• ビジネスマネジメント学群

    マネジメントプログラムマネジメント領域

  • 大学院

    経営学経営学研究コース

齋藤 泰浩 教授

Yasuhiro Saito

齋藤泰浩先生がインタビューに応じている様子
  • 国際ビジネス研究の複雑性を「距離」から読み解く
  • 企業経営の「両利き」概念を投資や文化、時間といった指標から検討する
  • グローバル化が進むなかで距離をどこから測るのか
齋藤泰浩先生がインタビューに応じている様子

国際ビジネス研究の複雑性を
「距離」から読み解く

国際ビジネス研究における「距離」とは何か

国際ビジネスは、その名の通り国境をまたいで展開される経営活動であり、研究対象としても極めて多面的で複雑である。戦略や組織、人的資源といったテーマはもちろん、CSR(企業の社会的責任)やCSV(共通価値の創造)といった理念的な側面も含まれる。この複雑性そのものが、国際ビジネス研究を特徴づける要素の一つと言える。

こうした複雑な国際ビジネスの現象を捉えるため、研究者たちは分析の視点として「4つのD」──すなわち、違い(Difference)、距離(Distance)、多様性(Diversity)、不均衡(Disparity)──を開発してきた。なかでも近年、ビジネスマネジメント学群の齋藤泰浩教授は、国と国との違いの総体のメタファーである「距離」に焦点を当てた研究に取り組んでいる。

「“距離”という概念には、単なる地理的な隔たりだけでなく、文化的・制度的な違いも含まれます。例えば、日本とアメリカは地理的に距離が離れていますが、その距離と文化的な距離、つまり違いとはイコールではありません。地理的に離れていても文化的に近いということもありますし、その逆もあります。また地理的な距離は不変で対称ですが、文化的な距離は時間の経過によって変わり得るし対称ではありません。つまり、日本企業からは近く感じても、米国企業からは遠く感じられる場合もあるのです」

さらに、こうしたメタファーとしての「距離」は、企業の特性やメンバーの属性や経験によっても変化する。例えば、ある日本企業がアメリカに進出する際、過去にカナダに進出した経験があったり、経営陣がアメリカの文化や制度に対する知識・経験を有していれば、文化的距離は実質的に縮まる可能性がある。あるいは、経営トップがアメリカ人に代われば、組織全体としての国際的な感度が高まり、従来の距離感が一変することもあるだろう。

加えて、時間も距離を考える上で重要なファクターだと齋藤教授は指摘する。例えば、現地市場で積んだ経験から獲得した知識は時間の経過とともに陳腐化したり、忘れられていく可能性がある。米国に進出したもののうまく行かず撤退し、10年経って再進出を試みるような場合、かつて培った経験が現在も有効とは限らない。対象国の文化や制度がこの10年で変化していれば、むしろ過去の経験が足かせになることすらある。

このように、「距離」は静的に測れるものではなく、常に動的で文脈に依存する。国際ビジネスを理解するうえで、「距離」という概念をどのように捉えるかは、国際化の意思決定に直結する重要な視点となる。齋藤教授の研究は、その複雑な距離の理解と測定と検証を通じて、国際ビジネス研究の本質に迫ろうとするものだ。

国際ビジネス研究における「両利き」概念を検討する

企業経営における重要な視点として、「両利き(ambidexterity)」という概念がある。これは、「探索(exploration)」と「深化(exploitation)」という、性質の異なる2つの活動を同時に追求し、バランスさせることを意味する。

探索とは、未開拓市場への進出や新技術の開発といった、将来の可能性を見据えた取り組みである。一方、深化は、既存市場での収益最大化や、蓄積された技術の活用といった、現在の強みを活かす活動だ。両者はしばしば対立関係にあるが、企業の長期的な成功には探索と深化のバランスが必要であることについてはコンセンサスがある。企業の国際化についても、既存の優位性の深化によってのみならず、新しい優位性の獲得という探索によってドライブされる。また、本国と似た文化を持つ国へ拡張する場合は文化に関する知識を調整したり(深化)、新しい文化ブロックの国へ進出する場合には異なる学習が求められたりする(探索)。国際ビジネス分野でも固有の両利きが提唱されたりしてきた。そして、ここにも「距離」というキーワードは不可欠だ。

