• グローバル・コミュニケーション学群

    グローバル・コミュニケーション学類

徐 映京 助教

SEO, Youngkyoung

徐先生がインタビューに応じる様子
  • フェイクニュースや緊急時報道と、人々の意識・行動との関係を研究
  • 日本への交換留学を機に、メディア研究を深めて大学教員の道へ
  • メディア研究と語学教育を通じて、情報を読み解き表現する力を育成
徐先生がインタビューに応じる様子

情報の広がりと人々の行動を捉えるメディア研究

流行現象から始まった
情報と行動への関心

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて、情報が瞬く間に広がる時代。私たちは日々、数えきれないほどの言葉や映像に触れながら、その情報が信頼できるものなのか、どのように受け止めるべきなのかを判断している。 
グローバル・コミュニケーション学群の徐映京助教は、メディア研究、情報通信論、コミュニケーション論を中心とする領域を専門としている。とりわけ注力しているのは、日本と韓国を主な対象に、フェイクニュースや流行現象など、情報が人々の間でどのように広がり、受け止められるのかについての研究だ。
研究のきっかけとなったのは、韓国の若者たちの間で、似たような服装が一斉に広がっていく様子を目にしたことだったという。
「なぜ人は周囲と同じものを選び、同調するのかと疑問を持ち、関連する理論を調べるなかで、こうした心理はフェイクニュースを共有する行動にもつながるのではないかと考えました。インターネットが普及していく過程では、その使い方をめぐるルールや規範が十分に共有されていない時期もありました。そのなかで人々がどのように情報を受け取り、共有するようになったのかを、日本と韓国の比較を通じて研究しています。今後はSNS以外のメディアや、日常生活における情報行動にも対象を広げたいと考えています」

3か国の比較から見えた
フェイクニュース規制への意識

具体的な研究成果の一つが、日本、韓国、タイの3か国を対象に、フェイクニュースの規制に対する人々の意識を比較した論文「Lesser evil? Public opinion on regulating fake news in Japan, South Korea, and Thailand – A three-country comparison」だ。
共同研究では、3か国に暮らす18〜59歳の計5,218人を対象にオンライン調査を実施。フェイクニュースが社会に及ぼす影響をどの程度深刻に捉えているか、ファクトチェックサイトを利用しているか、情報の規制を支持するかなどを分析した。
その結果、3か国に共通して、フェイクニュースが社会に大きな害を与えると考える人ほど、規制を支持する傾向が見られた。一方、ファクトチェックサイトの利用と規制への支持との関係には、国による違いが表れた。日本と韓国では、ファクトチェックサイトを利用する人ほど規制への支持が弱まる傾向が確認されたが、タイでは同様の傾向は見られなかった。
こうした違いの背景には、それぞれの国における政治やメディアを取り巻く環境があるのではないかと、徐助教は見ている。論文では、日本と韓国に比べ、調査当時のタイでは言論や表現をめぐる制約が強かったことも、国による違いの背景として考察されている。  
 
しかし、フェイクニュースを規制することには、人々の意識とは別の難しさもある。
「フェイクニュースの規制にあたっては、誰が何を真実と決めるのかという問題があります。テーマによっては、一つの情報を明確に『正しい』『間違っている』と判断することが、ほとんど不可能な場合もあります」
だからこそ重要になるのが、誰かが正解を一方的に示すことではなく、人々が判断材料となる情報にアクセスできる環境だ。
「法律や機関が正しさを決めるというよりも、人々が判断するための材料となる情報へのアクセス環境を整えることが大切だと思います。国や報道機関には、ファクトチェックを担う体制の整備や、情報を検証する取り組みに力を入れてほしいです。情報を受け取る側も、一つの媒体だけを見るのではなく、新聞やニュースサイトなど、触れる情報源の種類を広げていく。そうした積み重ねが、長い目で見れば情報を読み解く力につながると思います」

コロナ禍における
報道と人々の予防行動を分析

徐助教は、感染症の流行時に、メディアから発信される情報が人々の意識や行動にどのような影響を与えるのかについても研究している。その成果の一つが、共著『デジタル変革時代の放送メディア』(勁草書房)に収録された「コロナ禍におけるメディア情報と人びとの自発的行動」だ。 
この研究では、政治や社会問題を事実に基づいて伝える「硬派報道(ハードニュース)」と、生活情報や娯楽性を交えながら身近な言葉で伝える「非硬派報道(ソフトニュース)」に着目した。
分析にあたっては、危機に直面した人が情報をどのように受け止め、行動を変えていくのかを捉える「EPPM(Extended Parallel Process Model)」というコミュニケーション理論を採用。同理論をもとに、メディアから得た情報が、感染症への不安や危機感にどう結びついたのか。さらに「自分にも対策ができる」と思える効力感が、感染を防ぐための行動とどのように関連していたのかを検討すべく、首都圏に住む20~60代の3,100名にアンケートを実施した。
 
