専門は「英語教育」と「応用言語学」
学部時代はコンピュータサイエンスを専攻
30年以上オレゴン州を拠点に活動してきたエイケンソン・エイミ特任講師は、現在桜美林大学リベラルアーツ学群で英語の科目群を担当している。専門は英語教育および応用言語学。特に「コーパス言語学」を活用した自律的な学習、ディスレクシア(読字障害)などの学習障害が言語習得に与える影響、教育における異文化コミュニケーションの役割などに関心を持っている。「コーパス言語学」とは、大量の言語データ(コーパス)をもとに、言語の特徴や使い方を分析する研究分野だという。
「世界がますます多文化社会になっていく中で、第2言語を習得し、文化の違いを理解できる学生は、社会や職場において大きな強みを持つことになるでしょう。私自身も日本や日本語、日本文化について学んでいる最中なので、現在は特に異文化コミュニケーションの側面に関心を持っています。アメリカと日本の教育スタイルの違いを実際に経験しながら、日本におけるより効果的な英語学習について考えています」
エイケンソン特任講師は、大学でコンピュータサイエンスを学び、キャリアをスタートした。もともと数学や問題解決が好きで、この分野を専攻したが、一方で人と関わることや教育にも強い関心を持っていた。データベース管理の会社で数年間働いた後、育児のために現場を離れ、この期間に図書館勤務や英語教育のボランティアを経験。ここで、「人と関わる仕事をしたい」という思いが強くなり、言語教育の道へ進む決意をする。
「子育てを経てキャリアを見直した際に、自分が本当にやりたいことは何かを考えた結果、『人を支える仕事』『コミュニケーションを中心とした仕事』に惹かれるようになりました。きっかけになったのは、地域の移民の方たちに英語を教えるボランティア活動に参加したことです。ここで言語学習は生活や将来に直結するものであることを強く感じました。両親が中南米育ちでスペイン語に堪能なこともあり、私自身も少しスペイン語を話します。そうした環境から、幼少期より外国語には常に興味を持っていました。その後、言語学を学び、教育についての専門的な訓練を受けるため、大学院に通い、応用言語学とTESOL(英語教授法)の修士号を取得しました」
大量のデータで言語を分析する「コーパス言語学」
大学院で出合ったのが、現在も専門のひとつである「コーパス言語学」。これは大量の言語データを分析し、実際の言語使用を明らかにする研究分野だ。コーパス言語学は、もともと専門だったデータベース管理のスキルが活かせることもあり、エイケンソン特任講師は深く研究に取り組むようになっていく。大学院時代に取り組んだテーマの一例が、「土木工学分野における定型表現の比較研究」。ここでは、学生のレポート、研究者による学術論文、そして実務者が作成する報告書の3種類の文章表現を比較分析した。
「この研究では、それぞれの文書においてどのような表現が使われているのかをコーパスデータによって分析しました。興味深いのは、学術論文と実務文書では求められる表現が異なるという点です。学生はしばしば論文の表現をそのまま模倣しがちですが、実際の職場ではより実務的で異なる言語使用が求められます。この違いを可視化することで、学生がより現実的なライティングスキルを身につけるための手助けができると考えました」
コーパス言語学は、こうした「実際に使われている言語」を客観的に示すことができる点で外国語学習とも親和性が高いと考えた。そこで、最終的には、言語学習者が自ら学ぶ(自己主導型学習)ためのツールとしての活用を目指したが、高品質なコーパスは初心者には扱いが難しく、その点は今後の課題として残っているという。
大学院では、ディスレクシア(読字障害)などの学習障害を持つ学習者への言語教育支援の研究にも取り組んだ。これは当時10代だった娘がディスレクシア(読字障害)と診断されたことがきっかけだった。
「学習障害のある学生にとって、外国語学習は特に困難であることが多く、どのように支援できるかを過去の研究などを調べながら模索しました。その後、視覚障害のある学生の指導なども経験しながら、学習者の多様性に対応した教育について、引き続き研究しています」
AI時代に言語を学ぶ意義とは?
言語を学ぶことで世界の見え方が変わる
AIによる機械翻訳の進化により、最近は「言語学習はもう要らない」といった言説をメディアで見かけることも多くなった。こうした時代における言語学習の価値について、専門家であるエイケンソン特任講師はどのように考えているのだろうか。
「AIや機械翻訳は非常に便利で、私自身も日常的に活用しています。特に異なる言語環境で生活する中では、その有用性を強く実感しています。一方で、語学学習の価値がなくなるとは考えていません。AIは『答え』をすぐに提示してくれますが、『学びのプロセス』を支えるものではありません。教師は、どのタイミングで助けるべきか、どこで学習者に考えさせるべきかを判断しながら指導しますが、これは現時点ではAIには難しい役割です。また、言語学習には人と人との関係性が大きく関わります。教師が学生一人ひとりを理解し、成長を見守ることには大きな意味があると考えています」
さらに重要なポイントとして、「言語を学ぶことで世界の見え方が変わる」という点も強調する。ある言語にしか存在しない表現や概念に触れることで、物事の捉え方や感情の理解が豊かになる。これは単なる翻訳では得られない経験だろう。言語を学ぶことは、情報を得る手段であるだけでなく、人と深くつながるための手段であり、人間的な成長にもつながるものだとエイケンソン特任講師は考えている。
誰もが英語を学びやすい環境を整えたい
すべての学生が異文化コミュニケーションを
学ぶ機会を持つことが重要になる
異文化コミュニケーションや障害者を含む多様な学習者への支援は、日本においても注目されている分野だ。今後、エイケンソン特任講師は、桜美林大学でどのような教育を実現したいと考えているのだろうか。
「まだ日本の教育環境について学んでいる途中ではありますが、いくつか大切にしたいと考えていることがあります。まず、異文化コミュニケーション教育の重要性です。文化によってコミュニケーションの方法や価値観は大きく異なります。時間の捉え方、上下関係、発言の仕方など、こうした違いを理解することは、誤解や対立を防ぎ、より良い関係を築くために不可欠です。すべての学生がこうした視点を学ぶ機会を持つことが望ましいと考えています。また、多様な学習者に対応する教育も大切です。学生はそれぞれ異なる背景や特性を持っています。その違いを前提とし、誰もが学びやすい環境を整えることが、これからの教育には求められていると考えます」
リベラルアーツ学群での英語の授業を通して、日本の学生は一般的に授業中に発言する機会が少なく、自分の意見を表現することに慣れていないと感じることも多いという。語学学習においては、実際に話し、試行錯誤することが不可欠。そのため、安心して発言できる環境をつくり、学生が自分の考えを表現できるよう支援していきたいと考えている。
「言語教育は単なるスキル習得ではなく、人とつながり、世界を理解するためのものです。学生がより広い視野を持ち、多様な社会で活躍できる力を身に付けられるような教育を実現していきたいと考えています」
教員紹介
Profile
エイケンソン エイミ特任講師
AKENSON, Amy
1974年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。1997年 オレゴン州⽴⼤学 コンピュータサイエンス専攻卒業。学⼠(B.S. Computer Science)。IT企業勤務を経て、2021年 ポートランド州⽴⼤学大学院修⼠課程修了。修⼠(M.A. Applied Linguistics/TESOL)。専門は英語教育、応用言語学。「コーパス言語学」「学習障害支援」「異文化コミュニケーション」などの研究に取り組んでいる。
教員情報をみる<at>を@に置き換えてメールをお送りください。