア活動をはじめとする学外でのサービス活動全般を両輪にして展開する教育プログラム。座学で学んだ知識を学外の活動に反映し、活動で得た気づきを授業に持ち帰って振り返るという循環的な学びのサイクルがその本質となる。

リベラルアーツ学群の江藤佑特任講師は、大学連携を主とする第3セクターにて学生や地域と関わり続けてきた実務家としての経験を活かし、大学におけるサービスラーニングプログラムの構築や実現に携わっている。自身も学生への講義を担当するほか、学生と地域をつなぐコーディネートや、学生に対するマインドセット、リフレクション(振り返り)を実施。貧困や農業支援、災害支援といった多様なテーマを通し、学びと地域の課題解決を両立できる理想的なサービスラーニングのあり方を模索している。

「ボランティアを学問的に分類すると、『自発性』『無償性』『公共性』『相互性(互惠性)』という大きく4つの要素に分かれていると言われています。『自発性』は誰かに強制されるのではなく自ら進んで取り組む、『無償性』は金銭的報酬を目的としない、『公共性』は人の役に立つ行為をするということですね。この3点は従来からボランティアの根幹を成す考え方とされてきましたが、近年は4つめの『相互性』の重要性が強調されるようになりました。当然ながら、ボランティアは誰かに貢献するための活動です。しかし、相手のためを思う気持ちと同様に、自分のためにもなる活動をしているという意識を持つことが大切でもある。この『相互性』が、ボランティア活動における新しい考え方として広がりを見せています」

事前のマインドセットが背中を優しく押してくれる

「ボランティア」という言葉を聞くと、自らのリソースを割いて他者に奉仕するというイメージを抱く人も少なくないだろう。また一方で「自分を犠牲にすべき」「偽善的な活動にならないように」といった、ある種排他的なイメージが先行するケースも散見される。こうしたボランティア活動のイメージは、活動の持続可能性を損ない、またボランティアの第一義である「自発性」をも失いかねないと江藤講師は話す。そこで江藤講師のプログラムではボランティア活動における内発的動機を高めるため、活動前の目標設定やマインドセットに重きを置いているのだという。

「座学では『ボランティアとは何か?』『社会貢献とは何か?』といった本質的な内容を伝えるとともに、学生には『自己成長』『社会的側面』『学業との関わり』の3点を軸に活動に対する目標を掘り下げてもらっています。ボランティア活動をしていると、往々にして途中で辛くなるタイミングがやってきます。そんな時でも事前のマインドセットを行っておけば、『自分はこの目標に向かって活動に参加しているんだ』という気持ちが背中を優しく押してくれる。いわば“魔法の言葉”になるのです」

ボランティア活動を振り返り、他者から意見をもらう時間も

サービスラーニングプログラムにおいて特徴的なのは、「リフレクション」と呼ばれる振り返りのプロセスだ。自分の目標に向かって突き進むだけでは、“限られた範囲での学び”になってしまう可能性もある。自身のボランティア活動を振り返り、同じプログラムに参加したメンバーからも意見をもらうことで、現地での学びを深めていく。

「事前に現地のボランティア団体と入念に打ち合わせすることも大事にしています。支援対象者のニーズや課題を把握し、明確なゴールを共有しておく。こうした取り組みが活動の『相互性』を高め、ボランティアの枠を越えたサービスラーニングの価値につながっていくと考えています」

ボランティア活動の振り返りの意義について語る江藤佑先生

貧困問題から農業、災害支援まで、多岐にわたるテーマを設定

「支援」を越えて「交流」が生まれる現場での実践

桜美林大学におけるサービスラーニングプログラムのテーマは、多文化共生、貧困、宗教、農業、障害者支援、動物保護、災害支援など、実に多岐にわたっている。「貧困問題」をテーマにした授業では、無料の学習支援教室や子ども食堂、生活困窮者の支援団体でのボランティア活動を実施。事前の座学では日本の貧困問題を切り口に、そこから派生する少子高齢化や教育格差といった諸問題について学び、現場での実践に反映していく。