「既存の能力・知識を移転して活用するのであれば、文化的に距離が近い国の方がスムーズにいくかもしれません。他方で、新たな能力の開発には向いていないかもしれません。どこで探索し、どこで深化し、バランスはどうするのか?その企業にとってどこが探索でどこが深化で、どのようにバランスさせるのか?探索と深化をどうやってバランスさせるかについてコンセンサスはまだないのです」

齋藤教授は、この国際ビジネスにおける探索と深化の関係を、FDIの目的と文化という2つの異なる領域(ドメイン)を組み合わせて捉える枠組みを提案している。それぞれのドメインには「FDI探索」と「FDI深化」、「文化探索」と「文化深化」があり、ドメイン内での両利きとドメインを越えた両利きを考慮することが可能になる。FDI(Foreign Direct Investment)とは、海外への直接投資を指す。つまり、企業の国際的な経営行動と、それに伴う文化的対応の両側面を交差的に分析する試みなのだ。

「国際ビジネス分野に両利き概念が持ち込まれてから約四半世紀になりますが、これまでの先行研究では、FDIの目的についての両利きと文化両利きが別々に扱われてきました。しかし、国際ビジネスの複雑性を考えると、それらを組み合わせて捉えることで、国際ビジネスに固有の両利きに対するより本質的な理解が得られると考えています。今はその測定方法について検討している段階です」

国際ビジネスにおける「両利き」概念について語る齋藤泰浩先生

「ドメイン内ではバランスが取れていないように見える海外展開もドメインをまたいでバランスが取れているかもしれません。従来のドメイン内の国際両利きよりも多様な両利き状態があり得ることになりますが、これまでパラレルに蓄積されてきた国際的な両利きに関する研究を統合する一歩となる可能性を秘めているかもしれません」

「模倣」が研究者になるきっかけだった?

直感的に「カッコいい」と思った国際ビジネス研究

齋藤教授が国際ビジネス研究に進むきっかけとなったのは、大学時代に履修した『国際経営論』の授業だった。担当していたのは、ゼミの指導教員でもあった衣笠洋輔先生。授業の内容が興味深かっただけでなく、研究に取り組む姿がカッコよく見えたという。

「衣笠先生は、日本企業の国際化をテーマに研究されていて、独自のモデルを構築されていたのも印象的でした。その影響は、今の自分にもあるかもしれません」

大学院では江夏健一先生の指導を受けた。もしこの出会いがなければ、自分は研究者にはならなかっただろうと齋藤教授は振り返る。江夏先生は、多国籍企業の組織や戦略など、多国籍企業の理論を研究されている先生だった。大学院に入ってから、日本企業の国際化にとどまらず多国籍企業や国際ビジネスに関する研究を学ぶとともに、研究者としてのものの見方を教わったという。

「大学院に進学した理由は立派なものではありません。理系の兄が大学院に進んでいたので、自分もいこうかなと。正直、マネをしたんですよ。しかし、このマネ=模倣というのは、国際ビジネス研究においても重要なキーワードだったりします」

マネすることが国際ビジネスにおいて重要とは?

「マネ」をするという行為が国際ビジネス研究においても重要なテーマであると齋藤教授は語る。とくに企業が海外に進出する際どの国や地域に進出するかを選択する立地選択に関する研究では、他社の行動を模倣することが重要な戦略の一つとされている。

「企業が地理的にも文化的にも距離の離れた国に進出する場合、現地市場に関する情報が不足していたり制度が未発達だったりして不確実性が大きくなります。そのとき、すでに進出している企業の行動を模倣することは、社会的に合理的な選択肢になります。過去の他社による進出の事実がその後の進出の正当性を高めるからです。模倣は、不確実性によるリスクを回避するための有力な手段なのです」

とはいえ、模倣にもタイミングが重要だという。海外進出の初期段階では先行企業の行動を模倣することが有効だが、時間の経過とともに、情報を収集するコストを節約したり不確実性を低減するという模倣によって得られるメリットは薄れてくる。

