整数論の「代数的整数論」が専門
整数の性質を追究する「整数論」とは?
-2,-1,0,1,2,...のように、0および0に1を足したり引いたりして得られる数のことを「整数」と呼ぶ。一見するとシンプルで、多くの人にとって馴染み深い数だが、実はまだ整数に関してわかっていないことが多い。
整数の性質の鍵を握ると言われているのが「素数」だ。素数とは「1とその数以外では割ることができない2以上の数」のことで、2,3,5,7,11,13,17,..などが相当する。どんな正の整数もいくつかの素数の掛け算として表せることから、素数の性質を解明することが整数論の大きな目標の一つとなっている。
こうした「整数論」の中でも特に「代数的整数論」を専門としているのが、リベラルアーツ学群の國府田玄基助教だ。
「代数的整数論とは、文字や記号を用いた数式や方程式、集合と演算から定まる群、環、体などの代数的構造などを用いて、伝統的な整数論の問題に迫る学問です。たとえば、素数(p)を『x²+y²』という2次式で表すとします。5という素数であれば『p=1²+2²』で表現でき、13という素数であれば『p=3²+2²』で表すことができます。一方で、同じ素数でも7や11は『x²+y²』という2次式で表現することができません。実はこうした素数の法則ははっきりとわかっていて、5や13のように4で割って1余る素数であるときは『x²+y²』のような2次式で書くことができる一方で、7や11のように4で割って3余る素数のときは、『x²+y²』のような2次式で表せません。素数が現れる間隔について解明した人は今のところいませんが、4で割った余りを見るだけで規則性がわかることは非常にユニークで、素数の規則性を示す強力な手がかりとなります。私はさらに複雑な2次式を用いて整数の謎に迫る研究を行っています」
博士課程で取り組んだ「逆ガロア問題」
複雑な2次式を用いて整数の謎にアプローチする「代数的整数論」を専門とする國府田助教。博士課程では「逆ガロア問題」に取り組んだ。
「逆ガロア問題」について触れる前にまず「ガロア理論」について説明したい。ガロア理論とは、現代数学の中でも強力で美しい理論の一つで、方程式の解の対称性を「群」という代数的な道具を使って調べる数学理論のこと。このガロア理論のもとでは、方程式を与えたときに、方程式の解を適切に入れ替えるルールとして「有限群*1」というものが与えられることになっている。
「逆ガロア問題」は、ガロア理論のように、まず「方程式」を与えるのではなく、先に「有限群」というルールを与える。そのうえで「有限群」というルールに従って、解が適切に入れ替えられる「方程式」があるのかという問いを投げかけるものだ。
このように、無数に存在するすべての有限群に対して適応できる公式があるのかについてはこれまで明らかになっておらず、逆ガロア問題は“未解決問題”の一つである。
「この『逆ガロア問題』の一つとして、位数32のある群をガロア群とするような方程式を具体的に記述する方法について、博士課程では指導教員であった東京理科大学の木田雅成先生との共同研究に取り組みました。その研究の過程で、似た性質を持つ群を同時に扱う手法に出会いました。有限群論では、ある程度可換の度合が似た有限群を一塊の『同質 (isoclinism class)』と捉える概念があって、それが逆ガロア問題と相性がよかったんです。」
その成果を記した論文が『Isoclinism classes of Galois groups of number fields(数体のガロア群の同質類について)』だ。
同研究では、1つの塊(同質)内にあるいずれかの有限群に方程式が得られた場合、同質な有限群にも方程式を与える手法を明らかにした。
*1 元の数が有限個である群のこと
日常生活に数多く潜む数学を用いた技術
予備知識がない学生の中には数学に対してハードルを感じる人もいるかもしれない。しかし、日常生活の中には数学の研究を応用した技術が数多く潜んでいる。たとえば、インターネット上で第三者に情報を傍受されないように用いる「RSA暗号」には素因数分解が用いられている。素因数分解とはある自然数(正の整数)を素数の掛け算で表したもの。素数の性質が完全に解明されておらず、素因数分解を行うのに時間がかかる性質を利用して第三者によるアクセスを防いでいる。また、2乗するとマイナスになる数「虚数」は平面の回転を記述するのに有効である。それをさらに拡張した「四元数」は、空間の回転を表すことができる。この性質を利用して、3Dグラフィックスでは、映像の回転の際の計算式に用いられるなど、数学領域の知識は、目に見えないながら私たちの生活に取り入れられているのだ。
「整数論」の奥深さに魅了されて
高校の物理が数学に関する興味の入り口に
数学の中でもとりわけ代数的構造を扱う國府田助教。幼い頃から算数と理科が好きだったというが、当初は数字以上に“目に見える世界”に興味を寄せていた。
「子どものときは自動車の図鑑や顕微鏡写真を集めた写真集などをずっと眺めていました。自然界や自分の身の回りにある工業的な製品や建造物など、目に見える世界に惹かれていた気がします。算数の単元でも、現在専門としている代数に関連する足し算、引き算、掛け算、割り算といった『計算規則』よりも、ビジュアルとしてわかりやすい『図形』のほうが好きでした」