「支援のフィールドとして、例えば地域の子ども食堂があります。月に数回の子ども食堂に学生たちがボランティアとして参加し、事前の食事準備や食堂運営、イベント企画などに関わっています。ボランティアを通して地域の貧困問題や居場所の重要性、学校の様子や子どもたちが抱える本当のニーズなど、さまざまな気づきを学生たちは自分事として肌で感じ、授業に再度持ち帰って社会的要因や解決策及び展望などを学問的にアプローチしています。授業のテキストで学んだことを実際の現場での活動や交流により結び付け、知識を再構築・再統合していくというプロセスは、大学内だけでは得られないサービスラーニングならではの特徴だと思いますね。」

また相模原・町田エリアでは、「農業」をテーマにしたサービスラーニングが行われている。学生は日本の食料自給率や農薬、農作物の輸出入といった課題について学んだのち、近郊の農場の協力のもと実際の農作業ボランティアに参加。授業の集大成として大学内で開催される野菜販売会「アグリベラルマルシェ」は毎年賑わいを見せ、学生や教職員が“地産地消”について考えるきっかけを与えている。

アグリベラルマルシェの様子

「学生たちは非常に楽しそうに農作業に参加していますし、地域の農産業を応援することにつながる点にもやりがいを感じてくれている様子です。農家の方々が抱える大きな問題として、高齢化と人手不足があります。そうした中、学生が少しでもお手伝いをすることで、農家の皆さんにはメリットを感じていただけているのではないかと思っています。まだまだすべてがうまくいくことはありませんが、こうしたwin×winの関係性を築くことは、プログラムの設計において非常に重要視しています」

能登半島地震でも数多くの学生が復興支援に参加した

建学の精神に則り、従来からボランティア活動に注力してきた桜美林大学。以前から実践してきた多様なサービスラーニング活動をプログラムとして整備したきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災だった。東日本大震災の際、多くの学生が現地に入ってボランティア活動に従事していた。以来、継続的に支援活動に取り組む中で、災害支援と学びを結びつけたプログラムがつくられたのだという。

2024年1月1日、最大震度7の地震が石川県能登地方を襲った。江藤講師をはじめとする桜美林大学のチームは、すぐさま現地での調査を実施。東日本大震災に学び、能登半島をフィールドとした災害支援プログラムの検討を始めた。地震被害の爪痕が生々しく残る2024年の夏には、30人を超える学生が災害支援活動に参加した。

「学生たちは仮設住宅への支援のほか、瓦礫の撤去や住居の片付け、海岸の整備などを手伝いました。プログラムでは金沢市にある北陸学院大学の協力を仰ぎ、被災地との連携や現地におけるニーズ調査の面でサポートしてもらいました。この復興支援に関しては、授業以外からも有志の学生が数多く参加してくれました。被災地は東京から遠く離れていますが、それでも力になりたいとボランティアに参加する学生がいたことは非常に嬉しかったです」

能登半島 仮設住宅での活動風景

他者のために動き、自らも成長する

災害支援プログラムを組み立てる上で何より難しいのは、被災地との連携だと江藤講師は語る。その場、その時で変化していく現場のニーズ。昨日まで不要だったサポートが突如として求められるケースも少なくない。予定が予定として機能しない非常事態が想定される場合、それが当然であるという前提を共有することが重要なのだという。ここに、座学と実践を融合したサービスラーニングの強みを見ることができる。

「事前に情報共有を行っているからこそ、これまで大きなトラブルもなく災害支援に注力することができたのだと感じています。実際にプログラムに参加した学生からは、現地の方々や他の学生との交流を通じて成長できたという感想をもらうこともできました」

誰かを助けたことよりも、人と交流したことが成長につながった。まさに自分の成長を重視するサービスラーニングを象徴するエピソードだといえるだろう。主体的に他者のために動き、自らも成長する。桜美林大学の学生には、「学而事人」の精神が脈々と受け継がれている。

