• リベラルアーツ学群

    自然領域情報科学

中村 航 准教授

Ko Nakamura

中村航先生がインタビューに応じている様子
  • 超新星爆発の理論研究が専門
  • 星の内部構造に着目する
  • いつまで経ってもわかるようにならないのが宇宙物理学の魅力
中村航先生がインタビューに応じている様子

専門は「超新星爆発」に関する理論的な研究

多様な元素が存在している背景には超新星爆発が関係している

超新星爆発——それは、星が長い生涯の最期に起こす大爆発のこと。近年は望遠鏡や観測技術の進歩に加え、超新星のような突発的な天体現象を自動探索できる観測体制も整備され、現在では年間1万件を超える超新星爆発が発見されている。

リベラルアーツ学群の中村航准教授は、宇宙物理学を専門とし、とくに超新星爆発の理論研究に取り組んでいる。

「太陽の約8倍以上の質量をもつ恒星は、その進化の最終段階で超新星爆発を起こすと考えられています。爆発時には星の内部で核融合反応が急激に進行します。その過程で多様な元素が合成され、宇宙空間へ放出されます。宇宙誕生直後に存在していた元素は、水素やヘリウムなどごく限られたものでした。しかし現在、私たちの身の回りに数多くの元素が存在している背景には、超新星爆発が大きく関わっています。爆発によって放出された元素が次世代の星や惑星の材料となり、宇宙は世代を重ねるごとに、より重い元素を増やしてきました。その長い進化の積み重ねの先に、私たち人間の存在もあるのです」

核融合反応とは、軽い原子核同士が超高温・高密度の環境で結び付き、より重い原子核へと変化する現象を指す。太陽が放つ光や熱も、この反応によって生み出されるエネルギーによるものだ。

また、太陽のように自ら光を放つ天体を「恒星」という。その中でも太陽の約8倍以上の質量を持ち、最終的に超新星爆発を起こす恒星は、「重い星(大質量星)」といわれる。一方、自ら光を放たず恒星の周囲を公転する地球のような天体は「惑星」、さらに惑星の周囲を回る月のような天体は「衛星」と呼ばれている。

「ニュートリノ」が衝撃波にエネルギーを与えている?

恒星は、「自らの重力によって内側へ縮もうとする力」と、「内部で起こる核融合反応が生み出す熱によって外側へ膨らもうとする力」の均衡によって、その姿を保っている。しかし、核融合の燃料は無限ではない。重い星では、進化の終盤になると、水素、ヘリウム、炭素、酸素、ケイ素……と、より重い元素へと核融合が進んでいく。そして最終的に、星の中心には「鉄」が蓄積される。

ところが鉄は特別な元素だ。恒星内部でエネルギー源となる通常の核融合反応では、鉄より重い元素へ核融合を進めるには逆にエネルギーが必要になる。そのため、鉄が中心にたまると、核融合によって恒星を支えていた力が失われ、重力が一気に優勢となる。

すると、星の中心部は急激に潰れ始める。極限まで圧縮された中心核は、ある密度に達すると急激に跳ね返るような現象を起こし、強烈な衝撃波を生み出す。この衝撃波が星の外側へ伝わり、最終的に星全体を吹き飛ばす。これが超新星爆発の基本的なシナリオだと考えられている。そして現在、この衝撃波にエネルギーを与え、爆発を成立させている存在として有力視されているのが、「ニュートリノ」と呼ばれる素粒子である。

「超新星爆発には莫大なエネルギーが必要ですが、その供給源として現在広く受け入れられているのが、ニュートリノによる加熱シナリオです。中心部で大量に生成されたニュートリノが星内部の物質と反応し、衝撃波へエネルギーを与えることで、爆発を後押しすると考えられています。ただ、ニュートリノは『幽霊粒子』とも呼ばれ、ほかの物質とほとんど相互作用しません。実際、今この瞬間も膨大な数のニュートリノが私たちの体を通り抜けています。そのため、本来であれば星の内部で生まれたニュートリノも、そのまま宇宙空間へ逃げてしまうはずです。しかし、爆発直前の星では想像を絶する量のニュートリノが放出されます。仮にそのうちごく一部でも周囲の物質にエネルギーを受け渡すことができれば、星全体を爆発させるには十分なエネルギーになるのです」

ニュートリノが衝撃波にエネルギーを与える仕組みについて語る中村航先生

「重い星は爆発する」と言われるが、本当にそうなのだろうか

中村准教授の研究の出発点は、ごく素朴な疑問だった。重い星は最後に爆発する。その常識に、どこか引っかかるものを感じていたという。そもそも超新星爆発とは、どのような現象なのか。多様な星が存在するはずであり、爆発の形にもさまざまな違いがあっていいのではないか。