「すでに多くの企業が進出し、とくに同じ業界の企業の進出が増えると、現地の顧客や資源の争奪が活発になり、競争的だというシグナルを送ることになります。また、自社で経験を積んでいくと、意思決定において外部の手がかりに頼るのではなく、解決策を企業内部に求めるようになります。むしろ、経験から得られた知見を活用して、自らの判断で次の市場を選ぶことが求められます。つまり、時間の流れによって模倣の意義そのものが変化するのです」

このように、国際ビジネスでは「絶対的な時間の経過」と「個々の企業にとっての経験的な時間」の2つを意識する必要がある。模倣の価値は、まさにこの時間軸によって規定される。

「誰の行動を模倣するのかも重要です。兄は理系なので大学院進学が大学入学時から選択肢の1つであったのに対し、友人が次々と内定を獲得していくなか私は夏の大学院受験までひとり出遅れている感がありました。その意味では模倣する対象を間違ったのかもしれません。ただ、衣笠ゼミには中辻萬治さんが出入りしていたりして、学びや研究を大学で終わらせなくてもいいと思ったことも確かです。いざ進学してみると優秀なゼミ生に驚き、中途半端な動機で進学したことを後悔したこともありましたが、今日まで続けることができたのは江夏先生はもちろんのこと、先輩や後輩といった江夏ゼミのメンバーのおかげです。私の大学院進学という行為は成功だったと言えるのかもしれませんね」

複雑だからこそ
国際ビジネス研究は面白い

距離をどこから測るか──複雑な国際ビジネスのなかで模索する

国際ビジネスにおいて、企業の多国籍化はますます進行している。日本企業の経営陣や構成するメンバーの国籍が多様化し、海外でのビジネスへの依存度も高まっているため、単純に「日本企業」と一括りにすることが難しくなっている。

そうしたなかで、齋藤教授の研究における「距離」についても複雑性が増している。地理的距離や文化的距離の基準をどこに設定して測るのかは、企業の国際戦略において極めて重要な論点である。

「例えば、日本企業が新たにタイへの進出を考える場合、基準点を日本にしていいのでしょうか。過去にマレーシアに進出した経験があるかもしれませんし、そのマレーシア子会社ではタイ人の社員が活躍しているかもしれません。また、タイ人の学生が日本の大学で学び、卒業後日本企業に就職し、立ち上げメンバーの1人として母国であるタイに派遣されるというケースもあるでしょう。距離を測る基準点がどこか、という問いはますます複雑になっています」

つまり、海外子会社といった「拠点」の有無だけでなく、そこでの活動の内容や時間、人的資源の移動、そして全体としての国際経験まで含めて、「距離」という概念を再定義する必要がある。しかしながら、仮にその距離を的確に測定できたとしても、それをもとに企業に未来を予測するような提言をするのは簡単ではないと齋藤教授は語る。

「私の研究はどうしても“結論が出るのは先の話”なのです。タイミングや偶然も多分に影響する。ある企業の国際化が成功したとしても、それは結果的に探索と深化のバランスがたまたま良かったということかもしれず、そこに何らかの因果関係を見出すのは容易ではありません。しかし、複雑な現象を観察してそこに脈打つ法則性のようなものを発見するよう努力することは重要だと思います。」

「どこから距離を測るか」という問いに真剣に取り組むことが、今後の国際ビジネス研究における重要な課題であることは間違いない。企業それぞれの国際化経験を無視して、これまでのように日本を基準点としたままのモデルでは、グローバルに展開する企業の立地選択行動を正確に捉えることはできない。

「私たちの研究が現実のビジネスに役立つかというと、それは難しい面があります。しかし、日本から距離を測るだけでは不十分であり、企業の国際化の軌跡までも考慮に入れた“新しい距離の測り方”をつくり検証すること、またFDIの目的と文化という2つのドメインを組み合わせた国際両利き概念を考えることは、国際ビジネス研究として意義があると考えています。そうした作業から企業に対して何らかの示唆を与えることができればいいですよね」