アンケートでは、新型コロナウイルスに関する情報をどのような媒体から得ていたのか、ハードニュースやソフトニュースにどの程度触れていたのか、また、それらをどのように評価していたのかについて尋ねた。あわせて、感染症に対する恐怖や脅威の感じ方、自分の行動によって感染リスクを下げられるという感覚、これまでに取った予防行動や今後の行動意向なども調査した。
研究を始めた当初、徐助教らの研究チームは、先の見えない状況だからこそ、生活者に近い視点で情報を届ける非硬派報道が、人々が必要とする情報を補う役割を果たすのではないかと考えていたという。しかし、分析から見えてきたのは、当初の予想とは異なる結果だった。非硬派報道よりも、硬派報道への接触のほうが、感染を防ぐための行動と強く関連していたのである。
「コロナ禍では、何を信じればよいのかわからない状況が続いていました。そのため、人々は普段以上に、自分が信頼できると考える情報源を頼りにしていたのではないかと思います」
一方で、徐助教は、この結果から非硬派報道の役割が小さいとは言い切れないと考えている。専門的な情報をかみ砕き、生活者が理解しやすい形で届けることもまた、メディアが担う重要な機能だからだ。
「硬派報道と非硬派報道のどちらか一方が優れているということではありません。危機の際に、人々が何を知りたいのか、どのような伝え方であれば理解し、行動につなげられるのか。それぞれの報道が果たす役割を考えていく必要があると思います」
Column

日本で独自に発展した昼のワイドショー

「非硬派報道(ソフトニュース)」の1つに、日本における昼のワイドショーがある。徐助教によれば、昼の2〜3時間、複数の地上波チャンネルで同じ時間帯にワイドショー形式の番組が放送されている状況は、他国と比べても珍しいという。芸能や生活情報だけでなく、政治や社会問題も扱いながら、司会者やコメンテーターが原因や背景をかみ砕いて伝える。目で見てわかる情報を交え、複雑な出来事を生活者に近い言葉で届ける点に、日本の情報番組ならではの特徴がある。

日本での学びを通じて
メディア研究の視野を広げる

徐先生がインタビューに応じる様子

メディアの受け手への関心を育んだ大学時代

幼い頃から日本のアニメや日韓のアイドル文化に親しんできた徐助教。日本のカルチャーとの最初の接点となったのは『セーラームーン』だった。同作品は韓国でも放映され、当時小学生だった徐助教も夢中になったという。
その後、学業に力を注ぐなかで、日本のカルチャーに触れる機会は一時的に減ったものの、メディアへの関心は尽きることがなかった。大学では、メディア制作を中心に学ぶ学科へ進学。周囲には映像やコンテンツを「つくる側」に関心を持つ学生が多かったが、徐助教の視線は、少し別のところにも向いていた。
「メディアをつくる側に関心を持つ学生が多い学科に所属していながら、私はどうすれば受け手がスムーズに情報を受け取れるかという視点で物事を捉えていました。当時の指導教官にも『なぜ』と不思議がられましたが、当時から現在の研究テーマへの関心が芽吹きつつあったのかもしれません」
当時は将来の進路を明確に定めていたわけではなく、自分が面白いと思えるものを探しながら、学びの幅を広げていったという徐助教。メディア関連の授業に加え、経営学も学び、日本の文化や社会への関心から日本学にも取り組むなど、自身の関心に沿って、領域を横断しながら学びを深めていった。 