そんな國府田助教が数学の数式に興味を持つようになったのは、高校の物理の授業だった。「ものが落下する」といった現象やものの性質を数式で表せることがおもしろいと感じ、数学に興味を持ち始めたのだという。物理を入り口として数学の魅力に惹かれていった國府田助教は教科書に書かれていることはもちろん、図書館から借りてきた数学の本に書かれている知識まで、自分が抱いた疑問を数学教諭に尋ねた。
「数学の先生も私の疑問に非常に親身になって答えてくださる方で、ありとあらゆることを質問させてもらいました。教科書に載っている内容について質問する生徒はいても、図書館から借りてきた本に載っている内容まで質問する生徒は珍しかったためか、『お前は研究者にでもなれ』と言ってくださいました。半ば冗談だったのかもしれませんが、私が研究者という生き方を意識する大きなきっかけの一つになりました」
専門分野を定めるきっかけとなった
「1冊の本」との出会い
数学の魅力にとり憑かれた國府田助教は、東京理科大学理学部第一部数学科に進学。大学で数学のさまざまな分野に触れる中で、とりわけ「代数学」に関心を寄せ始める。
代数学とは、計算規則に注目して数学の理論を作っていく数学の一分野のこと。既存の整数や分数に関する規則を用いて新たな公式を生み出せることに研究のおもしろみを見出すうち、「代数学」を応用して整数の謎に迫る「代数的整数論」へと接続していったという。
「代数学を使って整数の謎を解き明かそうとすると、さまざまな代数的構造を用いる必要があります。これまで触れてきた『多項式*1』や『有限体*2』のすべてが整数につながっていくことに気づき、整数論の懐の広さや奥深さに魅了されました」
大学3年次からは「整数論」を専門とする木田雅成先生の研究室に所属。その後、同大学大学院理学研究科数学専攻の修士課程、博士課程ともに木田先生のもとで研究に邁進することとなる。
國府田助教が現在専門としている「代数的整数論」を本格的に探究していく大きなきっかけとなったのは、学部時代に研究室の課題図書の1冊に指定されていたD. Coxの『Primes of the Form x²+ny²: Fermat, Class Field Theory, and Complex Multiplication(x²+ny²のかたちの素数:フェルマー、類体論、虚数乗法)』だった。
「シンプルな疑問から始まり、読者が迷わないように一歩一歩導きながら数学の最も深い場所へとたどり着く“物語”のような構成でした。最初は17世紀の数学者・フェルマーが提起した『2つの整数の2乗の和、つまり p =x²+y² のかたちで表せるのはどのようなときか』のように非常にシンプルな問いとともに簡単な性質が提示されます。しかし、物語が進むうちに問いの難易度も上がり、新たな代数学の道具が提示されていきました。難易度は増しますが、各章の冒頭で問題提起がなされているため、答えが知りたい一心で夢中で読んでいた記憶があります。素数と2次式の関係が少しずつ明らかになっていく過程に触れたことは、私の研究における大きな原体験の一つとも言えるかもしれません」
*1 数や文字の積だけで表された「単項式」の和で構成されたもの
*2 要素の数が有限個であり、加法、減法、乗法、除法といった四則演算が定義されて閉じている数学的な構造のこと。計算機科学や暗号理論の分野では「ガロア体」とも呼ばれる
頭を使って自分なりの解を導き出してほしい
一見するとシンプルながら、未だ解明されていない謎が多い整数。指で数えることはできるが、実際には私たちの頭の中にしか存在していない。いわば実体がないにもかかわらず、規則を見出すことができ、他の人との間に同じ性質を共有することができる。そこに数学の神秘とおもしろさがあると語る國府田助教。
また、長きにわたって向き合っても答えが出ない苦しみもあるが、その性質の一端に触れたと感じるときに研究の喜びを感じるとも語った。そうした数学の研究に携わる立場から、学生に対してこのようなメッセージを送ってくれた。
「AIがなんでも教えてくれる時代になり、物事をあまり深く考えずに行動選択をする人が今後ますます増えてくることを危惧しています。一方で、数学は基本的には人の頭で考えなければいけないものです。必ずしも数学的な思考である必要はありませんが、自分一人で、あるいはさまざまな人と話し合いながら、自分なりの考えを持てるようになってほしい。一人ひとりがそうした意識を持って行動することが、多様で豊かな社会につながっていくのではないかと考えています」
教員紹介
Profile
國府田 玄基助教
Genki Koda
1992年、東京都出身。2015年 東京理科大学理学部第一部数学科卒業。2017年 同大学大学院理学研究科数学専攻修士課程修了。2020年 同大学院理学研究科数学専攻博士課程修了。博士(理学)。専門は代数的整数論で、特に二次形式による素数の表現や類体論に関する研究を専門としている。ガロア理論などの抽象代数学の手法を用いて、古くからある数論の難問に迫っている。
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