キャンパス内で佇む齋藤泰浩先生

抽象度を上げて思考することで共通性を見出していく

桜美林大学における授業では、説明する際にスポーツの話をよく使うので、学生からは「またスポーツの話が始まった」と思われているかもしれないと齋藤教授は笑う。メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手の「二刀流」を例に、「国際ビジネスにおける両利き」の考え方を伝えることもあるという。

「大谷選手は、“投げる”と“打つ”の両方をこなしていますよね。同一試合内に投げて打つ、いわゆる『リアル二刀流』、投げる日と打つ日を分ける二刀流、今シーズンは投手、翌シーズンは打者という具合にシーズンごとに分ける二刀流、このうちどれがより二刀流なのでしょう?両利き研究でも、バランスを達成するのを助けるメカニズムの一つとして時間で分ける方法が示されています。もし片方に専念すれば、もっと高い成績が出るかもしれない。両方を同時にやることは困難で、かつてダルビッシュ選手は『大変すぎる』と語っていました。しかも、両方を非常に高いレベルで行っています。両方を同時にやることで、大谷選手を100年後も語り継がれるような選手たらしめ、観客には大きな魅力として映り、ドジャースへの貢献は計り知れません。二刀流に挑戦する人(模倣する人)は増えているようです。学生にとっても、大谷選手の例を通すと、抽象的な概念がぐっと身近に感じられるのではないかと思っていますが、桜美林大学がTOP8にいるアメリカンフットボールを例にして失敗することもよくあります。なので、先日のオープンキャンパスの体験授業では、スポーツから離れて『異世界から学ぶ国際ビジネス』という新しいネタに挑戦しました」

齋藤教授が大学の授業で重視しているのは、「抽象度を高めてものごとを捉える力」だという。国際ビジネスのような複雑で多様なテーマを扱うには、個別の事例を超えて、理論やモデルを通じた共通性の把握が必要だ。それは、日常の出来事や身近な事例を通じてでも鍛えられる。

「一見関係のなさそうな“野球の二刀流”と“国際ビジネスの両利き経営”も、視点を変えればつながります。異なる特徴を取り去っていくと、最後には共通の特徴が残ります。こうした共通性を見出していく力は、課題解決においてもとても重要です。1人の人間として経験することに限りがあるので、他の事例からヒントを得たり、先人の経験から導き出された理論やモデルが役に立つのです。そうした思考が、ビジネスマネジメント学群での学びのなかで身に付いてくれればと思っています」

齋藤教授は、大学院では国際経営を教えている。学生の多くは留学生だという。彼らは将来、日本企業に就職することもあれば、母国に戻って現地で日本企業との関係を築くこともあるだろう。

「留学生の日本での就活の難しさは重要な問題だと考えており、同僚の先生と一緒に研究に取り組み始めたところです。日本企業に就職できず、在日中国企業に就職するケースも少なくありません。中国企業にとって彼/彼女らはSIEs(Self-Initiated Expatriates:現地採用本国人。自らの意思で企業の支援を得ずに他国に移住し、現地で雇用されている個人)なわけで、当該企業の日本との距離を縮める役割を果たしそうです。他方、日本企業に就職した留学生が数年後に母国に帰国して現地法人で働く可能性もあります。彼/彼女らの存在が、企業の国際化の今後の捉え方に少なからず影響を及ぼしていくことでしょう。彼/彼女らの母国を出自とする新興国多国籍企業の台頭など、これから国際ビジネス研究はますます複雑になりますが、複雑だからこそ研究のしがいがあります。試行錯誤を重ね、抽象的に考えるとともに測定方法を現実世界と理論を行き来する。そんな知的な冒険をこれからも楽しんでいきたいと思っています」

教員紹介

Profile

キャンパス内で腰掛ける齋藤泰浩先生

齋藤 泰浩教授

Yasuhiro Saito

1968年新潟県生まれ。早稲田大学大学院 商学研究科 商学 博士課程単位取得満期退学。東京国際大学 商学部 専任講師、東京国際大学 商学部 助教授を経て、2014年に桜美林大学に准教授として着任。2018年より現職。国際ビジネス研究を専門として、近年は企業の立地選択行動や距離について研究を進めている。

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