交換留学で出会った授業が
大学教員を志すきっかけに

大学で自身の関心に沿って学びを広げてきた徐助教は、日本の文化や社会についてさらに深く知るため、学部在学中に横浜国立大学への交換留学を決めた。 
留学先では産業心理学のゼミに所属した。人の心理や行動を理論的に捉える学びは、もともとメディアの受け手に関心を持っていた徐助教の問題意識とも重なるものだった。 
なかでも、徐助教の将来を考えるうえで大きな転機となったのが、行動科学の授業を担当していた教員との出会いだった。
「授業では、何かを買うときに、人はなぜそれを欲しいと思い、購入するのかといった行動を、社会心理学の理論から考えていました。先生は理論を説明するだけでなく、学生にとって身近で、興味を持てる事例と結びつけながら話してくださったのです。大人数を対象とした講義でしたが、一つひとつの話がとても興味深く、また受けたいと思える授業でした。私も、学生にそう思ってもらえる授業をしたいと考えるようになり、大学教員を目指すきっかけになりました」
産業心理学のゼミでは、日本と韓国の大学文化の違いについて発表し、ゼミ生と議論を重ねた。また、入学直後に見た自主公演をきっかけにモダンダンス部へ入部するなど、勉学以外でも新しい環境へ飛び込んだ。ダンスは趣味として経験した程度だったが、週4回の練習や朝練にも参加し、神戸で開かれた全国大会の舞台にも立った。
「日本の大学における部活動がこれほど本格的なものだとは知らずに入ってしまい、授業と練習で手一杯の日々を過ごしました。それでも、周りの皆さんが本当に優しく支えてくれて、最後まで一緒に大会に参加することができました。留学生活の中でも、ダンス部で過ごした時間はとても大きかったと思います」

大学院で深めたメディア研究と
情報社会への視点

留学を通じて、人の心理や行動を捉える理論が、メディアをめぐる現象とも深く関わっていることを知った徐助教。帰国後は学部での学びを終え、日本でメディア研究をさらに深めるべく、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科への進学を決めた。
大学院では、自身の専門である情報通信やメディア研究に取り組む一方、ゼミでほかの学生の研究に触れるなかで、情報格差や情報社会をめぐる幅広い問題へと視野を広げていった。
「ゼミでは、デジタル・ディバイドや情報社会で起きている現象について、文献を読みながら議論しました。ほかの学生の発表にも全員がコメントを求められ、『なぜそのように考えるのか』『別の理論も加えられるのではないか』と意見を交わしました。そうした経験が、自分の研究を多角的に捉える力につながったと思います」
2018年に修士課程を修了した後は、博士後期課程へ進学。フェイクニュースの拡散や規制に対する意識、放送メディアの役割などへ研究対象を広げ、現在につながる専門性を築いていった。

メディアと語学教育を通じて
情報と向き合う力を育む

徐先生が撮影に応じる様子

メディア研究と語学教育の接点を探る

今後、徐助教がさらに力を入れたいと考えているのが、日本と韓国を中心としたメディア文化や情報環境の比較研究だ。SNSの普及によって、流行や情報が国境を越えて、かつてない速さで広がる一方、その過程では誤った情報や偏ったイメージが拡散されることもある。
だからこそ、どのような情報が、誰によって、どのような意図のもとで発信されているのか。その内容が人々にどう受け取られ、社会にどのような影響を及ぼすのかを、丁寧に捉えていきたいという。
「日本と韓国は距離が近く、文化的に似ている部分も多い一方、同じ出来事でも報じられ方や受け止められ方が異なることがあります。そうした違いを比較することで、それぞれの社会やメディアが持つ特徴をより深く理解できると考えています」
また、近年はSNSを通じて語学の勉強に励む学生が多い点に注目し、そうしたメディアとの接点が学生の学習意欲やコミュニケーションの姿勢にどのように影響するのかにも関心を寄せている。これまでのメディア研究の土壌は、語学教育にも生かされていくだろう。
最後に、学生への期待を次のように語った。 
 
「学生には、メディアから発信される情報をそのまま受け取るのではなく、なぜこのように伝えられているのか、ほかの見方はないのかと考える習慣を身につけてほしいと思います。語学を学ぶことも、そのための入り口の一つです。異なる言葉や文化に触れながら、自分なりの視点を育み、自分の言葉で考えを伝えられるようになってほしいです」 

教員紹介

Profile

徐 映京助教

SEO, Youngkyoung

韓国出身。大学ではメディア、経営学、日本学を学ぶ。学部在学中に横浜国立大学へ交換留学し、産業心理学のゼミや行動科学の授業を受講。社会心理学の理論を通じて、人々の行動や情報の受け止め方に関心を深めた。帰国後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に進学し、メディア研究、情報通信論、コミュニケーション論を中心に研究を進める。2018年に同研究科修士課程を修了後、博士後期課程を修了。現在は、日本と韓国を主な対象として、SNSやマスメディアを通じて情報や文化がどのように広がり、人々に受け止められるのかを研究している。2023年に東京成徳大学国際学部国際学科助教に着任。2026年4月より現職。

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