「この分野では長い間、超新星爆発のエネルギーとして『10の51乗エルグ(=10の44乗ジュール)』という数値が一つの基準になっていました。ここまで到達すれば爆発成功、それに届かなければ失敗という見方が常識になっていたんです。しかし、いろいろな超新星が存在するはずなのに、みんな同じエネルギーで爆発するという考え方に、個人的には違和感がありました。本当にそんなに単純なのだろうか、と」

そう考えていたのは、大学院に進学した2005年前後のこと。当時はまだ3次元シミュレーションが一般化する以前で、中村准教授も1次元や2次元の数値計算プログラムを組み、中心部にエネルギーを与えて人工的に爆発を起こしていた。

「本当に手作業で爆発を起こしていました。そこから、どのような爆発になるのか、どんな元素合成が起こるのかを調べていたのです」

太陽の14倍の質量を持つ星の超新星爆発シミュレーション。衝撃波が発生してから490ミリ秒後。ニュートリノで加熱された高エントロピーの対流構造(中央の赤い部分)が、それを囲う衝撃波(灰色の膜)を後押ししている様子がわかる。

博士号取得後、国立天文台でポスドクとして研究していた時期からは、スーパーコンピュータ「アテルイ」を用いた研究に携わり、星が自らの重力で崩壊し、爆発へ至るまでの過程を、一連の物理現象として計算できるようになった。

「コンピュータの中で星を爆発させられるようになったときは感動しました。星が潰れていき、ニュートリノで加熱され、対流が発達して、衝撃波がどんどん膨張していく。その様子をコンピュータグラフィックスで動画にできたときは、とても興奮したのを覚えています」

一方で、観測の世界でも大きな変化が起きていた。超新星を広範囲かつ継続的に探査する「サーベイ観測」が進展し、発見数は飛躍的に増加。すると、それまで見えていなかった超新星の多様性も明らかになっていった。爆発エネルギーを調べると、小さなものもあれば大きなものもある。従来の「10の51乗エルグ」という数値だけでは説明できない現実が、観測から浮かび上がってきた。

「最近の観測では、さまざまな爆発エネルギーを持つ超新星が存在することが明らかになっています。ただ、多様な超新星がいるから爆発も多様になる、という単純な話ではありません。星には質量の違いがありますし、内部の密度構造も一つひとつ異なります。では、どういう内部構造を持つ星が、どのような爆発を起こすのか。その関係を結びつけようとしているのが、私が取り組んでいる研究です」

内部構造を示す一つの指標「コンパクトネス」とは?

星がどれだけ重いかだけではなく、どのような内部構造を持っているか。その鍵となる概念の一つが、「コンパクトネス」だという。これは、星の内部でどれだけ質量が中心付近に集中しているかを示す指標であり、星の構造的な特徴を表すパラメーターとして用いられている。

「星の内部には、密度や圧力などさまざまな物理量の分布があります。ただ、その複雑な構造を一つひとつ比較するのは難しい。そこで、それらを特徴づける指標として用いるのがコンパクトネスです」

中村准教授は、太陽の約10倍から75倍までのさまざまな質量を持つ星を用いてシミュレーションを実施した。その結果、単純な質量の大小だけでは説明できない現象が見えてきた。同程度の質量であっても、非常に激しく爆発する星もあれば、逆にあまり爆発しない星も存在していたのだ。

「質量だけでは、爆発の違いを十分に説明できませんでした。そこで、コンパクトネスの観点から見直してみたんです。すると、コンパクトネスが高いほど、爆発エネルギーが大きくなる傾向が見えてきました」

星の内部は、中心に鉄、その外側にケイ素、酸素といった層が幾重にも重なる構造になっている。その中でも、ケイ素層の厚さがコンパクトネスの高さと関係しており、それが爆発エネルギーにも影響している可能性が、シミュレーションから示されているという。しかし、その仮説を観測で直接確かめることは容易ではない。

「最大の難しさは、星の内部を直接見ることができないことです。太陽もそうですが、私たちが見ているのは表面だけで、中で何が起きているのかを直接観測することはできません。超新星も、爆発して初めてその存在に気づくことが多いのです。爆発前は夜空にある無数の星の一つに過ぎません。そのため、『爆発する前はどのような星だったのか』という情報が残っていないケースがほとんどです」

ケイ素と酸素の境目が爆発を生む鍵になる?