「プログラムとしてのゴールを定めている中で、私が想定している以上の取り組みを学生がしてくれた時には大きなやりがいを覚えます。例えば能登半島の復興支援では、学生が主導して写真洗浄のボランティアを企画してくれました。災害で土砂などに埋もれてしまった写真を、一枚一枚きれいにしていく活動です。遠く離れた東京でも何か力になりたいという学生の思いに触れ、大きく心が動かされた経験でしたね」

学内での写真洗浄ボランティア体験会の様子

幼い心を支えてくれた学生ボランティアとの出会いが原点

小学4年生の時に阪神淡路大震災を経験

兵庫県神戸市出身の江藤講師は、小学4年生の時に阪神淡路大震災を経験した。小学校も閉校になり、先の見通しが立たず不安な毎日を過ごしていた当時、学生ボランティアに心を救われたのだという。それが、サービスラーニングに関わる現在の原点となった。

「ある時に現れた大学生のお兄さんが、一緒に遊ぼうと誘ってくれたんです。それから、毎日のように小学校の校庭でバスケットボールをするようになって。その交流のおかげで心も安定したし、将来をポジティブに考えられるような心理状態になっていった。彼が学生ボランティアだったということは後になってから理解したのですが、今でも彼の記憶が心の奥底に存在し続けているのだと思います」

大学時代は心理学を専攻する中、子どもを対象としたボランティアにも参加した。その際、自分の心身にもプラスの効果があることを実感。相手のためでもあり、自分のためでもあるという相互性に魅力と可能性を見出し、大学連携を主とする第3セクターに入職することを決めた。

「前職の第3セクターでは、大学と地域の連携を推進するセクションに在籍していました。当時からボランティアプログラムやインターンシップの企画に携わっており、学生たちと一緒に地域の活性化に向けた取り組みを行っていました」

キャンパス内で腰掛ける江藤佑先生

支援を通じて相互に幸福度を高める「ソーシャルキャピタル」を実現したい

学生と触れ合う業務に面白さを感じる中で湧き上がったのは、さらに教学に近いポジションで自分の力を発揮したいという思いだった。ちょうど同時期、選択必修のサービスラーニング科目の設置を構想していた桜美林大学と縁がつながり、実務家教員として勤務することとなる。学生と密接に関わりながらサービスラーニングを推進する現在。江藤講師が目指すのは、日本における「ソーシャルキャピタル」の拡充だという。

「ソーシャルキャピタルとは、人々の間の『信頼』『ネットワーク』『規範』といった社会的なつながりを資本とみなし、人々の協調行動を活発にすることで社会の効率性を高められるという概念です。つまり、ボランティアなどの社会活動が人々の良好な信頼関係を築き、豊かな地域社会を構築できるという考え方ですね。経済的には先進国の日本ですが、実はソーシャルキャピタル指数を世界と比較すると、160か国中141位という非常に低い結果が出ています。そしてその結果が、日本で暮らすうえでの息苦しさや生きづらさとして反映されている。ここで突破口のひとつになりうるのが、市民によるボランティア活動です。ボランティア活動を大学をはじめとして行政や地域自治体が推進していくことが、ソーシャルキャピタルの拡充につながるはずです。そこで、サービスラーニングにおける『相互性』の真価が問われてくるのだと考えています」

誰しもがそれぞれの生きづらさを抱え、他者の苦しみに目を向けることが難しい現代社会。ボランティア活動を通じて自らの幸福度も高められるサービスラーニングは、ソーシャルキャピタルの拡充において大きな役割を果たすだろう。

教員紹介

Profile

キャンパス内で佇む江藤佑先生

江藤 佑特任講師

Yu Eto

1984年兵庫県神戸市出身。2011年に桜美林大学大学院 心理学研究科 健康心理学専攻前期課程 修士課程を修了。その後、公益社団法人 相模原・町田大学地域コンソーシアムに入職し、地域活性化プロジェクトのプロデュースや学生と地域を結ぶボランティアプログラムのコーディネート業務などに携わる。2022年より現職。健康心理士、日本ボランティアコーディネーター協会員。

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