研究を通して、中村准教授は「コンパクトネス」が超新星爆発を理解するうえで重要な指標であることを明らかにしてきた。しかし一方で、新たな疑問も浮かび上がった。「爆発の強さ」は説明できても、「そもそも爆発するか、しないか」までは、コンパクトネスだけでは説明しきれなかったという。

「コンパクトネスが高い星では、上から大量の物質が落ちてくるため、衝撃波を強く押さえつける方向に働きます。一方で、中心部には質量が集中しているので密度や温度が非常に高くなり、ニュートリノも大量に放出されます。その結果、中心からの加熱も強くなるんです。つまり、衝撃波を押さえ込もうとする力と、内側から加熱して押し広げようとする力、そのせめぎ合いが起きている。だから、コンパクトネスだけでは爆発する・しないを決めきれませんでした」

では、何が最終的な分岐点になるのか。その問いを追うなかで、中村准教授が注目したのが、星内部に存在する「ケイ素層」と「酸素層」の境目だった。その境界で起きる密度(一定の体積に含まれる質量)の急激な変化が、爆発の運命を左右している可能性が見えてきたという。

「少し物理の話になりますが、圧力は、その空間にどれだけ粒子が存在するかに比例します。たとえば、隣り合う領域で圧力と温度が釣り合っている場合、粒子も同じ数いなければいけない。しかし、ケイ素と酸素では一つあたりの重さが異なるため、粒子数が同じでも密度は変わります。酸素の方が軽いため、ケイ素層から酸素層へ移る境界では、密度が急激に下がるんです。私はこれを『密度のジャンプ』と呼んでいますが、この変化が爆発の成否を左右しているのではないかと考えています」

星が重力によって崩壊すると、ケイ素層と酸素層の境界も中心へ向かって落下していく。そして、その境界が衝撃波へ到達した瞬間、状況が大きく変わる。それまで衝撃波を押さえ込んでいた高密度の物質が急に薄くなることで、圧力が一気に弱まり、衝撃波が外側へ膨張しやすくなる。

「衝撃波が膨張すると、ニュートリノによる加熱が働く領域も一気に広がります。その結果、爆発へ向かう流れが加速される。ケイ素層と酸素層の境界は、爆発において非常に重要な役割を果たしていると考えています」

もっとも、この仮説を直接確かめることも簡単ではない。これまでの研究と同様に、星の内部を直接観測することはできないからだ。

星の内部情報を持ったニュートリノをキャッチしたい

超新星爆発では、星の中心部が高温・高密度状態となり、その内部で「何か」が起こることで、崩壊から爆発へと転じると考えられている。中村准教授の研究はその「何か」を理論的に予測することだが、その決定的な瞬間を直接見ることはできない。なぜなら、爆発の鍵を握る中心部は星自身に覆い隠されており、そこから放たれた光は内部の情報を十分に伝えることができないからだ。

一方で、こうした極限環境では、物質とほとんど反応しない「ニュートリノ」や、時空のゆがみが波となって伝わる「重力波」が発生すると考えられている。これらは星の内部をほとんど遮られることなく通り抜け、爆発の中心で起きた現象の痕跡を外へ運んでくる可能性がある。

光だけでなく、ニュートリノや重力波など複数の信号を組み合わせて天体現象を解明する研究分野は、「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれている。中村准教授は、この新しいアプローチからも超新星爆発の謎に迫ろうとしている。

「私の理論研究では、コンパクトネスや内部で起こる密度ジャンプのような情報が重要だと考えています。しかし、光で見えるのは基本的に星の表面だけです。だからこそ必要なのは、中心部から出てきて、しかも星の外側とほとんど相互作用せず、中心の情報をそのまま運んでくれるニュートリノや重力波なんです」

中村准教授が期待を寄せているのが、超新星由来のニュートリノ観測だ。しかし実は、人類が超新星爆発によるニュートリノを直接捉えた例は、これまで一度しかない。1987年、地球から約16万光年離れた大マゼラン雲で発生した超新星爆発「SN1987A」の際、日本の観測装置「カミオカンデⅡ」が世界で初めてニュートリノを検出した、歴史的発見として知られている出来事だ。

「もう40年近く前の話になります。それ以来、一度も観測できていません。ただ、この40年間でニュートリノ観測装置の性能は飛躍的に向上しています。もし今、大マゼラン雲と同じくらいの距離で超新星爆発が起きれば、当時とは比べものにならない量のニュートリノを検出できるはずです。そうなれば、爆発の瞬間に星の内部で何が起きていたのか、その情報もこれまで以上に詳しく読み解ける可能性があります」

キャンパス内で佇む中村航先生

私たちの身の回りにある元素はどこから来たのだろう

Who are you? Where does this world come from?

中村准教授が宇宙に興味を持った最初のきっかけは、1986年、ハレー彗星の接近に合わせて、父親が望遠鏡を買ってくれたことだった。小学1年生の頃だという。

「結局、ハレー彗星そのものはうまく見ることができませんでした。しかし、その望遠鏡で毎晩のように月のクレーターを眺めていたことは、今でも覚えています」

ただ、小学校、中学校と進む中で、特別に宇宙へ強い関心を持ち続けていたわけではなく、「将来は宇宙物理学者になる」と考えていたわけでもなかったという。転機となったのは高校時代だった。

「物理学を面白いと思っていました。とくに理論に基づいて未来を予測できる点です。化学や生物のように覚えることが多いというより、理論を理解すると、そこからいろいろな現象へ応用していける。それが自分には合っている気がしました」

その理論を広げる舞台として選んだのが、宇宙だった。大学では宇宙物理学を学び、専門科目も早い段階から積極的に履修していった。また、大学1年次の英語の授業で読んだ哲学書『ソフィーの世界』も現在の研究につながるきっかけになった。

「この本では、『Who are you?(あなたは誰か)』『Where does this world come from?(世界はどこから来たのか)』という、とても根源的な問いが繰り返し投げかけられます。そうした問いから、世界や私たちの身体をつくっている物質、つまり元素は、どこから来たのだろう。そう考えるようになったんです」

そうした関心の先にあったのが、超新星爆発だった。超新星爆発は、宇宙に存在する多様な元素を生み出し、宇宙空間へ広げる重要な役割を担っている。人間の身体を構成する元素の起源にも深く関わる現象だ。

「超新星爆発は、とてつもないエネルギーで起こる現象です。しかし、『なぜ爆発するのか』については、まだ十分にはわかっていない。一方で、宇宙ではありふれた現象として、どこかで起き続けている。その不思議さに惹かれました」

いつまで経ってもわかるようにならないのが宇宙物理学の魅力

超新星爆発の理論研究に情報科学を応用していきたい

宇宙物理学の理論研究者の役割は、物理法則に基づいて宇宙で起こる現象を予測し、その理解の道筋を示すことだと中村准教授は語る。

「理論研究者は、『こうなるはずだ』という仮説や予測を提示する。一方、観測研究者は、その予測を手がかりに『どのような観測を行うべきか』『どのような検出器が必要か』を考え、実際の宇宙に向き合う。また逆に、観測で新しい天体現象が発見され、理論で説明してみろと迫る。理論と観測は、お互いに影響を与え合いながら進んでいきます。だからこそ、両輪としてお互いが必要であり、現在の天文学の発展につながっているのです」

1987年、日本の観測装置カミオカンデが世界で初めて超新星由来のニュートリノを検出した出来事も、その一例だった。今後の研究では、ニュートリノや重力波に関する理論予測をさらに発展させていきたいと考える一方、もう一つ、新たな挑戦を見据えている。情報科学の手法を超新星研究へ応用することだ。

「桜美林大学では、物理学や天文学ではなく、情報科学の教員として着任しました。そうした背景もあって、これまで行ってきた研究に情報科学の技術をさらに取り入れていけたらと考えています」

具体的には、機械学習を用いてシミュレーションの精度向上を図ったり、長年蓄積してきた膨大なデータの中から、新たな法則性を見つけ出したりすることを構想している。

「これまでの研究では、コンパクトネスや密度ジャンプが重要な指標だと考えてきました。ただ、私が持っている大量のシミュレーションデータをAIに学習させて、『星の構造と爆発結果を最もよく説明する要因は何か』とうまく問いかけられれば、人間がまだ気づいていないパラメーターを見つけ出してくれるかもしれません」

大量データを活用する情報科学的なアプローチは、観測分野では少しずつ広がりつつある一方で、理論研究の世界では、まだ大きな可能性が残されているという。また、宇宙物理学は未解明の問題が数多く残っている分野だが、中村准教授はそれこそが魅力であると話す。

「大学1、2年次の頃には、科学雑誌『Newton』を手に取り、掲載されていた美しい天体写真に見入ることもありました。単純に、宇宙ってきれいだなと。しかし、ある時期から『もっと知りたい』という知識欲に変わっていったことを覚えています。天文学は、世界最古の自然科学とも言われています。本当に宇宙を理解しようとすると、物理学だけでは足りません。あらゆる知識が必要になります。いつまで経ってもわかるようにならないし、できるようにもならない。しかし、だからこそずっと続けられる。そこが、この研究の魅力だと考えています」

教員紹介

Profile

キャンパス内で佇む中村航先生

中村 航准教授

Ko Nakamura

1980年生まれ、熊本県出身。博士(理学)。京都大学理学部宇宙物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。福岡大学理学部物理科学科助教を経て、2026年4月より桜美林大学リベラルアーツ学群准教授。専門は宇宙物理学、とくに超新星爆発の理論的な研究に取り組んでいる。

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